これは前回の日記の続きとなります。
私が勝手に心の中で、本コミュニティ内の「マルチチャンネルオーディオの極北の一つ」とみなしているグランドスラム邸から東京に戻り、どうしても拙宅のシステムの音と比較してみたかったので、同じ音源を持って、仕事をうっちゃって(笑)翌日には伊豆に移動。本日までに試聴を終えました。グランドスラムさんにはお招きいただいたお礼として「報告書」を出すことをお約束していましたので、拙文ですがここにUPさせていただきます。
前回ご報告しました通り、グランドスラム邸はWilsonのグランドスラムとB&W 805による、5.(2).4、計11台という「ゾウ」軍団。対する(笑)拙宅は、SonusのSenetto & Amatorとヤマハ・Dynaudio・Fostexによる、9.(4).7.1の、21台による「アリ」さんチーム(笑)。
パワーアンプもJeffとKrellという「筋骨隆々アメリカン軍団」に対し、拙宅はNuprimeのデジアンとヤマハのマルチチャンネルパワーという、見比べれば完全に「もやしチーム」(恐らく消費電力量十分の一以下=笑)。
ただし、両チームの「監督」だけは、フランスはStormのISP MK2という、今売り出し中(?)、新進気鋭のAVプリで同一という条件。
この比較は実は結構普遍的なテーマを含んでいますよね。限られた予算でマルチチャンネルシステムを組む場合、スピーカーの数を減らして質を上げるか、スピーカーの質より量(数)を優先させるか。私の結論をここで簡単に述べれば、「目指す音、好みによって、どちらもアリ」と見ました。以下、扱った音源(試聴順)ごとにコメントしてみます。
Hans Zimmer (映画音楽。Liveコンサート) Atmos Native
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スネアドラムやベース、シンセサイザーの低音の、空気を揺るがす迫力。全域に渡るスピード感、キレ。これらの点は、グランドスラム邸の完勝です。あきらかに、スピーカーとパワーアンプの能力の差がはっきりと出るソースでした。グランドスラムさんは、アクション系の映画がお好きだそうで、銃弾が壁に当たる音のリアリティを追求したいとかで、まさに狙い通りの音になっていると思いました。
ただし、この作品はAtmos録音でMax9.x.6に対応しており、曲によっては、グランドスラム邸にはないワイドスピーカー、サランドバック、さらにはトップミドルを使っていることが出力モニターで確認できています。このようなソースだと音の密度感(後述)に影響を与える可能性はありますが、今回試聴した曲ではこのようなネガは全く気が付きませんでした。
Polarity (ピアノトリオ) Auro3D Native
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これは、私が持っている2Lのソフトの中では珍しくジャズ系のAuro3Dソフト。音が消え入るときの静謐感と、ピアノ・ベース・ドラムに囲まれているような音場表現が特徴的なソース。ある曲で右後ろ上あたりからドラムのスティックと思われる固い音が聴こえて、その音のリアリティが今まで聴いた記憶のない音だったので、「さすが、805を釣っているだけある」と、トップリアからの音だと思ってグランドスラム邸では聴いていました。しかし、拙宅に戻って聴きなおしてみると、この音はSBに振られていたのです。つまり、もっと下の、私の右後ろから音がする。音自体のクオリティは、明らかにグランドスラム邸の方が優れているのですが、音の定位場所が異なっているわけです。
なぜだろうと考えると、思い当たる理由はサラウンドスピーカーの位置と高さおよび構造。グランドスラム邸にはサラウンドバックSPがないので、SB用の音は、サラウンドスピーカーに割り振られています。そしてそのサラウンドスピーカーの位置が、グランドスラム邸の場合、ITUの5.1chの推奨位置(100-120度)よりさらに後方(目測で約135度くらいか?)にあります。そしてそのサラウンドスピーカーは巨大なグランドスラムなので、ツィーターの位置が私が立った時の喉当たりの高さにあります(試聴は椅子に座っていました)。しかも、先の日記に書いたように、スーパーツイーターが後ろの壁や天井に向かって付いているので、要は超高音はドルビーのEnabledスピーカーのようになっているわけです。だから高域の音には「高さ」が出てしまうのでしょう。
ご存知のように、Auro3DはAtmosなどのようなオブジェクト方式ではないため、スピーカーの位置(左右上下とも)に対して厳密で、音の定位位置はAVアンプによる補正(ごまかし)が効きません。拙宅はAuro3Dに特化していますので、スピーカーの位置は比較的Auroの定義に近いため、Auro3DのNativeソフトではこのような「制作者の意図せざる位置への音像定位」が起きにくいのです。
Organism (オルガン) Auro3D Native
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これは教会録音でオルガンをフィーチャーしたものです。これはグランドスラム邸のシステムが圧倒的に優れていました。拙宅では絶対に感じない、可聴帯域以下の「風」の流れに触れるほどでした。オルガンの場合は、教会全体が鳴りますので、方向性や定位感はあまり問題にならず、一つ一つの音の質と量が問われます。これはまさにグランドスラム(弩級SW含む)の独壇場でした。参りました(笑)。
The Planets (バーンスタイン、NYフィル、5.1ch SACD) Auro-Matic
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この作品は、通俗的な演奏ですが、私のお気に入りです。Nativeは5.1chなのですが、双方とも今回はこれをISPに内蔵されているAuro-Maticというエミュレーション機能を使って、Auro化して聴き比べてみました。
「火星」と「木星」を再生したのですが、やはり迫力、一音一音(例えば、コントラバスの弦を引く瞬間の音など)の音質の高さは比ではありません。しかし、これはスタジオではなくHall録音(Avery Fisher Hall)なので、Hall独特の「包まれ感」は、やはり、11台より21台のスピーカーによる方が優れた表現をします。私はNYに2年ほど住んでいたので、このリンカーンセンターは何度も行っていてそこの音空間は今も記憶に残っているのですが、この臨場感だけは僭越ながら拙宅のシステムの方がよく再現していました。
Hotel California (5.1ch SACD) Native
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言わずと知れた名曲で、これは5.1ch Nativeで聴き比べました。実はグランドスラム邸でこの曲を聴いた後に、「センタースピーカーに違和感がある」とお伝えしてしまいました。通常、こういうロックやジャズなどでボーカルが入っている音源の場合、5ch録音ではセンターにはボーカルだけを振ることが多いのですが、このソースは、ボーカルとドラムのシンバルがLRに加え、センタースピーカーにも振ってあるのです。ボーカルはいいのですが、シンバルの音と実体感にイマイチ感が。
このセンタースピーカーはWilson Audio製ですが、もちろんグランドスラムではありません。スクリーンにかからないように下部に設置してあり、恐らく、ツイーターと中低域用のダブルウーファーで構成されているようなおむすび型のスピーカーです。さらにグランドスラムさんによると、このセンタースピーカーだけ、ウエスギのセリフ(人間の声)再生に特化した真空管パワーアンプで駆動しているのだとか。試しにセンターだけで再生していただきましたが、確かに恐らく1Khzぐらいを中心にかまぼこ型の周波数特性になっている感じで、特にシンバルなどの高音は曇ってしまってほとんど出ていません。
グランドスラムさんのマルチチャンネルシステムは主に映画再生用に調整してあり、それゆえにこの「世にも珍しい?」アンプをわざわざあてがっているのですが、音楽再生の場合、少々これが裏目に出ることがあるような気がしました。拙宅の場合は、音楽再生中心のマルチなので、「アリの兵隊」ではありますが、その将校クラスが前に3台頑張っています。つまり、LCR同一スピーカーです。このソースのようにセンターにも高音が振ってある場合は、グランドスラム邸の場合はむしろセンターレスにして、グランドスラムでファントム再生した方がいい音がするのではないか、と申し上げておきました。実はISP MK2には異なるスピーカーレイアウトをConfigurationとしてファイルに保存して、使い分けることができるので、もしグランドスラムさんがこれを入手されたら、音楽を聴くときはセンターレス設定の方が(まあ、グランドスラムをもう一台買ってセンターとし、スクリーンをサウンド透過型にするというぜいたくな手もありますが=笑)いいかもしれませんね。
The Dark Side of the Moon (5.1ch SACD) DTS-Neural X
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これはご存知、映画のように音像が動き回るソフトです。実はこの比較はチートです(笑)。グランドスラム邸では、Nativeの5.1chで聴かせていただいたのですが、拙宅ではいつもDTS-Neural Xのエミュレーションを使って聴いています。これを用いると、拙宅のフロア層に配置してある9chすべてのスピーカーを使えるからです。
ゆえに全然Fairな比較ではありませんが(笑)、前後のつながりの音のスムーズさにおいては、「さすが4ch同一スピーカーだな」と、かつてベルイマン邸に伺ったときと全く同じ感想を持ちました。ただ、5chと9chの違いは大きく、人が走り回る音像や、Timeの冒頭の時計の音の散らばりなどの音の実体感が、ファントムとリアルでは同列に比べられるわけもありません。
さらにここで気になったのは、グランドスラム邸では、試聴位置の左右にあるべき音空間が抜けるというか薄くなる時があるのです。これは、ワイドスピーカーを入れる前の拙宅でも似たような現象を感じたのですが、つまり、フロントとサラウンドスピーカーの間の距離が広すぎるために生じるのだと思います。グランドスラム邸はほぼ拙宅と同じぐらいの床面積(容積は拙宅の方がある)で、部屋の前後の長さも同じくらいだと思うのですが、左右の前後グランドスラム間の距離は、恐らく5M近くあるのではないでしょうか。いくらグランドスラムが巨艦とはいえ、これだけ距離があると、いわゆる「中抜け・密度感」といいますか、前後に音をち密に移動させるのは難しいと思います。このソフトでは、左前方から左後方に抜ける音像、というような効果音がふんだんに盛り込まれているため、特に目立ってしまったのだと思います。
LUX (合唱、オケ、オルガン、教会録音) Auro3D
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最後は、拙宅の十八番の、教会録音合唱曲です。62nd GRAMMY Awards Winner 2020.で、Best Surround Sound Album に選ばれたAuro3Dの名作です。
これは、Voice of Godの威力が絶大なアルバムで、トップスピーカーのないグランドスラム邸に、さすがに空間感、高さ感で拙宅が劣るようなことがあったら大変です(笑)。これもある意味、Unfairな勝負でした(笑)。
総論
上記に何度も書いていますが、グランドスラム邸の方が一音一音のクオリティは圧倒的に高いです。物量とかけてきた情熱が違います(笑)。ただ、音色は好みがあると思います。ピアノの音も弦の音も違いがあり、Dirac Liveによる補正もそこまでは均していないので、WilsonとSonusの個性は残っています。
Immersive、という点においては、やはりスピーカーの数がモノを言うと思います。空間を満たす音量の総量自体は、むしろグランドスラム邸の方が多いぐらいですが、特にAuro3DではAVアンプが「ファントムスピーカーをVirtual創生」してくれませんので、その差は顕著です。Auro3Dに関して言えば、絶対にスピーカーは多ければ多いほど効果的です。
今回、グランドスラム邸に伺って、ものすごい音を聴かせていただきましたが、私が持ち込んだソフトの多くがAuro3D Nativeだったので、「マルチは映画メイン」というグランドスラム邸と、「マルチはAuro3D専用」という拙宅との比較は、まあ、正直、自分の得意な土俵に引きずり込んでいるので、反則負けですね(笑)。
あと、恐らくもっとも重要な違いなのでしょうが、その違いがどう音に反映しているのかが分からないので書きようがなかったのが、部屋の違いです。「最も重要なオーディオ装置」という方もいる部屋ですが、材質も形も違うので、その違いが出音に大きな影響を与えていることは想像に難くありません。
今回は映画を見る機会はありませんでしたが、グランドスラム邸で『TENET』なんか観たら(聴いたら)、失神しそうです(笑)。
最後に失礼する前に、「グランドスラムさんが最近一番気に入っている音源を聴かせてください」とお願いしました。するとPC経由でAmazon Music HDに接続し、スイス製の超高級(だそうです=汗)DACを通して、2chソースを聴かせていただきました。
演目は、「前川清」!
思わずのけぞりそうになり(笑)、「こういう歌謡曲って、ラジカセやカーステ用に、コンプレッサーというのをかけていて(完全にわか仕込みの知識です=笑)、音源の質としてはこのシステムにふさわしくないのではないでしょうか?」と恐る恐る伺いましたところ、グランドスラムさんの回答は明快でした。
「好きな音楽を聴く。そのためのオーディオでしょ」
ハッとしました。そして最近の自分を反省しました。ついつい、自分の聴きたい「音楽」ではなくて、システムの能力の限界を試せるような「音」を求めてソフトを探すようになっていたのではないか。ある人に、「オーディオを本気でやるならマーラーを聴かないと」と言われたことを思い出しました。これって、完全に本末転倒ですよね。「マーラーが好きだから、それをよりよく聴くためのオーディオシステムを構築する」べきで、オーディオシステムのために自分が好きでもない音楽を眉をしかめて聴くのは「本当の音楽」ではない。
今回、一番刺さった、グランドスラムさんのお言葉でした。ありがとうございました。上記主観的印象をご自身で確かめに、是非、拙宅にもお越しください。
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