季節外れの大型台風14号が接近した大荒れの土曜日の午後、今年42回目のコンサートとなるミューザ川崎シンフォニーホールで開催された、東芝フィルハーモニー管弦楽団の第31回定期演奏会に出かけた。
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東芝フィルは、その名の通り、総合電器メーカーである東芝とその企業グループ社員によって結成された演奏団体で、いわば企業内クラブとして活動し、毎月2回ほど東芝本社ビルに集まって練習をされているようだ。
企業が行っているクラブ活動というと、野球、ラグビー、バレーボール、バスケットボール、駅伝などの実業団スポーツ活動を思い浮かべるが、これらはどちらかといえば企業お抱えのアスリート達による企業宣伝の一環なのに対し、オーケストラや合唱などの文化活動は純粋に社員の文化活動を支援することなので、小生はこの東芝フィル以外には日立フィルやリコーフィル、ソニーフィル位しか知らないほど、数も少ないのであろう。
そういう意味で、東芝という企業が従業員の文化活動に取り組む姿勢は羨ましくもある。
さて、本日の演奏会は、台風接近で客の入りが心配されたそうだが、全席自由1500円ということもあり、東芝グループの社員やOB関係を含め多数の観客が詰め掛ける大盛況の演奏会となった。
小生は1階前列6番の真ん中の席に陣取り、開演を待った。
本日の指揮者は河地良智氏。
河地氏は横浜国立大学管弦楽団の第94回定期演奏会を指揮されたのを聴いた事があるが、その精緻な音楽を構成統率する力量に感銘を受けたことがあり、今回の演奏会も期待していた。
演奏曲目は、ベートーヴェン作曲:「コリオラン」序曲Op.62、ハチャトリアン作曲:組曲「仮面舞踏会」、休憩をはさんでブラームス作曲:交響曲第4番ホ短調Op.98。
プログラムの出演者名簿を見ると、90名以上の団員名簿の横には所属する会社名が載っていて、沢山の東芝グループ社員の中からオーケストラ活動をしたい社員が集まっているようだ。
挟み込んであったパンフの中には東芝吹奏楽団、東芝府中吹奏楽団、東芝フィルハーモニー合唱団なども載っており、これらの音楽活動が盛んなことが伺える。
さて、その演奏だが、最初の「コリオラン」の出だしを聴いた瞬間、渋い光沢ある重厚な弦楽サウンドが天井に向けて立ち昇る様を感じ取り、一瞬でベートーベンの書き上げたシェイクスピア悲劇の情景描写の世界に引き込まれていった。
時折管楽器に不安定さが垣間見えるが、それも、厳格な構成力を要求するベートーベンの世界を具現化しようとする河地氏の指揮によって、それ以上破綻することもなく、どこまでも深い陰影を保つ弦楽器群の卓越した力量が印象深い演奏だった。
2曲目の仮面舞踏会は、浅田真央さんがフリー演技の曲として採用したのをきっかけにして演奏機会が増えた曲であるが、管楽器パートトップの力量が試されるソロとりの場面が多い難曲でもあるが、ほぼ全員入れ替わった後の演奏は、指揮者の意のままに緩急自在の一糸乱れぬ演奏で、管楽器トップそれにコンサートマスターの卓越したソロも素晴しく、帝政ロシア貴族社会の持つ妖しく耽美な世界に引き込んでくれた。
メインのブラ4では、このオケの持つ渋い光沢を持つ重厚な弦楽サウンドが本領を発揮し、第1楽章の冒頭からブラームスの古典的変奏曲スタイルを持つこの曲の印象を際立たせる素晴しい演奏を聴かせてくれた。
河地氏の指揮は、どちらかといえばゆったりとしたテンポを刻んでいくが、リズムの縦がきっちり揃っているために、ディフォルメされることもなく淡々と演奏されているのに、とても精密な演奏の印象が際立つ。
とてもアマチュアとは思えない演奏水準で、ここまで来るのに相当な訓練を積んできたのだろう。
4楽章のフィナーレが終わった後に、とても深い満足感を得られる素晴しい演奏であった。
学生オケでもない、市民オケでもない、企業オケとしての制約もある中で、これだけの演奏水準を示した東芝フィルは、今年聴いたアマオケの中でもトップレベルではないだろうか。
アンコールにはブラームスのスラブ舞曲第6番が演奏され、これもまた素晴しい演奏で、万雷の拍手が鳴り止まないほどであった。
満足のなか会場を出ると、台風14号が近づく強風と風雨で、現実に引き戻されたのだが、未だ幸いにも電車は動いていた。
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