ずっと待っていた
元アルバン・ベルク四重奏団のチェリスト、
ヴァレンティン・エルベンと
私のお気に入りのピアニスト、シャニ・ディリュカによる
「ベートーヴェン チェロとピアノのための作品全集
(Beethoven: Complete Works for cello and piano)」が
つい先日リリースされましたので、さっそくレビューします。
試聴はこちら
http://www.eclassical.com/beethoven-complete-works-for-cello-and-piano.html
まず何からお話しすべきか。。。
とにかく期待に違わぬ作品でありました。
例によってオープニングはチェロ・ソナタ第1番。
濃厚な音色ではないが、楽音が明瞭にこころよく響く
軽やかにはずむ演奏。
技巧的なテンポの変更も少なくて、素直な音という第一印象。
曲の構造がよくわかる演奏と申しますか
ひとつひとつの音を大切に慈しむように弾かれています。
このあたりは二人の演奏者としてのキャラクターというか
お人柄なのかとも思ったりしました。
録音もmirareレーベルとしては悪くないです。
ずいぶん音が立っている印象。
(関係あるかわかりませんが、今作はディストリビューションが
Harmonia Mundiになっています)。
今作に関するインタビュー
「Shani Diluka et Valentin Erben :
Beethoven, complete sonatas」
https://www.youtube.com/watch?v=sHiIC8_kywk
で、エルベンは
「あんまりインテレクチュアルにならないように」
と言っていますが、
ディリュカはいっぽうで
「テキストの探求には終わりがない」
とも言っていて、
年齢差のある二人がいろいろなやりとりをしながら
作り上げていった印象があります。
まったくの想像ですが、たとえば若いディリュカから
いろいろなアイデアが出され、それを現実化するためには
どうしたらよいかエルベンが示唆を与えるなんていう様子が
目に浮かびます。。。
映像からすると録音はウィーンで行われたようです。
ピアノはヤマハなのかな。
このあたりは未確認です。。。
ディリュカのピアノは
今までのCDでのやや残念な録音からは格段に良質な音となっていて
贔屓目ではありますが、彼女の代表作になりそうな予感がします。
弱音部や速いパッセージでも響きが失われず
白熱する感じが、今作ではよりわかりやすく聞き手に伝わってきます。
加えて、今作に先立つシューベルトやベートーヴェンのトリオでの
エルベンとの協演の経験が
彼女のパワーの解放につながっているのでは。。。とも思ったりします。
よき先達による導きが彼女を成長させた、といったら
言いすぎでしょうか。。。
来年はC.P.E.バッハとモーツァルトに取り組んだ作品を
リリース予定だそうで、
ファンとしてはどんどん愉しみが増していきます。
先日のエベーヌ四重奏団のライブ・レビューで
http://community.phileweb.com/mypage/entry/2408/20171022/57390/
ベルウッドさんがおっしゃっていた
「セリオーソ」(=“serious”)ということばを
今作を聞いていて思い出しました。
それは、リラックスしたなかにも真摯な表現を追求した
エルベン&ディリュカの演奏が
ベートーヴェンの実験精神をくみとりつつ
それを今日的な軽やかさをもって提示してくれたから
なのだと思います。
興味を持たれた方は、ぜひ御一聴を!
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