Auro3Dについて

日記・雑記
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このコミュニティで「Auro3D」を名乗っている手前、僭越ながら少々書いて置かなくてはと思い、お盆休みを利用して筆をとりました。

ここでのAuro3Dに関する「日記」が少ないことから想像するに、Philewebコミュニティの皆さんにとっては、Auro3Dって名前は聞いたことあるけど、ソフトが少ないのでなんとなく未だゲテモノ扱いでしょうし、そもそも、恐らくAuro3Dの推奨する13.1の完全なスピーカー配置で聴いたことがある方はかなり少ないのではないでしょうか(あるとしたらオーディオショーぐらいでしょうか。普通のオーディオショップで正確にAuro3DのSP設置が常設してあるところは少なくとも東京では私の知る限り無いので。AVで有名な新宿のAVAC本店でも、私の記憶ではAtmosに最適化されており、普段は「トップスピーカー」がない配置のはずです)。

先にお断りしておきますが、私はAuro3Dを映画の効果音再生として導入しているのではなく、「音楽鑑賞用」として高く評価しております。その観点からの紹介になります。

まずは推奨スピーカー配置ですが、これはAuro3Dの公式HPがあるので、そちらをご覧ください。http://www.auro-3d.jp/

拙宅で実践しているのは、Auro3Dのフォーマットでは最大数のスピーカー配置となる、13.1です(実際は、8805の最大受け入れ数である15.1で、Atmosと兼用しています)。

【Auro3Dにたどり着くまでの経緯】
AVに本格的に取り組み始めたのは、伊豆の家を建てた17年ほど前からなので、当然のことながら当時はAuro3Dなど影も形もなく、いきなり13.1を構築したわけではありません。拙宅の場合は、最初に導入したAVアンプがヤマハのDSP-AZ1というものだったので、この説明書に書いてあった最大対応SP数の7.1chをヤマハで揃えるところから始めました。

当時は車いすの母親がいたので、床にはなるべく物を置かないようにする必要があり、7chのスピーカーはすべて床上約2.5Mの位置に取り付けました。建築段階からインストールしたので、壁内配線となっています。結果的にこれが後程、Atmos、Auro3D導入への障壁を低くしてくれました。

その後、Atmosが登場し、母も亡くなり存分に床置きのスピーカーも設置できるようになったタイミングで、AVアンプをパイオニアのSC-LX89に入れ替え、フロアに新旧のKEFで7chのSPを配置しました。この時点でもまだAuro3Dは世の中になく、Atmosの7.1.6を構築したにすぎません。

そしてまだ2年ほど前ぐらいでしょうか、Auro3Dというフォーマットがあることを知り、その特徴が、ハイレゾの全チャンネルディスクリート録音であると雑誌か何かで読んで、(文系の私が珍しく)技術的に「これは絶対に音がいい」と確信し、その要求スペック(SP配置)を見て、「これなら何とか伊豆の別荘で実現できそうだ」と考えて、導入を決めました。

Atmos環境を経てのAuro3D導入に際し、更新したのは、AVアンプ(→8805)と「トップスピーカー」の設置です(私の場合は、すでに「ハイトセンター」は、最初のセットのセンタースピーカーとして設置してありました)。これでAuro3Dスペック最高峰の13.1chが実現できたことになります。

【トップスピーカー設置というハードル】
トップスピーカーの設置は、恐らく普通は最もハードルが高い(建築時から想定して設置してあれば別ですが)ものだと思います。多くの方は、これをせずにAtmosとAuro3Dを共存させておられるようですが、はっきり言って、このSPなしにAuro3Dの真の実力を語ってはいけません(笑)。Atmosスピーカー配置で、AVアンプのセレクターだけをAuro3Dに切り替えても、それは「なんちゃって、Auro3D」に過ぎないです(Auro3D Native ソフトを使えば、音のクオリティは上がりますが。詳細実験結果後述)。

拙宅では、このトップスピーカーを設置するのに、二つハードルがありました。それは、屋根裏のない構造のため埋め込み型は使えないため、設置方法をどうするかということと、スピーカーケーブルの配線問題です。[:image3:]

前者の解決法としては、スピーカーを真下に向けるのはあきらめ、傾斜天井を利用して音をリスニングポイントに反射させることとし、スピーカーが入る堅牢なウッドボックスを天井の梁にねじ止めしてもらいました。

後者の解決法としては、この段階でのスピーカーケーブル配線は、たとえモールを使うにせよ、部屋の美観を損ねる(私は「部屋もオーディオの一部」という立場です)ので却下。幸い、リスニングポイントのほぼ真上に、電動の天窓用シャッターが作りつけてあり、電源があるのでこれを利用して無線のアクティブスピーカー(DynaudioのXeo3)を使うことにしました。

【スピーカー配置上の注意点】
Auro3Dは、ディスクリートで音が各スピーカーに振り分けられているので、Atmosのようにアバウトな配置であとは位置情報を基にAVアンプがレンダリングするわけではありません(だから、音の純度が高い)。ゆえに、Auro3Dの規格に合わせたスピーカー配置にすることがとても重要です。

Auro3Dの推奨するスピーカー配置は3層構造になっており、第1層(フロア)は、普通のドルビーの7.1ch配置と同じです。Auro3Dの13.1chの場合、第2層(Height Layer)に、サラウンドバックの2つを除いた5chSPの各垂直線上の同じ高さに、5つのスピーカーを要求しています。そして最後の第3層に、リスニングポイント頭上に1台だけ「トップスピーカー」と呼ばれるものが必要です。これはAuro3Dの世界では、“Voice of God”というニックネームを付けられていて、Atmosとの完全なる差別化を図るスピーカーレイアウトのキモです。

拙宅では、Atmos時代はフロントスピーカーをスクリーンのある梁(つまり、LCRの各ハイトスピーカーが設置してある場所)よりかなり前の、ワイドスピーカー並みの位置に設置していたのですが、Auro3Dの導入に伴い、LCRのハイトスピーカーとほぼ垂直関係になるようにフロアのLCRを配置しなおしました(このために、大工さんと電気屋さんを呼んで床下にスピーカーケーブルを敷設してもらう工事が必要になった)。

このように、第1層と第2層のスピーカー群を垂直の位置関係に揃えることと、第3層を作ることが、Auro3Dのスピーカー配置のポイントです。[:image1:][:image2:]

【8805における実践上の注意点】
8805では、Atmosにおける、7.1.6配置と、Auro3Dの13.1を共存させることができますが、ここで一つ大きな落とし穴があります。

それは、Atmosの天井スピーカー群における「トップミドル」と呼ばれるスピーカーは、天井に3組6つ配置されるべきスピーカー群の真ん中の2chに当たるのですが、このスピーカーはAuro3Dモードでは音が出なくなるのです。つまり、8805を使った「共存」モードだと、Atmosの定義における「トップリア」スピーカーが、Auro3Dの「ハイトサラウンド」として振り分けられます。

ここで何が問題かというと、拙宅の場合、床の7chに合わせて、その約1.5M上方に同じ7chのSPがあるので、第1層の「サラウンドスピーカー」の垂直線上に設置したスピーカーは、Atmosでは「トップミドル」となり、サラウンドスピーカーの上にあるにもかかわらずAuro3Dの「ハイトサラウンド」と認識してくれない、つまり、Auro3Dに切り替えると、「サラウンドバック」の真上にある、本来は「ハイトサラウンドバック」とでも命名すべきスピーカーが、「ハイトサラウンド」として鳴ってしまうのです。これでは、Auro3D再生において「サラウンドスピーカー」と「ハイトサラウンドスピーカー」の垂直関係の位置がずれてしまいます。つまり、本来は、Auro3Dでは、Atmosで言うところの「トップミドル」が鳴ってくれないと、「サラウンド」と垂直関係になりません。8805のSP Configurationの隠れた問題点です。

この問題を解決する方法はないかと、知恵を絞りました。一番簡単で確実なのは、Auro3Dを優先するなら、「リアハイト」の位置に設置してあるスピーカーを鳴らすことをあきらめて、Atmosは、7.1.4で運用し、今の「トップミドル」を「リアハイト」とAtmosに認識させるという方法です。これなら、Atmosにおける「リアハイト=現在のトップミドル」が、Auro3Dの「ハイトサラウンド」になるからです。

しかし、設置の苦労を考えると、誰でも「あれは無駄骨になった」と思いたくないのが人情ですし、いくらAuro3Dがメインとはいえ、やはりAtmosソフトは、その認識する最高数のスピーカー配置である、7.1.6配置で楽しみたいと思うのが、「マニアごころ」というものですよね(笑)。

そこで編み出した苦肉の策というのが、8805が幸い、バランスとアンバランスの同時出力を常時していることを利用して、パワーアンプ側で切り替えるというものです。このために拙宅で採用したパワーアンプは、NuprimeのSTA-9というもので、これを選んだポイントは、後ろのトグルスイッチで入力をバランスとアンバランスで切り替えることができる点です(もちろん、映画効果音用のパワーアンプとしてなら、そこそこ音質も優れていますよ)。[:image5:]

このパワーアンプの出力先は、Atmosで言うところの「トップミドルスピーカー」です。入力元は、8805の「トップミドル」用バランス出力と、「リアハイト」用アンバランス出力の二つです。Atmosを楽しむときは、トグルスイッチで「バランス」側にすると、7.1.6となります。Auro3Dを楽しみたいときは、トグルスイッチで「アンバランス」側にすると、Atmosで言うところの「トップミドルスピーカー」と「リアハイトスピーカー」の両方(二組4本)が、Auro3Dの「ハイトサラウンド」として音を出すことになります(つまり、8805の「リアハイトスピーカー」出力には、バランスケーブル(→5200)とアンバランスケーブル(→STA-9)の両方がつながっている状態)。やや変則的で、第1層のサラウンドスピーカーと正確な垂直関係にはなりませんが、私の主目的であるAuro3Dの音楽ソフトでは、第2層はAmbient音しか入っていないので(映画ソフトなら違うと思います)、そんなに定位を気にする必要もないし、これらのスピーカーが壁取り付け用の小型なので2つより4つ同時に鳴る方がより低音が出るだろうという、文系的なアバウトさで(笑)良しとしています。

【参考】
8805の仕様書には、同時使用は13chが最大とありますが、2chのクラッシックのソースを本機のHEOSで再生し、各種エミュレーションを使用した場合、15chのうち鳴らないスピーカーは以下の通りでした。

Dolby Surround: Center High(CH)、Top(T)
DTS Neural X: CH、Middle High(MH)、T
Auro-3D: MH
Multi-Channel Stereo:  CH、T

【音質比較】
コミュニティの皆さんが、最も気になるであろう、Auro3Dの音質についてです。現時点で私が持っている、Native Auro3Dの音楽ソフトはほとんどが2Lレーベルのもので、すべてブルーレイディスクですので、拙宅ではOppo205で再生しています。

手持ちのものは、たったこれだけです。[:image4:]「たったこれだけのソフトを聴くために、あんな大工事(笑)をしたのか?」といぶかる方もおられると思いますが、それについては後程触れます。

まずは、これらのNativeソフトの詳細を紹介しますと、一口にAuro3Dと言っても、時系列的に発展してきたようで、初期の頃(2017年ごろまで)のソフトは、9.1(または9.0)と表記されているのが多いです。それ以降の最新版までは11.1(または7.1.4)との表記があるものが多いですが、Auro3DのHPに記載されている規格上の最高グレードである(はずの)、13.1chで録音されたものは、少なくとも私の手元にあるものにはありません。映像は、有名な「New Year‘s Concert」以外は入っていません(ちなみに、私は映像付きのクラシックソフトは苦手です。音楽に集中したい方なので)。

手持ちの11.1Auro3D 96KHzとクレジットされているソフトは、すべて2.0LPCM 24/192KHz, 5.1 DTS-HD MA 24/192KHz, 7.1.4Dolby Atmos 48KHzでも録音されているので、これらのフォーマットの違いによる音質の違いを比較試聴することができます。

比較ソフトとして、バイオリン「Alessandro Quarta plays Astor Piazzolla」(IANレーベル、ドイツ)、ピアノ・ベース・ドラムのトリオ「Polarity: Holf Ensemble」(2Lレーベル、ノルウェー)、教会音楽(合唱付き)「Lux」(同)の3枚を選びました。

8805による介入を最小限にすべく、まず「Direct」モードに設定の上、最初に、2.0LPCM 24/192KHzを「ステレオモード」で聴き、5.1、Atmos、Auro3Dの順で各種適正なモードに切り替えつつ、前者との比較における感想を書いてみます。試聴位置は、「マイルーム」に書いたところの、Auro3Dの位置に固定し、Audyssey MultiEQ Editorによる8805側の設定はAuro3Dびいきになりすぎないよう(笑)、「Atmos」にして比較試聴しました(ただし、2chは、「マイルーム」に書いた2chセットではなく、フロントのSonettoを使用)。音量は再生方式ごとで主観的に同じに聞こえるように、適宜調整して行いました。LFE用のサブウーファーは2ch再生との比較の整合性を保つためOffにしました。

【比較試聴主観的結果】
バイオリン「Alessandro Quarta plays Astor Piazzolla」(IANレーベル、ドイツ)

5.1=2chに比して、センタースピーカーが加わることによる定位感とバイオリンのリアリティが向上。

Atmos=5.1に比して、臨場感が向上。バイオリンのリアリティはやや後退。全体的に各楽器の音が前に出てくるが、やや平面的。上への音の広がりはあまり感じない。

Auro3D=Atmosに比して、残響感が向上。バイオリンのリアリティも5.1並みに優れている。各楽器の音に奥行きが感じられる。

ピアノ・ベース・ドラムのトリオ「Polarity: Holf Ensemble」(2Lレーベル、ノルウェー)

5.1=2chに比して、センタースピーカーが加わることによるピアノの実体感が増す。しかし、2chの「幻想的に感じられるピアノの音色」が後退するので、どちらも捨てがたい。奥行き感は向上。

Atmos=5.1に比して、ステージが広く、講堂のようなところで演奏している印象を持つ。高音の倍音の残響音が上に抜けていく感じが出ている。ピアノとベースとドラムが3次元的に配置されているのがわかる。

Auro3D=Atmosに比して、ステージはやや狭くなるが、自然なジャズクラブの空間表現。奥行き感はさらに向上。ピアノの高音のみならず、ドラムの淵を木のスティックで叩く(専門用語不詳)固い音も、3次元的に上に残響音が抜けていく感じがつかめる。前3種に比してベース(コントラバス?)の音が一番立体的で素敵に聴こえた。

オーケストラ、パイプオルガン、合唱による教会録音「Lux」(同)

5.1=いつもAuro3Dで聴いている愛聴盤なので、初めて聴いた2chには心底がっかりしたが、それに比して、センタースピーカーが加わることによる合唱の実体感が増す。パイプオルガンによる包まれ感も出ている。しかし、このアルバムの特徴である上方向への音の広がりがやはり弱い。

Atmos=5.1に比して、音場が左右上下方向とも広がり、包まれ感は倍増する。ただ、音の粒立ち、分離が次のAuro3Dに比してイマイチで、オーケストラ、パイプオルガン、合唱が混然一体(悪い意味で)になっている。

Auro3D=これは他とは圧倒的な差があるAuro3D随一のキラーコンテンツ。Atmosに比して音がクリアで、各楽器のリアリティが増す。尖塔の教会上部にあるステンドグラスがパイプオルガンや合唱に共鳴しているかのような響き、空間表現がある(現場に行ったことはないが、そう想像させる音)。この3つのソフトの中では、最も、“Voice of God”の効果を感じられる録音になっており、いつ聴いても涙腺が緩む。

総評
<2次元 VS 3次元><Atmos VS Auro3D>
2chと5.1chは2次元なので、天井の低いジャズクラブにおける録音なら大差はないかもしれないが、教会のような場所で高所にマイクを付けて録音してある、最後のLuxのようなソフトだと、Atmos、Auro3Dとの差はいかんともしがたい。その両者の比較では、やはり全チャンネルハイレゾでのディスクリート録音のAuro3Dの方が、スペック的にも音がいいに決まっているし、事実そうである。さらにトップスピーカーの有無の差はとても大きく、試しにトップスピーカーOffで、同じLuxを聴くと涙腺は決して緩まない(笑)。音の違いもさることながら、主観的な表現だが与えてくれる「感動」感が違ってくる。このSPのあだ名をなぞれば「神々しさ」の有無、と言えばよいだろうか。また、全体的にAuro3Dの方が、Atmosより音が全面中心に集まる傾向にある。逆に言えば、Atmosの方が、表現されている空間は広い。映画のStar Warsシリーズのような宇宙空間を舞台にしているようなものであれば、Atmosの方が気持ちよく楽しめるが、セリフが中心となる映画の場合は、私は全面中央の音が濃くなるAuro3Dにエミュレートして見ることが多い。

【Auro3Dエミュレーションについて】
最後に、こんなにNativeソフトが少ないのに、なぜ私が「Auro3D」をこのコミュニティで名乗るほどの(笑)、信奉者になっているかというと、Auro3Dは2chやSACDマルチの5.1chなどの録音を、13.1chの「Auro3Dの世界」にエミュレートするのがとても巧みな点に十分満足しているからである。もちろん、ソフトを選ぶ。はっきり言って、クラシックのオケものOnlyだろう(カルテットやソロはあまり勧めない。2次元の方が自然)。Jazzは空間が広がることで、「熱さ」が薄れてしまう。ロックもほぼ同様だが、一部のシンセサイザーを多用したプログレ系のものは、Auro3Dと親和性があるものもある。いずれにせよ、「音像」より「音場」が大切な音楽ソースの場合は、Auro3Dと相性が良い。2chソフトと5chソフトで比較すれば、やはり後者の方がより効果的にAuro3D化できるようではある。

コロナ騒ぎが始まり始めた2月に、モントリオールに出張する機会があり、休みに地元の中規模のホールのコンサートでシュスタコービッチの交響曲を聴いたのだが、その時の席が、指揮者の真後ろ約5Mで、しかも自分の前の席が空席という、自分のクラシックコンサート歴で最もいい環境であったため、「これは絶好の機会。オーディオ的に聴いてやろう」と構えて、視覚情報を排するために目をつむって集中し、頭の中で自宅のオーディオの音と比較しながら聴いたのだが(普段はこんなことはやらない。楽しめないので)、あの音・音場・音像感覚は、自宅のシステムでは、Auro3Dが一番近似しているとの結論になった。ゆえに最近の楽しみは、SACDマルチを買って、HDMI経由で8805につなぎ、8805にAuro3D化してもらった交響曲や協奏曲を聴くこととなっている。

以上、何らかの参考になれば。

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