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カラフル・モノクローム、あるいは讃美歌の弁証法:トルド・グスタフセン・トリオの新作によせて

日記・雑記
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ここ2日、当地では、台風一過のさわやかな晴天となり、
また朝晩は、かなりひんやりした空気を
感じられるようになってきましたが
みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

ヨーロッパのピアノ・トリオの演奏っていうと
お好きな方には、一定のイメージがあるんじゃないかと思います。
私は一言でいうと「静謐」「モノクローム」っていうイメージかな~
これから深まりゆく秋の空気に
溶け込んでいくかようなサウンドでしょうか。。。
とりわけそれは「北欧」とか「ECM」とかの冠がつくと
より強固なイメージになっていくような気がしています。

そんな冠つきのピアノ・トリオの演奏を今夜はご紹介します。
ECM発北欧ノルウェーのピアノトリオの新作
トルド・グスタフセン・トリオの『The Other Side』が
それです。

「Tord Gustavsen – The Other Side (Medley Live Molde Jazz Festival)」
https://www.youtube.com/watch?v=x4ZILC7WiFk

2007年の『Being There』以来11年ぶりとなるトリオの4作目。
「ここ10年はカルテットやサンサンブルなどフォーマットを変えて
アルバムを発表してきたが、本作では新たなベーシストを迎え
トリオで帰ってきた」とのこと。

一聴して感じるのは、
期待にたがわぬ「北欧」「ECM」ピアノ・トリオの演奏ってことでしょうか。
幽玄ともいえそうな響きをたたえてピアノが空気中を浸透していき、
時に、すこしおどろおどろしい感じもするベースと
シンバルが印象的に響くドラムスがその音に絡んでいく
モノクロームな世界
あのイメージです。。。
ある意味では意外性に乏しいサウンドともいえそうなのですが
私はなんだか特別な魅力を感じているのです。

その魅力に感じる部分とはなんだろうか?
自問自答してみます。
メロディーってことはあるのかな、と思います。
今作はM5,8でノルウェーの讃美歌、
M7,8,10でバッハの楽曲がアレンジされて使われています。
以下、ネットで調べた程度ですが、少し長めに楽曲の紹介をします。

M5「Ingen vinner frem til den evige ro」とは
英訳すると「Nobody wins the eternal calm」で
現代的なポップミュージックにもアレンジされている讃美歌で
おそらくノルウェーではよく知られている楽曲なんじゃないかと。。。

余談ですが、これなんか気に入りました。
「MSissel Kyrkjebo – Ingen vinner frem til den evige ro – 2006」
https://www.youtube.com/watch?v=T7qKyqqI16w8

M8「Jesus, det eneste」(唯一のイエス)も
20世紀初めにノルウェーで歌われるようになった讃美歌だと思われます。

M7「Schlafes Bruder」は
教会カンタータ『われは喜びて十字架を負わん』の第5曲
コラール「来たれ、おお死よ、眠りの兄弟よ」です。
M8「Jesu Meine Freude」は
「イエス、わが喜び」(バッハのモテットBWV227)で
「17世紀の代表的なドイツ・コラール」とウィキペディアにはありました。
M10「O Traurigkeit」(おお悲しみ)は
バッハというよりはむしろ
ブラームスのオルガン作品「コラール前奏曲とフーガイ短調」WoO7
のベースになったコラールとして知られているようです。

同じ讃美歌(コラール)なんだから
通底する部分はあろうかとは思いますが、
典型的な「北欧」「ECM」ピアノ・トリオの演奏に
これらの旋律がまったく違和感なく溶け込んでいて
アルバム全体が一種の「組曲」あるいは「変奏曲」のような流れで
展開していく感じが、なんとも魅力的なのです。
「あれっ、このメロディー前にでてきたような。。。」
そんな既視感(既聴感?)を感じさせる仕掛けがあるように思います。

不思議な印象の残るこのアルバムのことを調べていたら
グスタフセン本人が書いた論文を発見しました。
「The Dialectical Eroticism of Improvisation」という題名で
30ページ弱もあるので、あんまり読めていないのですが
「瞬間vs.持続」「差異vs.同一性」「満足感vs.不満」「安定vs.刺激」
「密着性vs.隔たり」といった即興演奏時に演奏者が陥る
ディレンマの様相を、演奏者の文化や心理の視点から分析しようとしている
内容で、なかなか興味をそそられます。
この論文を読むと、彼の音楽がそういったディレンマの中で
どのように紡ぎだされてきているのかが
もっとよくわかるようになるのかもしれません。

しかしこのアルバムについて私がこれだけ饒舌に語っていることで
もう伝わっているんじゃないかな~と思うところもあるのですが
このモノクローム世界は、いろいろな襞のようなものがあって
その意味では、けっこうカラフルな印象すらあるってことです。
そしてまた分析者としてのクールな視点と
演奏者としてのホットさとの
「弁証法的なエロティシズム」を
さまざまな讃美歌を行き来しながら、
グスタフセン本人が愉しんでいる。。。
それが十分にうかがえるっていうのが
このアルバムのいちばんの魅力なんじゃないかな~
そんな思いに行きついたところで、今晩の締めとしたいと思います。

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