オーディオと実演の活動は似ていると感じる「いい音」編の3回目です。
声楽/オペラにおけるいい音とは、簡単にまとめると下記となります。
③歌声に響きを持たせて、全身から響きを発するようにすること
③の「歌声に響きを持たせて、全身から響きを発するようにすること」とは、響きのある歌声を発し、その響きを全方向に発するようにすることです。イメージは芯の周囲にある響きの部分に当たります。
響きのある声は聴いて心地よい音となります。更には声楽/オペラにおいて、広いコンサートホールの客席に歌声を届けるには響きのある声でないと難しいのです。空間の響きに歌声の響きを共鳴させる感覚と言ったらよいでしょうか。だから全身から響きを発するような発声が求められます。ですがコンサートホールで歌う機会は少ないので、前に強く飛ぶ声がよいと勘違いしてしまうケースがあります。体育館などの練習の時によく通る声、俗にいう「体育館声」と言われる声です。その結果、響きよりも芯の部分を重視してしまい、いざ本番のコンサートホールではさっぱりだったという話も聞きます。
このように歌う場所や、聴いてもらう相手に合わせた歌い方があります。以前に発声のレッスンを受けた時のことです。「歌のおねえさんの歌い方」「ミュージカルの歌い方」「オペラの歌い方」「幼稚園の先生の歌い方」と先生が目の前でやって見せてくれました。
・歌のおねえさんの歌い方・・・近くにいる相手によい声を聴かせる歌い方
・ミュージカルの歌い方・・・遠くにいる相手によい声を聴かせる、前に声を飛ばす歌い方 (マイク使用を前提)
・オペラの歌い方・・・遠くにいる相手によい声を聴かせる、全身を響かせる歌い方 (マイクを使わない前提)
・幼稚園の先生の歌い方・・・近くにいて、横に広がった人たちによい声を聴かせる歌い方
すべて響きの使い方を変えることで、歌声を変えているとのことでした。
歌声の響きは主に、喉、口、鼻腔の空間で声帯の振動を共鳴させることで作られます。更には、頭や胸に振動を伝達して増幅したものを「頭声」や「胸声」などと呼ばれます。
オペラではこれを更に進めて、全身を響かせるように歌うことを推奨されます。そして、この全身を響かせた声をホールの空間と共鳴させてホール中に歌声を響き渡らせるんですね。楽器も同様で、ヴァイオリンなどは空間の響きと共鳴させてこそ「いい音」と感じさせてくれます。反対にピアノは楽器自体の響きが強いためか、ソリッドな空間の方が合うと感じます。
楽器の響きでは、ヴァイオリンの話が有名ですね。「ストラディバリ」「ガルネリ」「アマティ.」など、響き方の違いで評価が様々です。同時に倍音の出方の違いもあります。倍音の出方ですが、これも楽器と声は同じです。声帯で作られた振動に喉、口、鼻腔の空間の共鳴や息の使い方で、基音に対して倍音が作られます。人の声がみな違うのは、この倍音のスペクトルが人によって違うからです。音高が同じでも、声はみな違う音に聞こえますよね。
オーディオも同様なことが言えます。
「音楽ソフトには響きの情報が入っているので部屋の響きは不要である」という人がいますが、これは間違えです。無響室で聴くオーディオ再生はまるでラジカセです。音の広がりも空間も全く感じることは出来ません。一方で、コンサートホールで聴くオーディオ再生も響きすぎて、決してよい音とは言えないです。ですから適度な響きが必要と言うことになります。この適度な響きは世界中で研究されています。
また周波数によりリスニングに適した響きの量も変わるとされています。サーロジックのHPから学んだことです。
ですが、残響時間も室内音響の一側面でしかありません。定在波、フラッターエコーしかりです。これらは測定可能な定常状態での特性になりますね。
では、学術的に明らかにされてはいないが、「よい音」を求めるにあたり経験的に感じることは何でしょうか?自分が実演を聴くことで学んだことが数多くあります。
・響きが集まってくるような座席位置はいい音と感じる
・低音は下に、その上に中域がのり、高域が上から降り注ぐような聞え方になると、響きが強くても音が混濁せずに聞ける
・ウィーンの楽友協会ホールはホールが鳴っているようだった
・ウィーンの楽友協会ホールはどの席に座っても同様な音で聴ける
まだまだあると思いますが、思いついたのはこんなところでした。
響きとは音を感じるうえで、麻薬のようなものですね。カラオケでエコーをかけると上手く聴こえるなども同じことかと思います。
オーディオにおいて、この麻薬は様々な場所で活用されていますね。
・室内の響き
・スピーカーのエンクロジャーの響き
・真空管の響き
・ケーブルの響き
・アクセサリーで響きを付加するものもあります
この響きですが、単に響きがつけばよいわけではないのは、適正残響時間の話でも明らかです。響きがあると混濁しやすいです。風呂場のように・・・と言われることからも明らかですね。歌声では、最低限歌詞が聞き取り難いのははどうかなと思います。響きが強いと音場型になりやすいのも同様なことかと思います。
そこで、響きが多くても音が混濁しないのは、優秀なコンサートホールや教会から学べます。音を混濁しないで聞かせる主たる要因は、帯域毎の音の分離です。低音は下に、その上に中域がのり、高域が上から降り注ぐような聞え方になると、響きが強くても音が混濁せずに聴けることを前述した実演から学びました。
これらの雑多な知識や経験を使いながら、自分がオーディオにおいて実施しているのは、「反射音の聞え方」と「響きの聞え方」の調整が主な内容になります。スピーカーから出た後の音の調整です。
・スピーカーの位置の調整(左右のスピーカー、部屋との相対位置)
・ルームチューニング
これを実施するにあたっても、「いい音のイメージを蓄えること」が大事であると感じています。音楽の実演を聴きに行くことだけではなく、オーディオ再生で他人の音を聴かせてもらうことも同様だと思いますし、日常の中でもいい音に出会うことはあると思います。自分にとってのオーディオ活動とは、このいい音を知ることと、そのイメージに追い込んで行くことと捉えています。
コメント ※編集/削除は管理者のみ
ヒジヤンさん、こんにちは。
さすがです。『音』や『響き』について詳しく、でも分かりやすく説明されていて、非常に勉強になりました。
>そこで、響きが多くても音が混濁しないのは、優秀なコンサートホールや教会から学べます。音を混濁しないで聞かせる主たる要因は、帯域毎の音の分離です。低音は下に、その上に中域がのり、高域が上から降り注ぐような聞え方になると、響きが強くても音が混濁せずに聴けることを前述した実演から学びました。
genmiはヒジヤンさんから学びました!
「低音は下に、その上に中域がのり、高域が上から降り注ぐ」は年末年始三者オフ会で何回もヒジヤンさんが話されていましたが、イメージを掴むのにとても分かりやすくて、それからというものgenmiの座右の銘になっています(笑)
>「いい音のイメージを蓄えること」が大事であると感じています。音楽の実演を聴きに行くことだけではなく、オーディオ再生で他人の音を聴かせてもらうことも同様だと思いますし、日常の中でもいい音に出会うことはあると思います。自分にとってのオーディオ活動とは、このいい音を知ることと、そのイメージに追い込んで行くことと捉えています。
その通りですね!
『いい音』に対するちゃんとした理解や経験がないと、いくらいい音を聴いてもピンと来ないどころか、間違った判断や調整を行ってしまう危険性があると思います。
この日記はgenmiのバイブルとさせて頂き永久保存版と致します!
ヒジヤンさん、
面白い日記有り難うございます。
発声、声楽を勉強すると、様々な場所、環境、視聴者に対応した声が出せ、実際それを行なっているんですね。音楽は人間が現在のようになる以前から、生活の重要な一部であったでしょうから、長い歴史の重みを感じますね。
現在、2Fにマルチシステムをセットしつつありますので、一度、残響特性を測ってみたいと思います(どのように測るのかよく知りませんが、調べながら・・・汗、笑)。
genmiさん、コメントありがとうございます。
わかりやすいと言ってもらえるのは嬉しいです。一番気を使っている点なので。
「低音は下に、その上に中域がのり、高域が上から降り注ぐような聞え方」はかなり肝だと思っています。よく「沈み込む低音」と言いますが、先ずはここから始めるのがいいですよね。genmi邸は上下の分離は充分でした。
>『いい音』に対するちゃんとした理解や経験がないと、いくらいい音を聴いてもピンと来ないどころか、間違った判断や調整を行ってしまう危険性があると思います。
そうなんですよね。生まれた時は(多分)多くの認識は持てないのだけれど、積み重ねる認知により認識の幅が広がるものですね。歳をとると数値的な感度は衰えてくるのでしょうが、蓄えた認知の量が増えるので認識の幅は広がるように思えます。美味しいものの感覚も、美味しいものを沢山食べてから味覚が冴えてくるものですね。
音も同じで、いい音を沢山聴くから、いい音の認識も聞き分けも出来るようになる。こんな感じですよね。年末年始オフ会の時にも話したと思いますが、自己のオーディオばかり聴いている人が、ツイーターを自己流に沢山つけていて、この世に無いような不思議な音を、「いい音だな~」と言っておられた時は寒気がしました。
自分はすでにオーディオピークは越えてしまい落ちる一方でしょうが、なるべく落とさないためにも「いい音」を聴き続けていきたいと思います。
Tomyさん、コメントありがとうございます。
そうですね。発声の歴史は長く活用方法も分析も進んでいると思います。オーディオにおいては、2ch(ステレオ)の歴史は古く、マルチチャンネルの歴史はまだ浅いですね。だからマルチチャンネルはこれからが面白いとも言えますが、同じ音なのでベースの部分は長い歴史を遡ることも必要かもですね。
>現在、2Fにマルチシステムをセットしつつありますので、一度、残響特性を測ってみたいと思います
Tomyさんは、理系の実験畑の方でしょうか?計測可能なデータに強い興味をお持ちですよね。自分も帯域毎の残響特性は計ったことがないのですが、10年以上前にマイスピーカーというソフトで測ってもらった累積スペクトラムの結果がありました。自分のPAA3で測ったピンクノイズの残響時間(RT60)が0.33秒(30回の平均)でした。今ならスマホで周波数毎の残響時間も簡単に測定できそうですね。やり方がわかったら教えてください。
残響時間の推奨値は、低域が長く、次に超高域が長いことですが、周波数特性や定在波影響とは相反してくるので悩ましいですよね。和室などは低音が抜けてしまうので定在波の影響は小さいものの、残響も抜けてしまいホールの漂うような低音は味わえないことになりますね。また、高域は一般家庭ではすぐに収束してしまうので理想と大きくかけ離れてしまいます。輝きを持った音を聴きたいのに、艶のない音にしかならない。このあたりを補正するのがルームチューニングです。Tomyさんが得意な8KHzの音は、艶や輝きを感じさせることに大事であると、音響学からも示されています。声楽上も8KHzの倍音は理想的とされています。理屈や数値も大事ですね。