Auro3Dさんの日記のSonusのクロスオーバーの話題がでています。
この話題はもう終結に向かっているので今更何を?という事なのですが
特に物議を醸しだすのではなく、自分的なメモです。
一般にスピーカーネットワークのクロスを作るときは、
同じ次数でローとハイをクロスさせます。
12dB/octでクロスさせたらクロスポイントで180°の位相差が生まれるから
片方の結線を逆にしろとかそういうのはこの前提です。
12dB/octのローパスフィルターと12dB/octのハイパスフィルターでの組み合わせの場合。※肩特性(Q)によっても違いは出ると思いますが厄介なのでここでは省略
Sonusの話題で気を引いたのは異なる次数でのクロスオーバー。
スコーカーは6dB/octでやんわりカットして、ツイーターは18dB/octとか24dB/octとか急峻にカットしてのクロスーバー?。実際のSonusのネットワーク回路図が無いのでシミュレーションも出来ないのですが、考えるだけでこれは難しそうです。過去、異なる次数のクロスをデジタルチャンデバで試行したことがありましたが音がころころ変わる割に最終解が出ずに泥沼にはまって諦めた経験があります。
いまではシミュレーションソフトがあったりするので、実験する前に準備計算しておくことが可能になっています。
回路図があればフリーソフトの「Speaker Workshop」を使ってみようかとも思いましたが無いので、Tiの「Filter Designer」を使ってみました。
https://www.tij.co.jp/ja-jp/design-resources/design-tools-simulation/filter-designer.html
※追試される方はこのソフトの中で「Butterworth」を指定するように注意して下さい。次数の設定を変えたり遮断周波数を変更するとすぐに「Bessel」に勝手に変わります。面倒ですがその度に「Butterworth」を指定します。そうしないとこの日記と同じ結果が得られません。
<小休止>
一般にフィルターの遮断周波数 fc とかいわれるのものは
減衰の始まる周波数のとを言います。
具体的には -3dB 減衰する場所のこと。
遮断周波数が1000kHzであるならば、それよりも手前の周波数から減衰は既に始まっていることにご注意下さい。目安が -3dB 落ちたところです。
小休止 おわり
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-3dBポイントで、2.5kHzクロスオーバー(=遮断周波数)のスコカー(MIDユニット)シミュレーション
[:image1:]
[:image2:]
遮断周波数 2.5kHzにおける Phase は 135°と -45°。
つまりその差は 180°です。
じゃあ片方のユニットの接続をひっくり返せばバッチリだね?と思うのは早計です。というのは、ここは「-3dB」ポイントだからです。波形を合成すると「+6dB」なので合成波形はフラットではなくて「+3dB」盛り上がります。実はこれも正しくはなくて、6dB/octのフィルターと18dB/octのフィルターではそもそも 『群遅延』 の 量が 異なるので上手くクロスしません。
グラフから2500Hzクロスポイントを読み取ると、
ハイパスフィルター側の群遅延は159μ秒くらい。1kHz以下は約130μ秒。
ローパスフィルター側の群遅延は32μ秒くらい。1khz以下は40~50μ秒。
ざっと、120μ秒ほど群遅延の量に違いがあります。
タイミングが合いません。
2.5kHzの波長は音速を340m/sと考えれば「136mm」です。
120μ秒で音は40.8mm進みます。100μ秒なら34mm進みます。
これを2.5kHzの位相に換算すると、40.8mm→108°,34mm→90°
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-6dBポイントで、2.5kHzクロスオーバー(≠遮断周波数)のスコカー(MIDユニット)シミュレーション
[:image3:]
[:image4:]
クロスポイント2.5kHzにおける位相はそれぞれ 160°,-60°。位相差は約220°です。180°ではないのに -6dBポイントでクロスしているので合成波形はフラットにはならず窪みます。先程と同様にこれも間違かというと、そうとも言い切れないので、6dB/octのフィルターと18dB/octのフィルター『群遅延』の量を
グラフから2500Hzクロスポイントを読み取ると、
ハイパスフィルター側の群遅延は145μ秒くらい。
ローパスフィルター側の群遅延は28μ秒くらい。
ざっと、100μ秒ちょっとの群遅延の量の差があります。
タイミングが合いません。
2.5kHzの波長は音速を340m/sと考えれば「136mm」です。
100μ秒で34mm進みます。
これを2.5kHzの位相に換算すると、34mm→90°
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まとめると、6dB/oct と 18dB/oct の遮断特性をもつカーブを合成しようとする場合には 『群遅延』 の量に差がでるので何とかしないといけないかも?
そんな折、Sonusのスコーカーは徐々に急になるスロープだ
という情報がのびーさんから、提供されました。
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ちなみに“progressive slope crossover”でググると、以下のサイトが出て来ます。
http://linea-research.co.uk/wp-content/uploads/LR%20Download%20Assets/Tech%20Docs/CrossoverFilters%20White%20Paper%20-C.pdf
この9ページにHardman crossover alignmentという記述があり、progressive slopeについて解説されています。文字通りスロープ特性が徐々に急峻になるカーブの一般的な呼称のようです。
byのびー at2020-12-03 08:28
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こじつけのようですが、Sonusのスコーカーは 6dB/oct で穏やかなクロス特性。しかしそれでは 6dB/oct よりもかなり 大きめの 『群遅延』 を持つ18dB/octカットのツイーターと釣り合いがとれにくいので、遮断特性に影響を与えないもっと上の帯域(たとえば10kHzとか)以上を遮断する2次のフィルターをスコーカーに追加してやれば、『群遅延』を追加することができます。結果的に、『群遅延』の量がツイーター側と釣り合うという、シナリオを メーカーは描いていたのではないか?
“progressive slope crossover”の英文をみてみましたが、単純に2次のフィルターをどこかに追加というものでもなさそう。しかも「徐々に」急になっていくというとまだ理解ができないところもあります。
まぁ、とにかく何かしらの手段でミッドレンジに 『遅延』 を与えたかったのかな?
などと、夢想してみたのでした。
一旦おしまい。 ⇒ おまけに続く
※注意:
シミュレーションをする際、実際にはスロープはdB/octだけでなく肩特性頭に入れておく必要があります。今回はバターワースを使いました。 -3dB減衰の場所でちょうど45°の位相差が生まれるのがこれだったからです。
※今回の日記が難しいという方は、
最初は-12dB/octの減衰特性同士を組み合わせたクロスオーバーの例で
慣れておくと良いかもしれません。こちらは-12dB/oct同士の例↓です。
http://community.phileweb.com/mypage/entry/4813/20200328/64750/
■おまけ■
SONUS FABERSonetto VIIIはツイーターが24dB/octらしいので24dB/octも
シミュレーションしてみます(24dBの前には6dBの影響は軽微なので以降ではスコーカーの6dBを無視します)
●周波数特性
[:image5:]
●位相 (-3dB落ちの場所で180°です)
[:image6:]
●群遅延(-3dB落ちの場所で235μ秒です)
[:image7:]
●群遅延(遅延のピーク値は248μ秒でした)
[:image8:]
群遅延について、スコーカーとの兼ね合いを考えてざっと200μ秒の遅延差があります。
音速を340m/sとすれば2.5kHzの波長は「136mm」です。
200μ秒で68mm進みますので、これを2.5kHzの位相に換算すると、68mm→180°です。
↓↓↓↓
↓↓↓↓
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なんと!
位相差が180°で、
群遅延による差異も180°でありますので、
合算すると 0°あるいは 360°のどちらかです。
位相はぴったり合いそうです。
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へぇ・・・だからSONUS FABERSonetto VIIIの結線は、
スコーカー逆相接続&ツイーター逆相接続でよかったのですね。
どちらか片方をひっくり返す必要がなかった。(妄想です)
注意:
結線をひっくり返すと位相は180°。しかし音の遅れ、遅延量はまったく変わりません。角度で「進む」とか「遅れ」とか表現することもありますが、結線をひっくり返しての180°は「進み」や「遅れ」とは縁のないものです。似たようなものにインピーダンスがあります。実数部も虚数部もどちらもΩ(オーム)で表現されますが、それぞれ全く違うものです。前者のΩは電気を流すと熱に変換されてエネルギーが消費されますが、後者のΩはエネルギーが消費されない不思議な抵抗、リアクタンスです。
2020/12/06追記:
★K&Kフィルターの目的は・・・
SONUS FABERSonetto VIIIのウーハーが正相接続。スコーカーと反対だったのを合わせたい想いからのアイデアだと理解しています。ウーハーとスコーカの接続の相を合わせておかないと、リヤチャンネルの・・・・スコーカーが存在しない2Wayスピーカーと定位を結べないから。
SONUS FABERSonetto VIIIをバイアンプ駆動して、ローとハイのそれぞれに-6dB/octのフィルター(270Hz)を挿入する位相ズラし。
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ウーハー スコーカー
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-18dB/oct -6dB/oct ← 内部ネットワーク
+ +
– 6dB/oct -6dB/oct ← K&Kフィルター
= =
-24dB/oct -12dB/oct ← 仕上がり
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素晴らしい~♪
と、ここで 『群遅延』 について思い出してみます。
『群遅延』が片方のユニットに多いことで、スコーカーは -6dB/oct と -18dB/oct の組み合わせで、片方のユニットをひっくり返すことをしないで位相をバッチリ合わせていました。(想像ですけど)
同じことを、ウーハーとスコーカーでやればよかったのでしょうけどウーハーを270Hzで「-24dB/oct」で切るパッシブネットワークを作るには・・・あまりに巨大で重厚長大なネットワークになってしまって却下されたのではないかと想像します。18dB/octが落としどころ。
じゃあ -6dB/oct だけ アンプ側で稼ぐことができたなら。いや -6dB だけ稼げば全てのユニットを正相接続に統一出来るかもしれない。 K&KフィルターHalf版?
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ウーハー スコーカー
*************************
-18dB/oct -6dB/oct ← 内部ネットワーク
+ +
– 6dB/oct None ← K&Kフィルター Half版
= =
-24dB/oct - 6dB/oct ← 仕上がり
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こんな事できるかも?
<仕上がり状態を表にまとめてみた>
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| ウーハー スコーカー ツイーター
[標準仕様]| -18dB/oct -6dB/oct,-6dB/oct -24dB/oct
| (正相接続) (逆相接続) (逆相接続)
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| ウーハー スコーカー ツイーター
[K&K Full]| -24dB/oct -12dB/oct,-6dB/oct -24dB/oct
| (正相接続) (正相接続) (正相接続)
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| ウーハー スコーカー ツイーター
[K&K Half]| -24dB/oct -6dB/oct,-6dB/oct -24dB/oct
| (正相接続) (正相接続) (正相接続)
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SONUS FABERSonetto VIIIをバイアンプ化して低域側だけに -6dB/octのフィルターを噛ませる K&KフィルターHalf版を試してみるのも面白いかもしれない?
-6dB/octのMIDを、上下から-24dB/octでサンドイッチする構成は見た目にも美しい。
●Fc=270Hzのローパスフィルタ -24dB/oct
[:image9:]
このフィルタ単独で270Hzポイントで 180°の位相変化なので普通は結線を逆にしたくなりますが・・・群遅延が2.2ミリ秒あるのでこれを考えます。270Hzの波長は音速を340m/sと考えれば「1.26m」です。音は2.2ミリ秒で0.75m進みます。270Hzにおいて0.75mは 216°に相当するので、位相 180°を再びひっくり返すインパクトは十分にある。
●Fc=270Hzのローパスフィルタ -18dB/oct
[:image10:]
このフィルタ単独で270Hzポイントで 135°の位相変化。群遅延が1.47ミリ秒。270Hzの波長は音速を340m/sと考えれば「1.26m」です。音は1.47ミリ秒で0.53m進みます。270Hzにおいて0.53mは 151°に相当。
※スコーカーの-6dB/octも24dB/octのフィルタに対しては大きな影響はないと考えて眼中に入れていない。本当はスコーカーにはウーハー側とツイーター側それぞれに-6dB/octのフィルタがある(計2個)ので、群遅延はダブルで効いてきます。また“progressive slope crossover”をまったく眼中に入れていないので、とか色々な条件があって上手くいくとは限らない。
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