2015/01/24
最新のDAC音質比較記事はこちらにあります。
http://innocent-key.com/wordpress/?p=2563
Philewebの記事は新しい記事のようにIC以外の条件を揃えていないため、アナログ回路の違いなどの影響が大きく、今から考えると正確性はかなり微妙です。ここに書いてある比較はあくまで該当DAC搭載機の比較なので厳密なものではありません。あまり参考にしないようにお願いします。
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6/23 追記
デジタルフィルタについて
記事で使用しているWM8741自作DACでは、CS8422のSRC内蔵のデジタルフィルタが常に有効になっているため、当日のデジタルフィルタはCS8422内蔵であるMinimum Phase Apodizingに近いタイプのものとなります。残念ながらフィルタの比較は思い込みでした。
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煽るようなタイトルですみません。内容は前回予告していたES9018とWM8741の比較についてです。単純な感想だけじゃなくて現時点で分かる範囲で掘り下げてみました。まずは比較対象のDACを以下に示します。
・ES9018DAC
EMDAC 9018D minormeetingさん作
Yulong SABRE D18
・WM8741 自作品とMSDK氏作
どちらも自作基板搭載、詳しい仕様はこちら(リンク)
他にCapriceを個人的に所持しているため、ES9018採用機種については3種類比較したことになります。WM8741DACは自作品のため音は聞き慣れていますから、音の差についてはES9018機種間の相違ではなく、WM8741機との比較を中心として判断しています。
■試聴の主観的印象
だいぶ前になってしまったので印象がやや薄れてしまいましたが、覚えている範囲で書きます。比較はminormeetingさん所有のシステム(リンク)です。
ES9018搭載機は全て共通の冷静さを感じました。よく言えば高精度なのですが、そっけない印象も受けました。単体で聞いた時には十分な高品質のはずなのですが、音楽的な厚みというのでしょうか、実体感を感じさせる「何か」は不足している気がします。ここではおおまかに「濃さ」と表現します。
一番大きな差だったのがKRELL Evolution 505のCAST接続との比較です。CAST接続はこの日聞いた中ではもっとも音楽的に濃い音を出していました。当日お聞きした解説ではKRELLはRCA接続がもっとも貧弱な音とのことでしたが、確かに比較するとCAST接続だけが異様に濃さのある音が出ます。ES9018搭載機はこの濃さがほとんどなかったのがとても印象的でした。高忠実のはずなのですが、音が遠い、冷ややか、というのが感想です。
WM8741機についてはかけた瞬間にES9018機とは明らかな違いがあります。一番その違いを感じさせるのはその低音の厚みと音の深さ。ES9018機は良く言えば締まった音で忠実なように聞こえるのですが悪く言えばやや平面的でつまらない、WM8741機は低音の質感を感じさせる音で前に出るけど奥行きもある、実体感のある音です。CAST接続と比較するとWM8741でも濃さにおいては確かに負けてはいるのですが、RCA接続だったことを考えるとかなり健闘していたと当日の試聴メンバーの方々も驚かれていました。
とにかく結果として試聴においてWM8741機のほうがパッと聞きの印象として魅力的だったのが結論です。実は部品をかなりケチった自作品よりもちゃんと資源投入しているMSDK氏作のDACのほうが高評価だったのですが、一応DAC基板&ディスクリートオペアンプはどちらも自作品である為、このような自画自賛的コメントを書くことは非常にためらわれてしまいますが、実際の感想と印象として記載させて頂きました。
■原因の考察
これだけではただの個人的な主観的感想だけとなってしまいますので、もうすこし内部の話に踏み込んで違いの原因を考察してみたいと思います。
1.ディスクリートとICの違い
この日の試聴機においては、WM8741機だけがディスクリートオペアンプ、ES9018機はどちらもICオペアンプという大きな違いがありました。このため音の分離についてWM8741搭載機のほうがずっと有利な条件なのがまずは大きな原因となりそうです。
ディスクリートはICよりも理由は不明ながら音の鮮度の高さ、情報量の多さについては圧倒的なのが事実です。CAST接続のような音の濃密さを出すためにはまずはこの分離の良さというのが非常に重要と個人的には思っています。
例えば、Capriceについては自宅環境での比較なので同条件ではないですが、上記2機種に比べてES9018搭載機でありながら一番そっけなさは少ないような気はします。これはCapriceはディスクリートオペアンプに設計者独自の個性を音色として載せていること、ディスクリートの分離のよい描写が音楽をより詳細に表現していること、この2つがCapriceが独自の魅力を出す大きな要因ではないかと思っています。
ディスクリートとICの音の差については、以前の記事ですがこちらを参照ください(リンク)。
2.デジタルフィルターによるの違い
ここまでのお話だけですと、ES9018とWM8741の違いではなくて、実装の違いが勝敗を決めたのではないか?、という結論になってしまいそうですが、実はもうひとつ外せない大きな違いが両者にはあります。
実はES9018とWM8741のその外せない違いは何かというと、チップスペックよりも実はデジタルフィルターの実装にあると思っています。デジタルフィルターによる違いはここで解説するよりもまずはこちらをご覧ください。
http://www.axiss.co.jp/Ayre/Ayre_MPFilter_Tech.pdf
一般的なDACではプリエコーのあるリニアフェイズタイプを採用しています。ES9018も調べた限りではリニアフェイズです(プリエコーのある応答画面がありました)。対してWM8741はこのPDFにある全てのタイプと同様のフィルタを選択可能です。
フィルタの音の差については以前録音ファイルをUPしましたので(リンク)実際に聞いてみてください。とはいえ正直録音ではよく違いがわからないと思います。でも実際に聞いてみると次の通りの違いを感じています。測定で忠実なのはLinear Phase Apodizingのはずです。
・Linear Phase Apodizing
他と比べて音がやや埋もれるが、高域が非常になめらか。これを選択するとES9018と似た印象の音になる。
・Linear Phase Soft
Linear Phase ApodizingとMinimum Phase Softの中間的な音。中途半端で印象に薄い。
・Minimum Phase Apodizing
Linear Phase Apodizingから切り替えると高域にかすれが生じるが開放感がかなりでる。音の分離がよく見通しが良い。
・Minimum Phase Soft
最も開放的で分離が良い音。高域がややかすれたような音になるのはMinimum Phase Apodizingと同じだが大差はない。分離は一番良い。
分離至上主義ならMinimum Phase Soft、高域の綺麗さを選ぶならLinear Phase Apodizingとなります。両立は不可能のためこの2つが最も極端な組み合わせだと思います。(Brickwallは44.1では選択できないので外してあります)
DACチップ単体で最も違いが出るとしたらこの部分だと思います。実際に当日の試聴でもフィルタを切り替えを試しましたがMinimum Phase Softがやはり好評でした。オーディオにおいては高域の歪の繊細な違いよりも、分離の差のほうが厳しく評価されているのだと思います。
■結論として
1にディスクリートオペアンプ採用、2にデジタルフィルターのプリエコー排除。この2つが試聴での優位性を決めた部分かと思います。
現実にディスクリートアンプが市場にて多くの優秀なICオペアンプより高評価がされている事実があります。これはその音の分離のよさ=濃さ?をオーディオファンが評価したからであると思っています。
これが真実であれば、オーディオは単純なTHDの優秀さだけではなく、それより数字にはなかなか出てこない分離の高性能さを無意識に求められてきたといってもよいのではないでしょうか。だからこそスペックに劣るWM8741がES9018よりも実際の試聴において優位性があったのではないかと思うのが理由です。(KRELLのCAST接続については詳細全く不明ですが音には同じような優位性がある可能性も)
最後に。実際にはDACチップの個体差による音の違いとかもあるのかもしれないですが、理由としてあげられるものを上げてみました。ICとディスクリートオペアンプの違いみたいな、謎のチップの個体差で分離が違う!とかの結論だったほうが未知の世界が残りますしロマンはあります。
同様のフィルタを持ちつつTHDのより優れているAK4399はあまり面白くない音という評価もありますのでチップ自体の個体差という原因も完全に否定は出来なさそうです。
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