上方定位と聴覚: NORDOST system solution Tone-UPの再現テスト

日記・雑記
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幾つかの日記で音像の上方定位のことが議論されています。そこで、幾つかの実験を行ってみました。結果、興味深いことが分かりましたので、日記にしました。

ー実験1 Sophie Milmanの「Take love easy」を4種のSPで試聴 ー

[:image3:](Take Love Easy)

このCDはミネルバさんが日記「オーディオの謎 音像の上方定位」で詳しく述べられております。有名なソニー(現在はリタイア)のかないまるさんがデモで用いたソフトです。天井に近いところに音像が定位するそうです。特に最後のトラックの「Where do you start?」を使われているとのこと。

拙宅のシステムは下図のようなもので、7.1chと背面の2chが混在しています。これをフルに利用すると、4種のSPの組み合わせで2chの試聴ができます。拙宅はPCオーディオですので、ROONを使ってルーティングが簡単にでき、数秒で、7、1chに含まれる3種のSPを切り替えられます。背面の2chへの切り替えは、もう少しかかります。

[:image1:](拙宅のシステム)

①フロントL/R: B&W802Matrix 3way
②リアサイド:POLK AUDIO ブックシェルフ3way
③リアバック:POLK AUDIO  2way バイポーラー
④背面側2ch: Definitive Audio タワー 3way

4種のSPは種類も、配置、周囲の環境もかなり違います。部屋のサイズは11畳くらいで、天井高は2.6m、床はオーク材です。比較的ライブだと思います。予測は幾つかで上方定位が実現し、その他は効果が薄い・・・でした。

(実験結果)
1)驚いたことに、全てのSPで概ね普通に再生されました。天井付近に上方定位することはありませんでした。SPによる差はほんのわずか。
2)アルバムの曲の中では最後のトラック「Where do you start?」が少し上方定位する傾向にありました。それでも、SPの上〜30cm程度です。ボーカルがそこで、ピアノはSPのツイータ一くらいの高さでした。
3)私の聴覚能力による影響もあるだろうと思い、居間にいた奥方(オーディオには興味なし)を引っ張ってきて、④のSPで聞かせました。「Where do you start?」に関しては、私より上方に定位して聞こえるようでした。SPの上60〜80cm位です。明日、娘が来るので、娘にも聞いてもらおうと思います。これは後日報告。

4)(後日)娘とその夫(両者とも30歳台)に視聴してもらいました。 ①のSPを使用して「Where do you start?」と2曲目の「Take Love Easy」も聞いてもらいました。二人とも概ね同じ回答で、「Where do you start?」がのボーカルがSPの上60−100cm、ピアノはツイーターかその僅か上、「Take Love Easy」はもう少し下で、ボーカルがSPの30cmくらい上でした。やはり、私よりは少し上に聞こえるようです。高域聴覚能力は影響しているようです。

まとめ、拙宅の4種のSPでは、十分な上方定位は実現しませんでした。個人差があるようで、高音の聴覚能力の影響を受けていると思われます。

ー 実験2 8kHz付近のイコライジング ー

上下方向の音像定位に関して、文献では音色の効果や、それに関連して頭部伝達関数の利用したフィルターの話があります。以下に二例示します。
1)「聴覚におけるメカニズム」(テレビジョン学会誌)
2)~頭部伝達関数とは?~聴覚の仕組みは解明されていない~
文献1)に8kHz近傍のイコライジングで上方定位するとの記載があります。

そこで、この8kHz付近のイコライジングをROONのDSPを使って行ってみました。試聴は①のSPです。聞いたのは、主に「where do you start?」。イコライジングはPeak/dipの単純なもので、周波数8kHz、Q=5です。結構シャープなイコライジングです。4、12kHzも比較のため少し試しました。左右両chとも同じイコライジングです。

[:image2:](イコライジングカーブ)

(実験結果)
1)8kHz、+6dB
 イコライジングなしでは、ほぼSP位置から聞こえていましたが、明らかに上方への音像移動が生じていました。私の耳で聞いて、50〜60cmボーカルもピアノも同様に上昇します。
2)8kHz、+12dB
 天井に届きそうな勢いです。少なくとも、床から2mくらいはありました。
3)4kHz、+12dB
 音像の上昇効果はありませんでした。
4)12kHz、+12dB
 これも、音像上昇の効果は無しです。エコーが少し強くなった感じです。

(まとめ)8kHzのイコライジングは私の拙耳でも、大変大きな効果でした。

ー 実験3 NORDOST system solution tone-UPの再現 ー

NORDOST system solutionは特に最近、日記で注目されているので、説明の必要ないかもしれません。システムチェック用のCDですが、音を上方移動させるToneのトラックがあります。左右のSPの底部から約6フィート上昇するそうです。

左のSPでこれが生じるトラックでも、右のSPからも弱いながら音は出ており、ヒジヤンさん宅のテストでは右のSPをオフにすると、音像は微動だにしないということです。つまり、右のSPの音を変えて左のSP底部から垂直に音像を上昇させています。

(実験方法)
実験2から分かることは、8kHzを10dB程度強調すれば、音像は上昇するということです。このイコライジングは音色ですので、位相が関係しているわけではないので、逆のSPからの音で音色を加えても良いはずです。つまり、左SPの音は変えずに、右SPから弱めの音を出し、こちらをイコライジングしてみました。

左SP:音量0dB、イコライジングなし
右SP:音量−8dB。8kH、Q=5でイコライジング

(実験結果)
1)右SPの音量は−8dB低下させていますので、左SPの僅か右から音が出てきます。
2)右SPを8kHz、+6dBイコライジングすると、明らかに左SPの音像が垂直に上昇します。〜30cmくらいです。
3)10、12dB、・・・・と右SPのイコライジングを強くしていくと、左SPの音像がどんどん垂直に上昇していきました。+18dBだと床から2mくらいの高さになりました。
4)私の拙耳でこれですので、耳の良い人なら、もっと高く聞こえる可能性もありそうです。

(まとめ)音量を下げた反対側のSPに8kHz付近のイコライジングを加えることで、音像の上昇を生じさせることができました。Nordostの音源もこの効果を用いている可能性が大ですね!

ー実験4 逆位相の影響 ー

左右のSPの位相は、上下方向の定位には影響しないと文献に記載されています。
文献1)では
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特に正中面内(両耳を結ぶ線分を垂直に2等分する平面)にある音源に対しては両耳間の音響信号に差が生じないので方向判断が難しい.上下方向の判断は音色の変化で行っていると考えるのが自然である。
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と記載されています。

これは例えば正面の上と下から来る音は、どちらも同時に左右の耳に到達するからです。両耳で位相差は生じません。

しかし、ファイルウェブでも、上下方向の定位と位相を関連付ける記事がたくさんあり、かないまるさんが、位相を変えて上方定位させたという記載もありました。これはどういうことなんでしょうか。そこで以下のピンクノイズを使った実験をしてみました。

(実験方法)
ピンクノイズを①のSPから再生し、正相、及び逆相の状態で8kHz、Q=5のイコライジングを行う。

(実験結果)
1)確認のためピンクノイズを両SPから同相で再生すると、ツイーター付近の高さのセンターに明瞭に定位しました。
2)ピンクノイズを一方は正相、片方から逆相で再生すると、どこにも定位しませんでした。
3)ピンクノイズを両SPから正相で再生し、8kHzのイコライジングをしても上方への移動は生じませんでした。これは意外でした。
4)逆相で再生しながら、8kHzのイコライジングを両側のSPにすると、+3dB程度でも、ぼんやりした音像が上方移動しました。移動と言うよりは、中央が抜けてアーチ型に聞こえるようになりました。
5)+12dBではこれがより強調される。中央が空洞で、天井まで伸びたアーチ型に音が広がって聞こえるます。かなりぼやけた音像です。

(まとめ)、逆位相は、そのままでは上昇効果はありませんでしたが、8kのイコライジングによる音像の移動効果を与えると、激変しました。逆相で定位を打ち消した後に、音色による音像移動を加えるので、強調されると考えられます

ピンクノイズを同相で再生した時に、イコライジングによる音像上昇が起きないことは意外でした。ピンクノイズの8kHz付近の成分は多くないことが理由ではと考えられます。したがって、音像が上昇し易い音とそうでない音(例えばベースのような低音楽器)が存在するのでしょう。

ー実験5 逆位相(位相回転)の影響2 ー

    (:]ナショナルキッドさん作成の音源を使った上方定位実験)

ナショナルキッドさんに位相を45−135度回転させた音源を提供して頂いたので、位相回転がどのように影響するかもう一つ実験を行いました。

(実験方法)
ファイル名0deg及び+90degの音源(+90は右SPの位相が90度進んでいる)を用いて、8kHz、Q=5のイコライジングを行い、上方定位がどうなるかを視聴した。この音源の中には3種の測定ノイズ音源が連続して記録されており、PN1/PN2/PN3を記すことにします。使用したSPは①のSP。

(実験結果)
1)0deg,イコライジング無
両SPのセンターにシャープに定位します。高さは ツイーターの高さに対してPN1〜 +10〜20cm, PN2〜 10cm、PN3 〜10cmと、PN1が僅かより上方に感じられました。

2)0deg, 8kHz、イコライジング
実験4の逆位相と同じで、+12dBまでイコライジングしても高さは変わりませんでした。

3)+90deg、イコライジング無し
センターよりSPの間隔の1/4右側(中央と左右SPの中間あたり)に左右に少し広がって定位します(PN1よりPN2、PN3の方がより右より)。高さは 0degと同様ツイーターの高さに対してPN1〜 +10〜20cm, PN2〜 10cm、PN3 〜10cmと、PN1が僅かより上方に感じられました。0degと+90degの高さの差はあまりありません。

4)+90deg、8kH イコライジング
3)と右への移動は同じで、音像は上方に移動します。+6dBのイコライジングで30〜40cm上方へ移動、+12dBですと+1m近く上方移動しました。PN1、PN、PN3の間の差はあまり感じられませんでした。同様に音像は上昇します。

(まとめ)
90度の位相回転を行っても、8kHzのイコライジングなしの場合、音像の上方移動は生じませんでした。しかし、8kHzのイコライジングを行うと、顕著に上方移動するようになりました。これは、SPや部屋の音響特性に8kHz付近に凸のピークがあると、位相回転がある場合に、特に上方定位し易くなることを意味すると考えられます。

音像の左右移動はこの日記の主旨ではありませんが、2ch再生で片方のSPの位相が進むと、その方向に音像が移動することが知られています。今回の実験では右のSPの位相を90度進めているので、音像は右に寄ったと考えられます。

***音響学会のQ&Aの抜粋です*****
ステレオの場合,右スピーカの位相が進んでいると,本来中央に定位すべき音像が右に定位します。
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(総まとめ)
以上のように、音像の上下移動・定位は、文献通り8kHz付近のイコライジングが効果的でした。したがって、この音域のSPの特性、部屋の音響特性、また、視聴者の耳の特性が大きく影響すると考えられます。逆位相や位相の回転は音色の変化と組み合わせることで、これを助長すると考えられます。NORDOSTの上昇音源は、このような効果を利用したものの可能性があります。8kHzのイコライジング以外にも、頭部伝搬関数を利用する方法もあり得ますが、頭部や耳の形状の個人差があるので、8kHzのイコライジングを使う方がより万人に効果があるのではないかと思います。

拙宅での実験ですので、部屋、装置が変わると変わるかもしれませんが、年齢とともに高域が低下した私の聴力でも聞き取れるレベルの変化が生じていることは確かです。

上方定位の議論をするときは、まず、8kHz近傍の音圧特性(いわゆるf特)にピークやディップが無いかをチェックすべきかもしれません。

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