肯定する歌声 – 大貫妙子と小松亮太「tint」

日記・雑記
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昨夜TVで
ユニークな「日めくり語録」がヒットしているとかいう松岡修造さんと
脳科学者茂木健一郎さんの対談を気なしに見ていました。
お互いがそれぞれの「格言」?を披露しあうということになって
茂木さんが
「自己否定こそが自己改革の第一歩」
みたいなことを
披露されたあと、
松岡さんがそれに応答して
「考えろ 考えるな」
というのを披露されたのです。
彼いわく、「人間は考えなければならないことは考えようとせず
考えてもしかたのないことばかり考えていて
それがネガティブな思考につながっていることに気づかない」云々。
茂木さんは学者だから
どうしてもことばづかいが
手垢にまみれてしまうのかな~とも思いましたが
格言としてのインパクトは
圧倒的に松岡さんのほうにある感じがしました。

音楽家にとって「考えるべきこと」ってなんでしょう?
それはとりもなおさず「いい音楽をつくること」だと思います。
むろんその過程で、茂木的「自己否定」も必要なんでしょう。
先日書いたベートヴェンのように、
その過程すら楽曲にとりこんでしまう貪欲な音楽家もいます。
そういう意味では
「修造語録」にいう「考えるな」的な要素がきわめて少ない作品
それが、今日ご紹介する
大貫妙子と小松亮太「tint」です。

大貫さんの新作としては
2010年発売の大貫妙子&坂本龍一「UTAU」以来
実に4年半ぶりの作品となります。
今作はバンドネオン奏者小松亮太さんとの共作
であることからもわかるように、
タンゴをはじめとしたラテンサウンドと
大貫さん真骨頂のヨーロピアンサウンドとの融合が見事な作品です。
各曲ごとの解説は小松亮太さんのブログ
ttp://ryotakomatsu.eplus2.jp/
にくわしいです。

一聴してまず感じたのは、明晰で、ポジティブなサウンドだな~
ということ。
曲調がどうあれ、つらぬかれているのは
「考えるべきこと」だけ考えているかのような
お二人のよい音楽を創りだそうとする意志。
それは私のようなオヤジでも共感できるレベルの
日常のもやもやをすーっと溶かしていってくれるような効果もあり
アルバム最後に収められた往年の名曲「突然の贈りもの」も
ちょっと達観した感さえあるので
古くからのファンも、みなさんが過去に聞いたおのおのの
この曲へのおもいをかみしめながら聞かれると愉しいでしょう。

乾いた自己肯定。
何度かこのアルバムを聞き返すうち
そんなことばがうかんできました。
大貫さんがかつてインタビューで
ご自分の年齢的なものからくる心境の変化を語っておられたのを
思い出したのです。
残された時間を考えると、逡巡している時間はもうあまりなく
音楽をつくることに自分のエネルギーをあまさず費やしたい
そんな内容だったように思うのですが
たしかにこのアルバムの構想から15年。。。
などということももれ聞くと
「考えるべきこと」に専心していても
よい音楽を創りだすには、それだけの年月がかかるのだと
思わされます。
若気のいたりとか時の勢いとか
そういうものからは隔絶した乾いた自己肯定は
甘くも辛くもないあじわいで
聞く者に浸透してきます。
その肯定する歌声にしばらく魅了されそうな
いまの私です。

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