シンフォニック・ドラムスの妙味 – アントニオ・サンチェスの新作を聞く

日記・雑記
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今日などはTシャツ1枚でもすごせるくらいで、
長袖のシャツを着込むとじっとりするような感じがして
ようやくちょっと梅雨らしい天候となってきたような気がしますが
そんな今日このごろ、みなさん、どんな音楽をお楽しみでしょうか?

さて、届きたての新譜
アントニオ・サンチェス&マイグレーション
『メリディアン・スイート』
のレビューをしたいと思います。

アントニオ・サンチェスといえば、
今もっともノリにノっている音楽家といっていい人物ですよね。
今や彼がドラムスをたたけば、
聞き手は、体が反応しなければならないかのような衝動を覚えます。
へんな言い方ですが、
強引に彼の律動のペースにひきこまれる感覚があるのです。
良い音楽、もっといえば良い芸術表現は、
受け手の呼吸をコントロールするところがあって、
彼のドラムスにもそういうところが感じられるのです。

それをよくわかっていたのが、もしかすると
映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」の監督
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥなのでは。。。
と思っています。
一度撮った映像にサンチェスのドラムスを載せてもらい、
それにあわせるために撮り直しをしたなどというエピソードを
聞くにつけ、そう思ってしまいます。
そんな一瞬の呼吸を操る天才的気功術師?!のような
アントニオ・サンチェスの新作は
全5曲が組曲になっているというものです。すべて自作曲です。

曲目:
01.Grids and Patterns
02.Imaginary Lines
03.Channels of Energy
04.Magnetic Currents
05.Pathways of the Mind

パーソネル:
Antonio Sanchez (ds,key,vo)
Seamus Blake (ts,EWI)
John Escreet (p,el-p)
Matt Brewer (acoustic&el-b)
Special Guests:
Thana Alexa (vo)
Adam Rogers (g)

組曲ですから、やはりオーケストラ的なものを連想するのですが
弦楽器はまったく入っていません。
そのへんを次のインタビューでサンチェス自身が語っています。

「ドラムを叩いているときにしても、いつだって様々な色を見つけようとしているよ。パット(メセニー)が僕によく言うんだ。『キミのドラムは、オーケストレーションができるドラムだ』って。だから僕自身、楽曲のオーケストレーションに対する音感は人一倍強いものを持っていると思ってる。実際、ジャズにはシンフォニーがあるわけじゃないからね。使用楽器だってせいぜい5種類ぐらいだろ? その中でこういった組曲を編むには、全ての想像力を駆使して自分の中でオーケストレーションしなくちゃいけないんだ」。
以上
【インタビュー】 アントニオ・サンチェス 『Meridian Suite』
ttp://www.hmv.co.jp/news/article/1506030010/
より引用。

「オーケストレーションができるドラム」
パット・メセニーはさすがうまいことを言います。
サンチェスも弦楽器なんか入れなくても
俺のドラムスでオーケストレーションぐらいやっちゃる!
という自負がうかがえます。
たしかに今作でのサンチェスの演奏は、
これまで以上に熱が入っていて
まさに「シンフォニック・ドラムス」とでも呼びたくなるような
厚みをもって、聞き手に迫ってきます。

いままでの私のレビューをごらんになったかたは
このサンチェス作品と似た趣向の作品として
クリス・ポッターの「イマジナリー・シティーズ」を連想されたかたも
いらっしゃると思います。
私もこのレビューを書くにあたって聞き比べをしました。
あえて両者の違いにスポットライトをあてるとすると
印象としては、次のようになりました。

クリス・ポッターは「イマジナリー・シティーズ」を作る際
楽曲の構築にあたって、ことばや楽譜によるディレクションを
サンチェス作品より綿密にしなければならなかったのではないか。
サンチェスの今作と聞き比べてみると、
ポッター作品は、旋律がくっきり聞き手に入ってくる感じがします。
ですから味わい的にも端麗辛口というか、
「よく手入れされた混沌」というか
やはり理知的なんですね。
他方、サンチェス作品は、
「シンフォニック・ドラムス」によって
肉体的な縛りが効いていて、
セッションしたプレイヤーたちは、
サンチェスの気功術的な符牒を感得して、
反射的に演奏している印象を受けます。
このリズムにはこのフレーズしかないというような
律動と旋律の密着感とでもいいますか、
そのあたりがとても生々しいのです。
私は3曲目からのアバンギャルドな押し出しの強い展開から
そういう印象をうけました。
何回かヘッドフォンでもとおして聞いてみたのですが
そうすると、やや分析的に聞けるところがあって
この印象はより強まりました。
これはリード楽器のリーダー作と
リズム楽器のリーダー作というちがいもあるかとは思いますが、
パーソナルなものもかなり影響しているかなと私はみました。

 「今やドラムを饒舌に叩くだけでは、耳の肥えた(ジャンル外音楽に対するリテラシーの上がった?)ジャズ・リスナーを納得させることはできない。ときにヒップホップやEDMのビートを採り入れ、ときに持ち場を離れギター片手に歌い上げるぐらいのオールラウンドさがなければ、『21世紀のスーパードラマー』としての称号には預かれないときた。往年のジャズ・ファンにとってはやや理解に苦しむ、そんな時代でもある」。

先に引用したインタビューをした小浜文晶さんのコメントですが
私もビリー・チャイルズからクリス・ポッター
そしてこのアントニオ・サンチェス&マイグレーション
『メリディアン・スイート』を聞くにつけ
小浜さんと同様の感想を持つにいたりました。
でも21世紀的ジャズの展開としては
なかなかおもしろいんじゃないか。
ミニマルなものも好きな私ですが、
ジャズの日常への異化作用も愛好する身としては
こういうチャレンジは歓迎したい。
やはりトータルな表現を追求し、
新たな地平をめざす音楽家に魅力を感じたいし
応援したい。
そんな思いになったこの一連のレビューでした。

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