前回まで5回に亘ってAcoustical SystemsのSMARTractorとAnalogMagikの Software & Test LPsを用いたアナログ・システムの調整について記しました。
前回の日記を書いた時点(6月9日)で、アンチスケーティングの調整も終了していたので、さっさと続きを書こうと思っていました。 ところが、VTA(アームの高さ)の調整をもう少し詰めようと弄ったことで幾つかの項目の測定値がガタガタになってしまいました。 その後、いくらVTAを調整しても元に戻りません。
特にアジマス測定値の左右偏差が改善しません。 右から左へのクロストークが何度測定しても有意に悪く、カートリッジが左下がりとなっていることを示唆しています。 SME Vはシェル固定式でトーンアームでのアジマス調整は困難です。プレーヤーの水平は事前に相当慎重に合わせています。
試しにカートリッジとシェルの間に片側だけ薄い紙を入れて補正してみるとアジマスの数字は一気に改善します。 紙の厚さを何度か変えると見事に左右の偏差が小さくなり、その時のVTAの歪率も大きく改善しました。
そこで気付きました。 アームの回転軸が垂直に立っておらずアームがきちんと水平回転していない?? Airforce Oneには水準器がビルトインされていますが、それは本体の左前方です。ターンテーブル上や幾つのポイントで水平を確認していましたが、アームボード上の水平確認を怠っていました。 SME Vの軸受けはナイフエッジ型ですから、アームの設置が完璧に水平でないとアームの回転面が傾きアジマスがずれてしまいます。
ということで、プレーヤーの水平調整をやり直し、アームボード周辺を特に厳密に合わせた結果、前回測定時点より全体的に特性が改善・安定しました。
その上でアンチスケーティング量を変化させて歪率の変化を見ます。
アンチスケーティングのテスト・トラックはA面の最内周、スピンドルから7cmから6cmの位置にあり、再生時間は丁度3分です。 前回触れましたが、内周に進むに従って歪率が上昇するので、アンチスケーティング量を評価するためには、同じ再生ポイントの数字で比較しないと意味がありません。
針圧は1.95g、トラックの最初から30秒、1分、2分、2分45秒の4つのポイントで測定しました。
[:image1:]
測定結果のポイントは:
• 針圧1.95gでは、アンチスケーティング量が1.50から2.25の間なら歪率の違いは測定誤差の範囲内と言える。
• アンチスケーティング量の増加とともに内周部分での右チャンネルの歪量が減少しているので、補正も測定も機能していると思われる。
• 1.00では最内周2分45秒のポイントで右チャンネルの歪率が1%を超えるが、それでも許容範囲。 2.50では全体的に歪率が高いがこれも許容範囲。
• アンチスケーティングの目盛り通りの設定がベストに近いことから、この目盛りはラインコンタクト系の針先を前提としていると思われる。 この点に関してSMEに確認しようと照会したのですが、「The anti-skate was not designed for a specific cartridge…」という何の意味も無い答えしか返って来ませんでした。
測定結果は数字としては概ね満足のいくものです。 しかしながら、期待していたような「アンチスケーティング量の変化による歪率の明確な改善」や「最適アンチスケーティング量を特定」できるような数値は得られませんでした。
今回の測定を通じて分かったことは、
• VTAとアジマスの調整による測定値の変化は非常に大きい。 特にアジマスの狂いは他の調整項目にも大きな悪影響がある。
• アンチスケーティングやオフセット角の変化による測定値の変化は相対的に小さい。
• アンチスケーティングの許容範囲は結構広い。
肝心の音に関しては、前回日記時点の印象と変わりません。 調整後の音の特徴は「安定感」です。 定位が定まり、響きが右や左に不必要に広がらず、音場が安定し音像が明確になります。一つの項目を調整しただけでは分かりづらいものの全体が改善すると違いが相当はっきり分かります。
あと、一連の測定過程で、レゾナンスの重要性に気付きました。
SME Vはマグネシウム・パイプとオイル・ダンプ機構でレゾナンスが極めて安定しています。 全体調整後のレゾナンス測定では、アーム・システムの固有共振周波数は8.548Hzで、推奨の8Hzから12Hzのレンジ内です。
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試しに1円玉をアームパイプの前方根元、後方根元、パイプ中央に置いて(再度針圧調整して)レゾナンスを測定しても共振周波数は0.2Hz程度しか変動せず挙動も安定しています。
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ちなみにサブ・アームの3012R+光悦のレゾナンスを測定すると、固有共振周波数は10.381Hzで推奨レンジ内ながら、高域共振がはっきりと表れます(下側のグラフ)。
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また、アームが共振(共鳴)する様子が(測定値のみならず実際にも)見えるのに驚きました。世のアーム設計者がダンピング機構に凝ったり、共振モードのコントロールがし易いストレートアームに拘る理由が良く分かりました。
コロナのロックダウン中の暇潰しのつもりで始めたアナログ再調整は、予想をはるかに超える時間も手間もかかるものとなりました。しかしながら、期待以上に学んだことも多かったです。
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