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天と地を結ぶ「アキロン」に吹く風

日記・雑記
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昨年来、個人的にずっと音楽を聞きながら気にしてきていたのは
ハイドンの持つ音楽的なキャラクターでした。
一言でいえば、それはおおらかさなのだろうけれど
人々にその音楽が伝わっていくときの力の素直さのようなもの
今日的な問題と絡めて言えば
それはたとえば連帯や協調を呼びかけたとき
その思いがストンと腑に落ちる感じとでもいえそうな
表現のもつ力強さと誠実さ
そんなところが感じられる音楽として
ハイドンを聞くっていう態度でした。

何度か引用したピアニストのポール・ルイスのことば
「ハイドンは即座に笑いをとります」
「非常にダイレクトですぐに語りかける。と同時に…もっと内省的な瞬間もあり…これもまた直接的で、曖昧なものではない。明快だと言っていい」
「ハイドンの音楽は私たちを微笑ませてくれるだけではなく、声を出して笑わせてくれます」
「ハイドンの音楽には無駄な音はひとつもありません。ですので、一つ一つの音の色合い、性格、そして意味合いがとても重要なのです」

もはや現代においてハイドンでもないだろう
っていう声も聞こえてくるかもしれないけれど
ハイドンの作品が呼び起こす感情は大切にしたいし
その感情がインスパイアしてくれるものは
なお一層大切にしたいな~っていう気分で
音楽を聞いてきた気もします。

そんな私がアキロン弦楽四重奏団のデビューアルバムを聞いたら
どうなったのか?

『[Teaser 2] Quatuor Akilone | ‘Haydn, Mozart, Schubert’』
https://www.youtube.com/watch?v=kLGh70ItObM

ああ~こういう演奏が聞きたかったんだな~私は。。。
と率直に感銘を受けたことを告白しておかなければなりません。
初めて世に問う作品の冒頭に、こんなハイドンを演奏してくれて
ありがとう!っていう気持ちでした。

ゆったりとしたムードは、
彼女たちが学んだパリ音楽院で録られたということもあるのでしょう
そんなに広さを感じない、どちらかというと教室のような空間で
親密に音に触れあえる近い音の感じ
相対的に低音部が自然に響く感じも受けます。
先にレビューされたパグ太郎さんがいみじくも指摘された
「4つの楽器が絡み合って作り出す一体の骨格を鮮明に炙り出すことが、
旋律の流れよりも優先されている」
そのとおり、どの音もよく聞こえてくるバランスで
曲の骨組みは、とてもよくわかります。
でもバラバラせずに聞かせてくれたのが素晴らしいところだな~
とも思いました。
緩急の「急」が得意な最近の若手の演奏との違いを感じるとしたら
ここかな~という印象。
技術の確かさがうかがえるところでもあるのかな。

ライナーノーツに目を通すと
かのフランス娘たちは2015年数か月ウィーンに滞在したそうです。
ハット・バイエルレ(元アルバン・ベルク四重奏団ヴィオラ奏者)の師事を
受けながら、「ウィーン魂」の探求にも余念がなかったようで
「ドイツ語を『飼いならし』、
その言葉のもつ音楽性にも精通することができた」
とは、エムリン・コンセ(第1ヴァイオリン)のことば。
「ウインナーコーヒーなどで知られるカフェには、
ハンガリー、ボヘミア、ドイツ、イタリア
といった異なる文化がキッチュとして混在しているのがわかる」
とは、ルーシー・メァカット(チェロ)のことば。
「ハイドン、モーツァルト、シューベルトには
レントラー(ワルツの元祖?)のような
オーストリアのフォークソング(ダンス)の強い影響を感じる」
とは、ルイーズ・デジャルダン(ヴィオラ)のことば。
おそらく名産の白ワインなども嗜みながら
このアルバムの構想も練られていったのでしょう。。。(笑)
またバイエルレは、修辞学から陰陽思想にいたるまで
娘たちに知識を授け、
フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラーの
ウィーンの森の早春を描いた絵画
(youtubeの PVは、ちょっとそんなイメージ)を紹介し
シューベルトへのイマジネーションを彼女たちにわきたたせたようです。

彼女たちの来日コンサートの様子も改めて見直しましたが
まとまっているときの女子の団結力というか
ミラクルを起こすぐらいの伸びしろのようなものを
私は強く感じました。
ルーシー・メァカットがインタビューに答えて
「この4人はメンバーの選べる家族のようなもの」
と言っていたのも、そんなに大げさではないように思えました。

ボルドー・コンクール優勝ツアーでの来日でしたが
精力的にヨーロッパ各地でコンサートを開いているようで
その中でも印象に残ったものとして
エムリン・コンセがアルバムのライナーノーツで
こんなエピソードも披露しています。

スペインのサラゴサでハンディキャップをもった若い聴衆に向けて
シューベルトを演奏したときに、唐突な音楽の変化に対して
彼らが躍り上がって叫んだというのです。
でもこれは音楽を聞いていない騒々しい聴衆なんかではなく
きわめてまっとうな反応なんだ!
そんなふうに彼女は受け取ったのだそうです。

まあ、そういうこともあるよ、という話なのかもしれませんが
天と地を結ぶ「アキロン」を標榜する
彼女たちらしいエピソードという気がしてなりませんでした。
コンセは、このアルバムをコンサートホールの聴衆だけでなく
刑務所や学校や難民キャンプでも共有して愉しんでもらえたら。。。
とも述べています。
どうかこれからも彼女たちのまわりに吹く風が
力強く、しなやかにその演奏を支えるものであってほしい
そう思わされたデビューアルバムでした。

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