ADコンバータでオーディオの真実に迫りたい!

日記・雑記
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今回は本当にこれを狙って自作ADコンバータにチャレンジしたので、その結果と考察について書きます。DACでディスクリートによる音の差があるならば、ADにおいてもディスクリートで差動アンプ+アクティブLPFを構築することで、いままでHDSP9632による録音では明らかに出来なかった音の秘密に迫ることができるのではないか?と思ったのが発端です。

しかし市販の高性能ADCではフルディスクリート構成という製品で現実的に入手可能なものを見つけることが出来なかった為、自作以外に結局のところ選択肢がなかったわけです。今回も下の方に録音データがあります。

■ADCの仕様
[:image1:]
ADチップは最高峰スペックの一角であるTIのPCM4220を使用。ADチップ用のMCLKは低ジッタオシレータから直接チップへ供給する形態です。これによりジッタの少ない忠実な信号を録音できます。問題はマスターが単一クロックだけだと任意の周波数出力(44.1系と48系)には対応できないことです。

そこでSRC4392を使用して、外部マスタークロックを基準とした信号をSRCで変換して作り出します。マスターをPCのSPDIF出力として接続しておけば、PC側の周波数設定にあわせてSRC4392が同期した録音データを送り返してくれるというわけです。SRCによる劣化は受け入れるかわりに実用性と録音時のジッタを減らすことを優先した設計です。このADCの構成は自作DACとちょうど同じ手法かつ逆向きの設計です。

今回CS8422を使用しない理由はSPDIF出力がないこととデジタルでの忠実性に於いてSRC4392のほうが上と判断したからです。SRC4392はトランスミッタ兼レシーバ兼SRCを一つのチップでまかなえる優秀なチップなので設定次第ではADクロックをマスターにしたデータを受けることもできます。

見難いかもですが、大まかに全体の構成を書くと次のとおりです。

 差動アナログ入力
 ↓
 PCM4220←低ジッタオシレータによるMCLK
 ↓ADされたデータ
 SRC4392←PCからのマスタークロック
 ↓マスタークロックに同期されたSRC出力
 PC

入力アンプに使用したのはDACのディスクリートオペアンプとは別の回路です。初段FET+カスコードブートストラップによりハイ・インピーダンスソースに対しての歪増加を防ぐことを期待した設計で、全体の回路としてはほぼAD797を模した物となっています。

DCゲインがやや低いため歪率とノイズはDACに使っているディスクリートオペアンプや本物のAD797にはかないませんが推定THD+N0.00008%(1kHz)ほどで思ったよりも良い性能になりました。FET入力で歪率とノイズを押さえるのは大変難しく、いくつも試作を作り直しました。

■自作ADCの性能

これがなかなか厳しく今回のバージョンはノイズが出るため正直あまりよい出来ではありません。ADはチップに近づくほど信号が小さくなる上に残留ノイズもそのまま記録されてしまいます。だから本当にしっかりノイズ対策した設計でないとちゃんとした性能が出ないようです。消費電力とかバカ食いでもいいので入力9VくらいのADCがあればSNあげるのもかなり楽そうなのですけど…。

FFTデータを次に示します。PCM4220の基本性能のおかげで大分低い位置にノイズフロアが見えるのは良いのですが実使用時の残留ノイズが若干多いです。頑張ってあとから基板上で対策をしたのですが特に1kあたりのノイズはどうしても消すことができませんでした。これがADCのMCLKからの回りこみであることはわかっているのですが。

・実使用時Lチャンネル
・実使用時Rチャンネル

・短絡時Lチャンネル
・短絡時Rチャンネル

実使用時のLチャンネルの高周波が結構ひどいです。これは入力のアナログフィルタを強化しても電源のパスコンを強化しても消すことができませんでした。ハムも入ってきます。今回の基板は根本的な問題が多いのでここまでかなと思っています。ノイズ対策と修正でよく見るとADチップ周りは結構ひどいことになってます。

RMEのHDSPはアンバランスでケーブルを接続してもこのようなノイズは入らないので一体どうなっているのかと思ってしまいます。

後の祭りですがPCM4222のリファレンス基板設計データを今更発見し、よく見ると自分の解釈が間違っている部分がいくつもあったので、次回再設計時(次回があれば)に徹底した対策をしたいと思います。

■録音データ

・サンプル1セットDL
・サンプル2セットDL

ややこしい話はここまでにして録音データです。今回の音源は前回のProjectSAMの音源デモともうひとつは2Lにて公開されていたハイレゾ音源です。再生DACはそれぞれ次の6通りでの録音です。今回はファイル数が多いため圧縮データにしました。

自作PCM1795
自作PCM1792
自作WM8741
Capriceアンバランス端子出力(CapriceU)
Capriceバランス端子出力(CapriceB)
DA10バランス>アンバランス変換出力

録音の条件を揃えるため全てDAC側はアンバランスでADC側がバランス接続となっています。ADCがバランス入力でないと全くゲインが入らずSNもTHD+Nもお話にならないスペックのためアンバランスはバランスへの変換が必須です。バランス入力なら最高でTHD+N 0.0015%くらいまでいけるのでHDSP9632よりも良いです。

DAC>アンバランス出力>Lundahl1527>バランス>ADC

[:image2:]

■録音データの個人的な感想

第一の注目はCapriceのUとBでした。B=バランス端子出力となっており、Capriceのバランス端子出力はこのDACの真骨頂であるFidelix製ディスクリートオペアンプIV変換からの直接続のはずです。

対してU=アンバランス出力はアナログボリューム+FETによるICオペアンプを経由しているため実機では音の鮮度、分離においてはかなりの差があります(バランス端子出力のほうがずっと鮮度良くきこえる)。しかし測定においては差動が効いているアンバランス出力のほうが歪率は低いです。

この差がどのように録音されているかが第一の焦点なのですが、2つのファイルを耳で聞いた感じはB=ディスクリート、U=IC+アナログボリュームの差についてはあまり録音できてないような気がします。実物を聞いた時のような音の差はほとんど感じられません。測定上でアンバランスのほうが歪みが低いせいかUのほうが奥行など綺麗に聞こえる部分もあります。

FFTの測定データ=ADCされたWAVデータと同等ですから測定できる違いしかADCには記録されないという結論になりそうです。精度に劣る上に手間もかかるディスクリートオペアンプでわざわざADCをする意義はないかもしれません。

でも実際に試すまでは動的なWAVファイルを耳で聞けば測定とは異なる違い、細かい音の差もわかるかなという可能性も考えていたのですが、怪しくなって来ました。

次に注目なのがPCM1795とPCM1792の差です。この2つは全く同じ設計の基板を使っていながら音は結構違います。あえて比較するならばPCM1795のほうはややどっしりとした密度感のある音、PCM1792は透き通っていて線が細く綺麗系の音です。

これも録音データではほんの僅かしか違いがありません。測定値でPCM1795のほうが良い為、PCM1795のほうが録音ではよく聞こえますが実機ではPCM1792のほうが見通しがよくクリアで良い音に聞こえます。その実機での良さが全くといっていいほど録音では表現されていません。実機では見通せるはずの視界の差が、まるでなかったことになっています。

(録音データを聞いて異なる感想をお持ちの方がいらっしゃいましたら、よろしければコメントいただけると助かります。)

■なぜなのか引き続き考察

今回録音した楽曲データは元々他所の機材で制作されたWavファイルです。そしてDACから出る音はそのWAVファイルに含まれている情報だけが出てくるわけです。ここまではごく当たり前の話だと思います。

しかしながら実際にDACで同一のWAVを再生しているにもかかわらず、出てきた音にはそれぞれの機体によって大きな個性や違いが現れてきます(これは元々のWavに含まれていない付加的な情報、要素か?)。しかしDACの再生音を録音してもそれぞれの細かい個性は消えてしまい、ふたたび画一的な録音データになってしまいました。

ここからさきは妄想含む考察ですが、アナログの音声には現代技術では録音不可能なずっと豊かな情報があるのではと思うところです。デジタルからアナログになる時点でその情報は現れてきますが(録音すると消える=元のWAVにも含まれていない要素と思われる)、デジタルに落とすとそれが消えてしまう。特にディスクリートとICの違いなどはまさにこれに該当しそうです。

この付加的要素は耳では補足可能ですが、現在の録音機材や測定器では捕捉できない要素なのではないかと思ってしまいます。

>NEGLEXの思想 – オーディオ・ケーブルの謎
http://www.mogami.com/sales/products/neglex.html
これはだいぶ前に読んだことがありますが、こちらにも同様の話があります。超理詰め集団に見えるモガミ電線がこのような結論を出していることに読んだ当時驚いたものです。

今時のDACならほとんど測定上は一線を越えた領域にあるはずですが実際の音については大差があります。測定の成績が大変優秀なE-mu 0404USB、ASUS XonarSTX、この2つは比較的低価格だったのでどちらも所持していますが、耳で聞くとそれほど良い音だと思ったことはないのが実状です。しかしループバック測定が優秀なのですから、原音の再生/録音には十分な性能なのだと思います。しかしこれらは上記した再生時の付加的要素には欠けるということでしょうか…。

自作をしていて経験のある測定にでない事例を他にあげるならば、一定以上のクオリティの抵抗の音の差、配線材の音の差、必要以上のコンデンサの位置と量による音の差、一定以上のレギュレータの性能差などがあります。一定以上と条件をつけたのは、ある一線を下回ると測定値も悪化するからなのですが、必要な物量を投入すれば測定値は変わらなくなるからです。でも音は測定値に変化がなくても変わります。

このあたりの微細な変化は測定で捕捉できない領域ですから録音でも捕捉できないと思われます。長々と書きましたが、結論としては「録音ではオーディオの真実には迫れない」ということになりそうです。これは残念な結果としか言いようがありません。

ふと思ったのはアナログの録音だったらこのへんの結果が違ったりするのでしょうか。今でもアナログが支持されているのは実は記録されている情報の種類自体が異なる?という話があってもおかしくなさそうだと思いました。

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