Director’s intention VS Listener’s intentionをどう考えるべきか―入交氏のアドバイスを受けて

日記・雑記
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既報の通り、先日、現時点の日本において、Auro-3D録音に関しては第一人者であろう入交さんと、その薫陶を受けてご自宅に入交さんによるセッティングによるAuro-3D環境を設置しておられるという、三上さんのお二人が伊豆の拙宅にお見えになりました(敢えて、お二人の肩書を書いていないのは、この記事の内容に関しては、所属先のWOWOWやMQAとは基本的に関係ないもので、「組織人」としてではなく「個人」として頂いたアドバイスと理解しているからです)。

そこでいただいた数多くのアドバイスは、すべて一つのベクトル線上にあるのですが、それをどう自分なりに取り込むべきか、三日間ほど考えておりました。実は現時点でまだ腹を決めかねているのですが、皆さんのご意見も聞いてみたいと思い、生煮えですが(汗)記事化することにしました。

まず、軽く(笑)。今回、お二人がお見えになるに際し、手持ちのAuro-3Dソフトをすべて出してみました。<写真>[:image3:]

映画BD 6枚

2L BD 17枚

その他映像付き音楽 BD 7枚

その他音楽BD 15枚

ダウンロード音楽タイトル 19本

合計64 ソース

「Auro-3Dはソフトが少ないから導入を検討する気はない」という方は多いと思いますが、まあ、初期のSACDみたいな状況かと(笑)。これを増やすべく、入交さんも三上さんも、日々ご努力なさっておられるわけです。

さて、ここからが本題。

いきなりですが(笑)、皆さんのオーディオシステムのゴールは何でしょうか?「原音再生」でしょうか?

さすがに、「録音」されたものに対し「オーディオシステム」を通すことで、「原音再生」を目指す、というのは<Fiction>であるというのが、少なくとも私の現時点での理解です。そもそも、録音エンジニアの方が、「原音を<加工>して録音している」とはっきり言うのですから(笑)。

では、次に何を目指すかというと、これも多くのオーディオマニアが口をそろえるのが、「Director’s intentionの再現」というものでしょう。

言うまでもなく、ここでの「Director」とは「オケなどの指揮者」ではなく(笑)、「録音エンジニア」のことですね。

多くの方々は、この追及に血眼になっておられると拝察しますが(汗)、では、そのゴール(Director’s intentionの再現)に自分のシステムがどれだけ近づいているかをどう判断しておられるでしょうか?

これは論理的に考えれば、最も確実な方法は、ソースを録音・制作したDirector本人に、そのソースを自宅のシステムで再生したものを聴いていただいて、ご本人のIntentionと<どう違って聴こえるのか>をチェックしてもらうことだと思います。

しかし、まあ普通、これは難しいですよね。よほど、運のいいコネがないと(笑)。

今回、入交さんは、ご自分が録音エンジニアとして制作されたAuro-3Dソフトを拙宅のシステムで再生され、その録音に際しご自身が込めた「意図」と、「拙宅での聴こえ方」の違いを指摘していただきました。このような機会を得られた幸運を、少しでも皆様と分かち合うべく、以下にご報告します。何らかの参考になれば。

・・・・・・・・・・・・・・・

最初に総論的な結論を申し上げれば、拙宅の音は、Director’s intentionとはちょっと(かなり?)異なっているようです(泣)。この結果を受け、私の眼には、これまで拙宅にお越しになった皆さんの「訪問記」が、死屍累々と横たわっているように見えます(汗)。それらは、「本物のAuro-3D」の音ではなく、「Auro3Dの音」(ハイフンがないのは商標に配慮して私のハンドルネームにしたからです)に対する印象だったわけですから…以下は、入交さんと三上さんからいただいたアドバイスの混成です。どのアドバイスのどの部分がどなたからのものであったかは正確には記憶しておりませんので、両者、混然一体となっておりますことをお断りしておきます。

最初に、「前回のスタジオツアー内では、Auro-3Dのセッティングマニュアル通りでなくてもいいというような説明もあったが、補正(距離調整含め)になるべく頼らないセッティングをまずは目指すべき」という大原則を強調されました。これまで何度も書いてきたように、私はDirac Liveという音響・音場補正ソフトの精度をすっかり信頼しており、「少々のずれはDirac Liveが修正してくれるだろう」と横着を決め込んでおりましたが(汗)、いきなり、ガツンと一発食らった気分でした(笑)。
[:image4:]
まず、入交さんがご自分でお作りになったという、Auro-3D専用の測定・調整ソフトの入ったPCを私のAVプリに接続し、チャンネルごとにPink Noiseを出していきます。入交さんは私がDirac Liveでキャリブレーションした位置にお座りになり(Dirac LiveはOn)、目を瞑って、それはもう、ものすごい集中力で聴いておられました(とても、お声をかけられない雰囲気…さすがプロの迫力でした)。

<写真>[:image5:][:image6:]

終了後、いただいたコメントはDiscussionも入って長いので、以下に要点のみ箇条書きで:

1. サラウンドSPの音圧がLRとも低い。マニュアルであと2dbぐらい上げるように。
2. Lチャンネルの音像が、左側の壁から来る1次反射のせいでスピーカーの外側に引っ張られている。左サイドの壁に、なんらかの吸音材を入れた方がいい(ここは乱反射材を置くのはダメ)。<写真>[:image8:]
3. LCRをもっとリスニングポイント手前に持ってきて、LRの開き角が60度になるように設置しなおした方がいい。現状は狭すぎる。LCRを前に持って来ると、上下の垂直関係が崩れるが、それよりLCRの開き角の方が大切。
4. Topスピーカー(Voice of God)が真下を向いていないのはやはり問題。音のDirect感が損なわれる。

補足しますと、1に関しては、Dirac Liveで調整しているのに、入交さん(=Director)の聴感では音圧が足りないようです。
2は、先にシバンニさんにも指摘され、ここで記事にもしましたが、 絵画のガラスを外したぐらいではまだ強い一次反射が残っているようです(汗)。
3に関しては、ハイトのLCRの真下にフロアのLCRを置け、との指示がAuro-3DのInstallation Manualにあるので、それを守っていたのですが、Topスピーカー(Voice of God)の位置(拙宅の場合、これは動かせない)の真下にリスニングポイントを設定しなければならないという定義になっているため、リスニングポイントがLCRから遠くなってしまい、結果としてLRの角度が狭くなっておりました(自覚的だったため、5.1ch再生時にはリスニングポイントをもっと前に設定してあり、LRの角度60度を確保する位置にマークがあります)。
4に関しては既知の問題。すでに来年のリフォームに向け大工と相談中。

ということで、早速入交さん自ら、LCRを前に出していただきました(キャスター付きの<邪道オーディオ>のメリットですね!!!=笑)

<写真>[:image7:]

次に、入交さんが制作された、Auro-3D音源を、持ち込まれたPCにインストールしてある「ωプレーヤー」を起動してサーバー経由で再生しました。ピアノ曲や教会録音のベルディのレクイエムなどを聴いた後、またまたありがたい(汗)コメントが:

1. フロントハイトスピーカー群が、すべてバッフル面が横になって設置されているため、音の広がり方が、左右に広がらず、上下になってしまっている。しかも、フロントハイトスピーカーがリスニングポイントを向いていないため、傾斜天井からの1次反射、2次反射の影響で、上からの音が広がりすぎて上方の音像が膨らんでいる。
2. できれば現在Wideとして使っている、Sonetto をフロントハイトLRにした方がよい。WideはAuro-3Dでは定義されていないのでAuro-3D的には重要ではない。LCRの上下の6台(フロアとハイト)がAuro-3D再生では特に重要。ここにできれば、同じスピーカーか、少なくとも音色の揃ったスピーカーを揃えるべき。
3. StormのXTモードはクラシックのようにアンビエント音を演出するなら使ってもいいが、JazzのようにSolidな定位を求める場合は、例えば、フロントのRとサラウンドのRとの間に定位させようとするDirector’s intentionを損なってしまっている
[:image1:]
これも補足しますと、1は、この写真にあるように拙宅ではLCRのフロントハイトを梁の上に横に寝かせています。地震があっても落ちないように、木ねじで固定しているのです。これをリアハイトのような(写真)[:image2:]縦位置の設置にした方がいいということです。しかも、このハイトLCRはすべて床と平行に設置されているので、直接音はリスニングポイントに届くと同時に、傾斜天井に当たって下(リスニングポイント)に音波が反射しているはずです。これを天井面からの反射を減らすために、リアハイトのように下向きにせよ、ということのようです。ちなみに、このコメントが示唆するところは、いわゆる一般に売られている「センタースピーカー」と呼ばれる横置きのSPは、Auro-3D的には使ってはダメだということを意味しています。
2は、確かにフロントワイドSPはAuro-3D再生には必要なく、ATMOS用に設置してあるものです(ただ、これは3に関連するが、拙宅ではAuro-3D再生時にも鳴らしていることが多い=後述)。私としては、フロア層のスピーカー群の音色を揃える(2Fは2Fで音色が揃っている)のが大事だと思い込んでいたのですが、どうやらAuro-3Dによる音楽再生では、「フロアと第二層のLCR」の音色のつながりの方が大切なようです。
3は、以前もご紹介しましたが、 StormのAVプリだけのオリジナルモードで、本来、7.x.5.1であるAuro-3Dの最大SPハンドル数を、もっと多くのSP(拙宅の場合は、9.4.7.1全部)を使って再生できるようにする技術です。私は普段はこの「StormXT」モードをOnで聴いており、この時Offにするのを忘れたのです(汗)。入交さんたちに指摘されて、Offにしてみると、「こちらの方が良い」と言われました。

これらのコメントを残し、お二人がお帰りになった後、私はしばらく考え込んでしまいました。

もちろん、この道何十年のDirectorの耳の確からしさを疑うことはなく、これらのアドバイス通りにすれば(すぐには不可能なものも多々ありますが=汗)、正真正銘の「Director’s intention」に近づくことだけは間違いありません。個人的にはそれを聴いてみたいという気持ちがある反面、それって、もしかすると自分がこの部屋で再現しようと意図した音、つまり「Listener’s intention」と乖離しているのではなかろうか、と。

私はこの二年間、折々で書いているように、「風呂場のカラオケ」的な音場感が好きです。拙宅の(恐らく)Live過ぎる部屋や、1次反射をわざと利用したハイト・トップSPの設置方法などは、まさにこの「風呂場のカラオケ」感を演出するのに一役買っていると思っています。つまり、この音場は、私のPreferenceで意図的に作っているのです。そして、拙宅への訪問記によれば、この音場感を「好ましい」と捉えている方は私一人ではないようです。

言うまでもなく、「Director’s intention」至上派(笑)の方は、このような機会があってアドバイスをいただいたら、一も二もなく、実行されるでしょう。しかし、私自身の立場は、これも前から主張しているように、「Director’s intention」とはプロのスタジオでのみ再現可能で、素人の自室では実現不可能だと思っており、むしろ、それを積極的に<自分なりに味付け>するのがオーディオの楽しみであり、その意味で、オーディオ再生は一種の「芸術」であり、オーディオファイルは一人一人が「芸術家」のようなものだ、とすら書いたことがあります。

もちろん、今回戴いたアドバイスは、来年のリフォーム時に大工さんにお願いしてほとんど実行する気でおります。めったにない貴重な機会を得たのですから、それを活かした音を是非聴いてみたいからです(笑)。ただ、その結果、出音が自分の好みでなかったら…Director’s intention VS Listener’s intentionをどう考えるべきか???

そのような私の内面の逡巡を察してか、入交さんには帰り際に、「まずはともかく、<本物のAuro-3Dの音>をスタジオに聴きに来なさい」と言っていただきました。

「これはお言葉に甘えるしかない!Director’s intentionの音を聴いてから、いただいたアドバイスに対してどう取り組むべきかを決めよう」

ということで、私一人でスタジオを独占してはあまりにももったいないので、近々、これはと思う方にお声がけして一緒にお邪魔したいと思っております。続きは、次号(笑)?

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