以前もご報告しましたが、 WOWOWはAuro-3Dに関心のある会社で、「Auro-3D友の会会長=自称」としてはずっと注目してまいりましたが、この程、WOWOWのスタジオでPilot testに立ち会わせていただく貴重な機会を得ましたので、ご報告したいと思います。
<9月5日19:30追記:ありがたいことに、この記事をご覧になったWOWOWの入交さんからメールをいただきまして、いくつか加筆修正いたします。私には理解不能な(汗)記述もありますので、いただいたメールのまま、【】内にて明示させていただきます>
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実は、上記の「実験」の際には、開発中のω(オメガ)プレーヤーというデコーディングソフトが、「HDMI出力のついたMac Bookでないと、AVアンプ経由によるAuro-3Dは聴けない」と知り、泣く泣く参加を断念し、「次こそは!」とわざわざこの春、Mac Book Proまで購入して(笑)その機会を伺っていたのですが、今回の案内はなんと、スタジオで直接体験させていただけるということで、福岡出張から帰ってきたばかりでしたが、またも家を留守にいたしました(笑)。
まず現場となったスタジオをご紹介しましょう。スピーカーはすべて、旧東ドイツのプロ用モニタースピーカーとして世界的に名高い、musikelectronic geithain (以下ムジーク)のアクティブモデルで、大小は混在していましたが、SW2台も含めて(これはムジークではないようでしたが、メーカー名を伺うのを忘れました=汗【サブウーハもムジークで、BASIS 14Kです】)、30畳ほど(?)のお部屋に33台設置されているそうです。もちろん、これらがすべて同時に出力されるわけではなく、NHKの22.2ch、Atmosの7.1.6ch、Auro-3Dの13.1chという各イマーシブ音響フォーマットのフルスペックにすべて対応すべく、そのスピーカーの位置に関する定義(後述)に則った配置をしたため、このような数になったそうです。これらを束ねるコントローラーはプロ用の機器で、別室にあるとのことでした【Avid のMTRXというI/OとDADmanというソフトの組み合わせで行っています】。
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上記はすでに始まる前から、会場で準備をしておられたWOWOW技術局エクゼクティブ・クリエイターの入交さんに個人的に「質問攻め」をして得られた情報です(笑)。
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さて、入交さんがマイクを持たれて(このPA用のSPはちゃんと別にTannoyが設置してあるというこだわり様!)、まずは様々な音源による、2ch、5.1ch、13.1ch、22.2chの比較からスタート。私が案内された席は、前から2列めでセンタースピーカーの真ん前、サラウンドスピーカーは90度にあるという、このときの椅子の配置の中では、恐らくベスト席に近いところだったと思います。
WOWOWはやはり「衛星テレビ局」が本職ですから、すべての音源に「映像」がついていました。今回は将来のストリーミング放送に向けての実証実験の一環ということで、すべてデータファイルはNTTのサーバーに置いてあり、当日はストリーミング再生による実演だったことには注意が必要です【前半は、192kHz24bit(中にはアップコンバートしたものあり、テニスなど一部作品)のマスターファイル再生。映像は音声ソフト(プロツールスというDAW)用に作成した低レート映像でした】。それゆえ、ビットレートには限界がありますから、正直、映像のクオリティは、普段UHDBDをV9Rで見慣れている者にとっては、かなりレベルの低いものでしたが、Auro-3Dファンの私の目的は「音」ですから、以下は、「音」だけに絞って印象を書きます(何度も言いますが、私は<映像付きの音楽>にある映像と音像の<フォーカスのずれ>が苦手なので、実演中、ほとんど目を瞑って聴いていました。このほうが「視覚」という認知バイアスが入らず、Fairに「聴覚」のみの評価ができますから)。
演目は、
1. マリンバによるバッハ
2. 山間部の野音
3. サン・ピエトロ大聖堂のミサ
4. 聖パウロ教会におけるベルディのレクイエム
5. テニス大会中継
6. 南佳孝
7. 大井川鉄道のSL
8. 熱海の花火大会
9. ボレロ
10. アカペラ
11. Jazz Trio
12. 落語
13. Bob James “Feel like Making Live!”
という、多種多様なLine Upでした。全部についていちいち紹介していくと長くなりすぎますので(汗)、特に印象に残ったものだけ言及すれば、まず、最初の演目は、偶然にもこのコミュニティで重ねて紹介させていただいた、国際的マリンバ奏者 名倉誠人が東京カテドラルで演奏したものでした。つまり、
1.彼のマリンバ演奏のAuro-3Dファイルは持っており愛聴盤の一つで、
2.彼のLiveにも行っており、
3.さらには東京カテドラルの音も体験済み、
という、恐らくこの会場で私以上に(笑)、このソースをAppreciateできる人はいないんじゃないか、というぐらいの条件が偶然にも揃っていました(笑)。ゆえに拙宅におけるAuro-3Dでの再生音、芸劇で聴いた名倉さんの演奏、そして東京カテドラルのオルガンコンサートで体験した残響音という、私の中の3つの「音経験」を総動員して比較しようと、一音も聴き逃がすまいと全神経を集中して聴いたのです。
その印象は最後のDiscussionのコーナー(後述)でも発言したのですが、普段イマーシブオーディオを聴き慣れている私には、2chや5.1chとの差などは今更ここに書くものでもないのですが、拙宅と同じ13.1ch(Auro-3D)フォーマットでは、ムジークの高音再生能力の高さからくる、空間の広がり感・静寂感はとても優れていました。ただ、これが22.2chとなると、私の耳には、「風呂場のカラオケ」感が強く感じられるようになり、「音波が過剰に、整理されずに飛び交っているなあ」という感想を持ちました。
自分の経験上、もしかして?と思い、「ここはf特や位相などの音場補正をしていますか?」と尋ねてみました。すると答えはNOでした。「プロ用機器だからもちろんその機能はあるが、それをやってしまうと、キャリブレーションした位置だけの音が突出して良くなって、他の場所の音がとても悪くなってしまう。今回は、何人ものお客さんをお招きしているので、全員が80点ぐらいの音で聞けるように、素のままにしました」とのご説明を入交さんから受けました。納得しました。22.2chは「80点」の調整では、あの部屋の大きさを持ってしてもスピーカーが多すぎるのだろうと理解しました【今度は、是非制作時のスピーカ配置でキャリブレーション後の状態でお聞きください。そもそもスピーカからVOGとBC以外は等距離ですので、ディレイ測定値は0でした。調整は日本音響さんが実施しています】。
他には、サン・ピエトロ大聖堂のオルガンは、現地で聴いたことがあるだけにあのときの感動が蘇りました。特に驚いたのは、入交さんが「SWは使っていない」と説明されたことです。聖堂全体が共振するような、巨大なオルガンの音場が精緻に再現されていたのですが、SWなしとは。これは22chの方が良かったです【この作品は13.1chでした】。低域の量感は「数は力なり」ですね。ムジーク恐るべし、でもありました。
ベルディのレクイエムは左右のサラウンドSPから出るバンダの音が印象的で、これは「絶対に2chでは再生できない音場(真横からあの音量の音を感じることは、いくら優れたルームアコースティックを持ってしても、前に2台しかないSPでは物理的に再現不可能)」を思い知らされる曲です。WOWOWさん、これ売ってください、1曲5000円でも買いますので(笑)。
「熱海の花火大会」は別荘から近いので何度も行っていますが、あそこは山に囲まれる湾になっていて、山びこがこだまするんですよ。その感じがよく出ていました。まあ、流石に現場の<空気が動く破裂音>までは出ていませんでしたが(笑)【この音圧は並みのSPではでません。スピーカが飛ぶ!】。
最後のBob James ですが、実は彼はこのスタジオに来ておられます。彼のこのアルバムはAuro-3D化されていることで有名ですが、その作業をなさったのが、何を隠そう、今、私の目の前にいる入交さんなのです。そのインタビューや動画が残っています。
実はここから先が個人的には「大ニュース」だったのですが、上記演目のうち、10番以降は、192/24による「オリジナル」Auro-3Dと、ωプレーヤーを経由した圧縮音源【192をダウンサンプルした】によるAuro-3D、さらには「MQAでエンコードされたAuro-3D」の3つのフォーマットを聴き比べる、という趣向となっておりました。
MQAについては、かつて二つの記事をUPして、皆さんに色々と教えていただきましたが、今回勉強になったのは、MQAは単にハイレゾを圧縮・復元できる機能だけでなく、Deblurrと呼ばれる、「音のボケ」を低減する機能があるということです(知らなかったのは私だけ?=笑)。
頂いたパンフレットと会場にいらしたMQA Tokyo Officeの三上勉さんに伺ったところによると、アナログの音(原音)をデジタルに変換する際に、必ず「時間的なズレ」が発生するそうです。だから普通のCDやハイレゾファイルは、厳密に言えば「過渡的な音が滲んでいる」状態なんだそうです。そして、実は人間の耳は、この時間軸のズレに非常に敏感であるそうで、Live(原音)に比してデジタルの再生音がどうしても「平板に」聴こえるのは、この「ズレ・滲み」のせいだと。
でMQAは原理的に(詳細は私レベルでは不明=汗)、そのエンコードの際に、これらの「ズレ・滲み」=Blurrを除去する機能があるそうなんです!
ということで、当日は、まだωプレーヤーの方にMQAデコード機能が実装されていない(?)ということで、エンコードした状態の音が再生されたのですが、これは当然、圧縮(MQA的に言えば、折りたたみ?)されています。無圧縮のオリジナルに比して10分の1のサイズになるそうです【正確には、AuroエンコードによりMQAの折り紙情報が喪失するため、元のサンプルレートには展開できない。MQAによる圧縮効果、1/4(192k⇒48k)AURO-3Dによる圧縮効果2/3(13ch⇒8ch)
MPEG-4 ALSによる圧縮効果2/3 合計でおよそ1/10】。
じゃあ、音質も10分の1かというと・・・
うーん、むしろ、「空間感」は「オリジナル」より優れている気が・・・Jazzなんかだとアタック音の瞬間の力強さは、「オリジナル」には負けている感じでしたが、ダブルベースの低域なんかは量感的には多く、私の好み(笑)。MQAの2chのCDは何枚も持っていますが、MQAのAuro-3Dは生まれて初めて聴きましたが、クラシックがなかったのは残念ですが、交響曲なんかだったら文句なし「オリジナル」よりこっちのほうが良さそうな予感がしました。しかも、技術的には途上ですが、デコードもできるようになれば、「ハイレゾ」そのものですから、Deblurrと相まって完璧でしょう。
ただ、ダブルベースの「ゴリ感・実体感」が、拙宅に比してイマイチだなと感じ、仕事柄(何の仕事?=笑)公の場で忖度した発言をしない私は(汗)、これもはっきりとDiscussionのパートで申し上げましたが、恐らく、拙宅はSW4台(ここは2台。しかもフロント置き)でDirac LiveのBass Controlで、ピンポイントのリスニングポジションで位相などを完璧にコントロールしているのに対し、ここでは先に述べた理由で「何の補正もしていない」ということによる違いではないかと思いました【ちなみに、山本トリオはSWなしです。ボブジェームスはありです】。
試聴会終了後、別室に移動してDiscussionとなったのですが、実は当日会場には、オーディオ評論家の麻倉さんがいらっしゃっておりました(事前予告はなかったです)。私のすぐ横におすわりになったのですが、マスクをつけておられるのですぐにはわからず、でももしかして、と「津田塾で非常勤をされておられた麻倉先生ですか?」とお声がけしました。私は仕事つながりで彼の講義が学生にとても評判が良かったということをかねてより聞いていたのです(笑)。
彼は「オーディオ評論家の麻倉先生ですか?」と聞かれ慣れているでしょうから、一瞬ビックリされておられましたが(汗)、こちらの素性を紹介してから色々とお話を伺うことができました。他にも錚々たる参加者がおられ、先にご紹介したWOWOWの入交さん、MQAの三上さん以外に、Auro Technologies日本支社(?)のHamasaki【濱﨑】さん、サイデラ・パラディソ(オノセイゲン氏のレコーディングスタジオだそうです)の鶴岡さんといった業界関係者の面々。
当然そこで交わされたDiscussionには貴重な情報が満載だったのですが、長くなりますので順不同で箇条書きにすると(敬称略):
1. Auro-3DやNHKマルチに比して、2chだと音が三分の一ぐらいに減る(麻倉)
2. Auro-3Dに最適化された映画館が日本に一箇所だけある(麻倉・Hamasaki)=後に調べたところ、「ポレポレシネマズいわき小名浜」というところのようです。行った方は是非ご感想をお願いします!
3. ヤマハの最新のAVアンプの直近のUpdateで、AtmosやDTS-XもAuro-Maticで、疑似Auro-3D化できる機能を実装した(Hamasaki)=私のAVプリではAtmos信号を受信するとAtmos以外では再生できないので、これはすごい!欲しい!!!早く5300出ないかな(爆)
4. Auro Technologies社は今回の買収劇のおかげで、資金力が倍増し、開発パワーも倍増した。今、人員を増やしている。近々、大きな展開があるだろう(Hamasaki)
5. オーケストラ曲の録音は、原音再生はできない【ホール録音は、現場で聴いた印象と収録してきた音の再生での印象は大きく異なる。それは人の両耳聴の特性が大きく関係している】。客席の一番いい席にマイクを置いて録音しても音がボケるので、各楽器へのOnマイクで録音したもの【明瞭度がない録音となってしまうことが多いので、楽器(オーケストラ)の音を狙うメインマイクとホールトーンを狙うアンビエンスマイクで収録】などをスタジオでMixしてマスタリングしている(入交)
6. スピーカー間は、無相関が理想【パンポットを使用して、同相の音を複数のスピーカから同時に出すとカラーレーションという現象が生じて音が汚くなる】。だから理論的には1スピーカーに1音(1楽器)がベスト=つまりSPは多ければ多いほど有利【だから別々の音を各スピーカにアサインするのがベスト
注)スピーカの数がおおければよいというものでもない】。(三上)
7. Auro-3Dのスピーカーの配置に関する定義については、そんなに厳密に考えなくても良い。今のセッティングマニュアルだとあまりにもハードルが高く見えてしまうので、見直しをおねがいしているところ(Hamasaki【濱﨑】)
8. WOWOWはMQA&Auro-3D【などの高音質ストリーミングサービス】による事業化を検討しているが、Goサインが出るかどうかは需要次第(入交)
とまあ、まだまだありますが書ききれませんので(汗)、他は私の脳内に留めます(笑)。
終了後、活発に質問していた私へのファンサービス?か、どなたかが「一緒に写真を取りましょう」とおっしゃられて(流石に私はそこまで図々しくはない=笑)、ひとり残っていた私と関係者の方々が会場に戻って記念撮影(?)をしていただきました。
<写真:左から入交、鶴岡、私(=顔モザイクで失礼!)、麻倉、三上、Hamasakiの各氏>
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ちなみに、この前の回では、音元出版の方がいらしていたそうですので、もしかするとPhilewebにもそのうちプロによる記事が出るかもしれません(お会いできていれば、「コミュニティやめないで!」と直訴できていたのに、残念=爆)。
結論的に言って、「MQA&Auro-3Dによるストリーミングサービス」が実現したら、私は<絶対>契約します(そのためにMac買ったし=笑)!Auroファンの皆さんもここで賛意を示して頂いたり、あちこちでこの情報を広めて頂ければ、WOWOWの経営者陣が<その気>になるかもしれませんので、是非よろしくお願いします!!!
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