万華鏡から見える頑固者気質:児玉麻里『ピアノによるベートーヴェン弦楽四重奏曲』

日記・雑記
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                     2020年05月06日

GWのこのころは、
冬場からの庭弄りの成果が、いちばん華やかに現れる時期で、
毎年のことながら、ちょっと嬉しくて、
花々に心なぐさめられ、来年も咲かせてやりたいな~などと思うのですが
今年は人間界は大騒ぎ(実際は自粛の生活ですが)で
他方、植物たちは変わらず美しい花を咲かせてくれていることに
別の感慨を抱いた今日このごろ
みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

ここ数日よく聞いているのが
児玉麻里の新譜『ピアノによるベートーヴェン弦楽四重奏曲』です。

サン=サーンス、バラキレフ、ムソルグスキー編曲による
ベートーヴェン弦楽四重奏曲と
ベートーヴェン自身による編曲の
モーツァルトのクラリネット五重奏曲
以上の各ピアノ独奏版が収録されています。

「超変化球」っていえば、そうなんでしょうけど
普通に良い演奏だな~と思って、私は聞いています。

児玉麻里といえば、ベートーヴェンのイメージは強いですよね。
2003年から10年かけて取り組んできたピアノソナタ全集を完結させ、
さらに昨年ピアノ協奏曲全集も完結。
私は最初は内容がよくわからずに、
その一連の落穂拾いのようなものなのかと思って聞き始めたのですが
バラキレフ編曲版以外は世界初録音ということで
どうりで耳にしたことがない感じがしたわけでした。。。

全体として坦々とした演奏が続いていて
ピアノソナタのときのようなベートーヴェンの演奏をイメージすると
ちがう感じはすると思います。
テンポも基本ややゆったりめですし
音色も特段硬かったり柔らかかったりするわけではないです。

でもアルバム中盤、ラズモフスキー第2番あたりから
グッと引き込まれてきました。
ひとつのピークは
やはりムソルグスキー編曲による第16番でしょうか。
ベートーヴェン最後のカルテットです。
第3楽章は、最晩年の少しさびしい夢のような、
でもある種清澄な境地を感じさせる音楽ですが
ムソルグスキーの編曲は
その境地をさらにラディカルに表現してくれているような気がして
思わず聞き入ってしまいました。。。
そのあとはお馴染みモーツァルトのクラリネット五重奏曲が
ピアノ独奏で、まるで可憐な春の花々のように聞こえてくる
そんな流れでした。

その後、児玉さんの書いたライナーノーツに目を通したのですが
彼女のベートーヴェンに対する思いの丈が打ち明けられていて
共感を覚えました。

「真の芸術は頑固です…それはお世辞に抑制させられることはあり得ません」
(“True art is obstinate … it cannot be curbed into flattering forms”)

それが最も象徴的に表れているのが、この言葉でした。
これはベートーヴェン自身のものなのだそうですが
彼女が述べていることを
私なりにまとめてみると次のようになります。

人間が尊厳を構成するためには、
自由を自分のものにする義務があり、その義務を果たすためには、
伝統的な思考を超えてしか見られない
新しい何かを開発し、絶えず追求し、創造しなければならない。
それは彼自身がいつもやってきたことであり、
あらゆる作曲で新しい音楽的解決策を探してきたことこそが、
彼の音楽の巨大なダイナミズムなのだ。

その上で彼女はそんな彼の態度を非常に楽観的だと評しています。
それは彼の作品には多くの希望があり、人々がその知性によって個性を守り、
道徳的利益のために、さらにその希望を発展させていけるからだと述べた後で
ベートーヴェンの音楽は
彼女自身の楽観主義に貢献するものでもあったと結んでいます。
おそらくは彼女自身が苦境にあったときも
上で述べたその楽観主義を頑固なまでに貫けたことが
音楽家として、あるいはひとりの人間としての成長につながった
そんな思いなのだと推測できました。

そしてこのアルバムに収められた曲はみな
単なるトランスクリプションなのではなく「詩的な改作」であり、
3人の作曲家たちは
ベートーヴェンが私たちに絶えずもたらす「頑固さ」の要求に
正確に応える方法をそれぞれに教えてくれているのだ
とも述べているのです。

いや~なかなかどうして
彼女も頑固者だという感慨を持ちました(笑)。
万華鏡のように多彩ともいえそうな曲たちを奏でる
彼女のピアノによって紡ぎだされる
穏やかな時間の流れの中に
真摯さというか、居ずまいの正しさのようなものが
一本通っている感じがしてきました。

おかげさまで弛緩しきってしまいそうなこの休みを
なんとか乗り切ることができたような気がしています。。。
そして明日からのリスタートに向けて
今日もまたこのアルバムを聞き続けることになりそうです。

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