「イザベル・ファウストの目の前の席」こんな謳い文句に惹かれて入手しました。東京都交響楽団の【ジェイムズ・デプリースト没後10年記念】演奏会です。目当てはイザベル・ファウストだったのですが、驚くほどよい演奏会でした。「生は水もの」そんな思いをますます強くした体験だったと思います。
会場は、東京芸術劇場です。このホールは扇形の先端にステージが設置されていて、音響がよいとは言えません。ですが、最前列に座るとホールの音響の影響はとても小さくなるんです。
久しぶりに座った最前列のセンターですが、この近さはワクワクします。何と言ってもイザベル・ファウストまで2mですから。
このコンサートは、都響の定期演奏会に合わせ、2005年から2008年まで都響常任指揮者を務めたジェイムズ・デプリーストの没後10年を記念するコンサートです。デプリーストが都響を最後に指揮したコンサートに出演したイザベル・ファウストを招き、曲目も同じシューマンのヴァイオリン協奏曲とのことでした。
<出演>
指揮:大野和士
ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
オーケストラ:東京都交響楽団
<演目>
・マグヌス・リンドベルイ:アブセンス-ベートーヴェン生誕250年記念作品-(2020)[日本初演]
・シューマン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
・ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 op.92
<演奏会場にて>
このホールまでは、距離は遠いのですが、最寄駅から電車1本で行けますので利便性は悪くないです。普段オーディオで聴いているソリストの目の前で聴けることにワクワクして向かいました。
①マグヌス・リンドベルイ:アブセンス-ベートーヴェン生誕250年記念作品 感動度☆☆☆☆☆
この曲は、一度も聴いたことがなかったので、どんな曲なのか予習しようとしたのですがYouTubeにも出て来なかったです。だから生まれて初めて聴く曲です。プログラムによると、リンドベルイがベートーヴェンとの対話を試みて、同じオーケストラ編成で、数か所の引用を用いながら、現代の「不協和音」を雄弁に語る狙いとのこと。でも、初めて聴く曲で作曲家が狙ったことを把握できるセンスは、自分にはなかったです。演奏するオーケストラも同様で、5種類の弦楽のタイミングが合っている感覚はなく、特に気になったのがティンパニーの音が「ポコポコ」鳴っているように感じたことでした。西洋音楽を初演で弾きこなす(聴きこなす)難しさのようなものを感じていました。
②シューマン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 感動度★☆☆☆☆
お目当てのイザベル・ファウスト独奏曲です。日本の袴を模したようなドレスで登場し、目の前に現れた時は眩しかったです。日本のファンへのサービスなのか、日本贔屓なんだろうと思えました。この曲は、名ヴァイオリニストのヨアヒムの演奏会に向けて作曲したのだが、演奏されることはなかったとのこと。その後、シューマンがライン川への投身自殺を図り、生前に演奏されることはなかったそうです。そして、没後も妻のクララとヨアヒムが相談し、この曲は封印したとのこと。最終的には、図書館に収蔵されていた楽譜が発掘されて、作曲されてから約90年後に初演された作品とのことでした。
そんな経過をたどっている曲ですし、作品番号も付けられていないのです。現代でも演奏される機会は少ないとのことでした。ですが、イザベル・ファウストは10年前にもこの曲を演奏したとのことで、得意な曲なのではないでしょうか。ヴァイオリンが奏でる音は、時に激しく、時にやさしく、全身に響いてきます。この曲は、ヴァイオリン独奏の合間をオーケストラが雄大に奏でる曲ですが、目の前での演奏のせいもあってか、ヴァイオリン独奏とオーケストラ伴奏の感覚でした。
③ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 感動度★★★☆☆
前半はオーケストラのよさを感じることはなく過ぎたのですが、後半のベートーヴェンでいきなり本領発揮でした。冒頭の総奏部分のキレとダイナミックさは並ではなかったです。この音に掴まれて、後は交響曲第7番の世界に引き込まれます。テンポよく進むリズム、小さな音から大きな音までのダイナミックさ、そのキレは尋常ではないと感じました。最前列で聴いていたことを差し引いても、これだけダイナミックな演奏を日本のオーケストから聴くのは初めての経験に思います。先ほどは「ポコポコ」と聞こえたティンパニーも「ボコーンボコーン」と沈み込んで聞えました。
こうなってくると、同じ曲を自宅のオーディオで聴きたい気持ちでいっぱいになります。「あんなサウンドを自宅でも奏でてみたい」「聴き直したらガッカリするのだろうか?」「どうしたら、あんなサウンドが出せるのか?」頭の中はぐるぐるとしていました。
<帰宅して>
普段はコンサートで聴いた曲を同じ順番で聴き直してみるのですが、今日ばかりはベートーヴェンの交響曲第7番のことだけを考えていました。予習で聴いていたのは、ラトル&ベルリンフィル盤でした。ですが、この音源では歯が立たないのは予習時点で明白です。
だから帰宅してすぐに、ベートーヴェン交響曲第7番の音源探しから始めます。ベートーヴェンの交響曲はあまり聴いていないのですが、全集含めて音源だけは沢山あるのです。めぼしいものだけでも7枚ありました。
ラトル&ベルリンフィル盤 Berlin Phil Recordings CD
・普段より音量を上げて聴けば、ダイナミックさは出るが、音像/音場が平面的で楽しくない
そこで、優秀録音盤を聴いてみました。
ホーネック&ピッツバーグ響盤 REFERENCE RECORDINGS SACD
・音は悪くないが、演奏レベルがラトル&ベルリンフィル盤の後に聴くと・・・
それならと、取り出したのが、
ティーレマン&ウィーンフィル盤 Sony Classical CD
・音はまずまずだが、演奏スピードがゆっくりでイメージに合わない。音像/音場も平面的。
少し古くなるが、有名盤はどうかと聴いてみた
カルロス・クライバー&&バイエルン国立管盤 ORFEO SACD
・ライブ録音で音像/音場が立体的だが、音質はもうひとつ。演奏は悪くないが、これは選ばない。
ええい、なら古いカラヤンはどうかと、
カラヤン&ベルリンフィル 60年代盤 DG SACD
・これはいいと思った。音像/音場が立体的で、音質も悪くない。演奏においては最上に感じた。
70年前のカラヤン盤が一番いいとは・・・なら、70年代盤はどうかと確認した。
カラヤン&ベルリンフィル 70年代盤 DG CD
・これもいいが、音像/音場が平面的なので60年代盤に軍配を上げた。
それなら、同じ60年代のウィーンフル盤はどうかと確認してみた。
カラヤン&ウィーンフィル 60年代盤 DECCA CD
・これもいい。だが、おなじ60年代でもべルリンフィル盤の方が演奏が好みだった。
都響のコンサートで感銘を受けた「ベートーヴェン交響曲第7番」でしたが、自宅で保有する音源とストリーミングも可能な限り聴いてみたが、1960年代のカラヤン&ベルリンフィル盤が一番好みに合うとは思いもよりませんでした。最大級のパフォーマンスを聴かせてくれた都響の感動には及びませんが、自宅で聴いてもまずまずのパフォーマンスで聴かせてくれます。イザベル・ファウスト目当てで向かったコンサートでしたが、感動の音と演奏を前にしてはマニア心が湧きたちますね。中々の体験が出来ました。
コメント ※編集/削除は管理者のみ
ライブの後での音源確認面白いですね。
私もたまにやります。
それにしても演奏のレベルはあるとしても60年台録音のアルバムが一位とは驚きです。
カラヤンは録音に非常にこだわっていた様ですが私が持っているブラームスもなんだかモサッとした音でいただけません。
最晩年に近いニューイヤーコンサートは録音もいいと思いますが。
ファウストは4年ほど前でしょうか、確か上野でチャイコフスキーのコンチェルトを聴きました。バイオリンの音がレーザーの様に自分に飛んできたのを覚えています。
また聴きたいものです。
Lotusrootsさん、おはようございます。
ヴァイオリンの名手によるビームの話はよくわかります。自分も楽友協会ホールで、ムターの演奏を聴いた時に同様に感じました。ホールの中央付近の二階席バルコニーでしたが、自分の方に直線的に飛んでくる音に感激しました。
>ライブの後での音源確認面白いですね。私もたまにやります。
普段は聴きなれた音源との比較で済ませているのですが、この日は生に感激してオーディオでも一矢報いたいと思い音源あさりをしました。そうしたところ一番良いと感じたのが、カラヤンの60年代録音で、自分でもビックリしてしまいました。
ですが、60年前がNo1ではあまりにも・・・と思い、新しいものを探したところ、”パーヴォ・ヤルヴィ&ドイツ・カンマーフィル盤”が録音面で優れていて、総合No1となりました。ですが、濃厚さの面からは”カラヤン&ベルリンフィル 60年代盤”も捨てがたく、これからも聴きたくなる音源の一つです。
最近は、録音と再生と生のクロスオーバーが楽しくて仕方がないです。こんな楽しみ方が出来るなんて、オーディオ趣味はやっぱり素敵だなって思います。