スタジオ的ルームチューン手法、基本の考え方の紹介

日記・雑記
Sponsored Link

前回記事の続きです。前回は部屋とスピーカの不完全性についてのお話でした。
https://community.phileweb.com/mypage/entry/1641/20210829/68249/
今回はその不完全性とどのように具体的に向き合っていくのか、対策するのか、について紹介したいと思います。

今回の記事の主軸は下記記事の引用と、より簡単なまとめを行います。
https://www.soundonsound.com/techniques/sos-guide-control-room-design

-以下引用

部屋は、私たちが聞く音に大きな影響を与えます。これは、ステレオやサラウンドなど、すべてのタイプのラウドスピーカーの再生で起こります。音響エンジニアは、部屋が「カラレーション」を引き起こすと言います。これは、音の周波数バランスが変化し、ある周波数が強調され、ある周波数が抑制されることです。

低周波では、部屋の固有の共振がこのカラレーションの原因であり、最も聴きやすい効果は、特定の低音のブーミングです。

中高音域では、壁や床、天井で反射した音と、スピーカーからリスナーに直接届く音が干渉して、カラレーションが発生します。

これは、音楽の音の音色の変化として最も顕著に現れます。初期の反射音はイメージング(空間定位)の問題を引き起こすこともあり、ミックス内の音の正確な位置が広くなったり、ぼやけたり、極端な場合にはステレオイメージ内の本来の位置から離れてしまうこともあります。

また、部屋には音の余韻を残す残響があり、うまく設計された部屋では、音を微妙に強調する「ブルーム」が加わります。残響が全くないと不自然に聞こえますが、逆に残響が多すぎると収差がサウンドエンジニアに聞こえなくなり、ミックスの問題点が見落とされてしまうことがあります。

■アウトオブコントロール(手がつけられない)

スタジオのエンジニアが、ミュージシャンが演奏しているライブルーム(ホールのような空間)よりも狭いコントロールルームでミキシングをしているとします。理想的なコントロールルームは、サウンドエンジニアがライブルームの音響環境を「聞き分ける」ことができるニュートラルな音響でなければなりません。しかし、コントロールルームがライブスペースよりもはるかに狭く、音響処理が施されていない場合、残念ながらこれは不可能です。

[:image1:]
図1:コントロールルームにいるサウンドエンジニアが、より広いライブスペースで短く鋭い衝撃音を鳴らしたときに聞こえるインパルス応答。赤は狭いコントロールルームからの反射と残響、青は広いライブスペースからの反射と残響を示す。(Howard and Angus, Acoustics And Psychoacoustics, Focal Press, 2009から引用しています。)

図1は、ライブルームでミュージシャンがスネアドラムを1回叩くような短い鋭い音を出したときに、コントロールルームでエンジニアが聞いている音を示しています。サウンドエンジニアが最初に耳にするルームエフェクトは、ライブ空間の音響からのものではなく、コントロールルームの壁からの反射によるものです。これは、コントロールルームでは、直接音(コントロールルームでは、ラウドスピーカーからの音)と壁からの最初の反射との間の時間であるITD(Initial Time Delay = 初期反射)が最も小さいためです。

人間の脳は最初に聞いたものを優先するので、(ライブ空間が極端に残響していない限り)音は狭いコントロールルームと同じ大きさの空間から来たものとして認識されます。

そこで、コントロールルームの壁からの初期反射を抑えることで、ライブスペースから音が出ているように見せ、サウンドエンジニアがより広いライブスペースからITDを聴けるようにする必要があるのです。

[:image2:]
図2:小型のクリティカルリスニングルームにおける処理前(上)と処理後(下)のインパルス応答。(Cox and D’Antonio, Acoustic Absorbers And Diffusers, Spon Press, 2009を参考にしています)。)

図2は、治療前と治療後の小さなリスニングスペース(この場合はReflection-Free Zoneコントロールルーム)内のインパルス応答を測定したものです。処理前は、部屋からの直接音とまばらな初期反射音が目立ちます。処置後は、コントロールルームからの反射音が届くまでに最初の時間差があります。後壁に音を散乱させるディフューザーを設置したことで、部屋の反射音が疎らになり、より大きな部屋の残響減衰のように、反射密度が高まりました。

-引用ここまで

■上記記事について補足

ここに書かれている内容は、前回の私の不完全性の記事を、より具体的で現実的な問題として説明しています。要するに部屋のカラーが強すぎると、録音された空間表現や質感を正確に聞き取ることが困難になっていくわけです。

そのための現実的かつ具体的な対策方法として、紹介記事では4つの考え方を紹介しています。それは以下のようなものです。ここでは簡単な紹介と説明にとどめます。興味がある方は詳細も紹介記事に記載があるので確認されると良いと思います。

・Non-environment Rooms 非環境型設計
[:image5:]
残響と初期反射をすべてなくす方法論です。重要な利点を引用すると以下のような体験となるそうです。

>非環境型設計の支持者は、直接音以外のものがないことで、マスキングされた残響や他の部屋の効果が除去されるため、再生されたオーディオの低レベルのディテールが非常に聞き取りやすくなると言います。さらに、この部屋では、ピンポイントで優れたステレオイメージングが得られます。これはほぼ間違いなく、初期反射や残響など、音の中の矛盾した手がかりが取り除かれたことによるものです。

・Live End Dead End
非環境型は吸音のための物量、音量を出すためのアンプの物量が必要となる欠点がありましたが、この方法論は一次反射、初期反射をなくすことを目的としています。基本的には非環境型と同じ考え方ですが、一部を妥協し非環境型と比較して完璧ではないが、より安値で実現できる方法です。

・Reflection-Free Zone & Controlled Image Design
[:image6:]
上記とは異なる方法論です。これは初期反射の方向を制御し、リスニングポイントに初期反射が直接到達しないようにする、というものです。部屋の形状とリスニングポイントに制約があるので専用部屋以外では現実的ではないと思います。

・Ambechoic Designs
[:image7:]
これも全く別の方法論です。部屋のすべての初期反射を拡散材で分解してしまう方法です。初期反射のピークを抑えるよう拡散することで、事実上初期反射を聞こえなくするという方法です。ですから部屋自体の残響は残ります。実は日本音響のANKHの森はこの方法論とほぼ同じだと思っています。(ANKHは定在波の対策品ではなく、初期反射の対策品だと思います)

この部屋の印象が記事に掲載されていますのでそこのみ引用します。

[:image3:]
>Blackbird Studio Cはこれらの原理に基づいており、図13に示されています。この部屋の経験では、壁からの音の反射に気づいていません。ほとんど無響に聞こえますが、残響があります。この部屋で再生されるステレオおよびマルチチャンネル素材は、広いリスニングエリアで安定したイメージを持っています。

[:image8:]
実は私の部屋もこの方法論を意識した部屋になっています。Blackbird Studioのような物量は個人でできるはずもありませんから、出来る限り低予算でやってみました。実際に部屋を作る際の試行錯誤の結果は下記リンク先にまとめてありますので、考え方、何をどう使ったのか、具体的な実例を参照したい方はこちらをみてください。Ambechoic Designsの同翻訳もあります。

http://innocent-key.com/wordpress/?page_id=14275

■部屋の対策とは、初期反射制御と、定在波対策にある

以上のように、部屋の音響対策に共通しているのはまず初期反射をいかにコントロールするか、です。

そして空間定位を乱すのは部屋の初期反射である、という表現もプロフェッショナルの間では共通認識だということです。これは空間定位に無対策の部屋がどれほど悪影響があるかを示す事例ではないでしょうか。

実は空間定位を評価するためには、最低限ある程度のレベルで初期反射を対策した部屋でない限り、正確な評価は不可能ということです。無対策の部屋の場合は部屋の無秩序な初期反射によってカラーリングされた、音源の意図とは異なる脚色された空間定位を聞いている可能性が高いです。

それは部屋の種類の分だけある非常に多様かつ不完全な内容であり、各々で全く異なる結論になるのも無理のないことです。

■定在波

次に低音の定在波の問題ですが、今回は既に長い記事となっていますので次回があれば方法論はここで紹介したいと思います。とりあえず今回は簡単にだけ書きます。

基本は「小型で薄い材料」で低音は対策できない、これが事実です。国内のオーディオ広告の主張する定在波対策のほぼすべてが事実ではないということす。薄くて軽いのに定在波が消えるはありません。それが可能なのはPSI AVAAのような自ら電気で発音するアクティブ型だけです。

少なくとも測定値を伴わないルームチューン材は危険ということは覚えておいて良いでしょう。まともな製品は周波数ごとの吸音率などのデータが必ずついています。あまりにも怪しい製品が多いので、国内では測定データが付いていない製品はあまり信用しないほうが良いと思っています。

[:image9:]
今ならウクライナのこの会社から出ている材料がとても安いので紹介しておきます。1枚19ドルから買えます。まとめて買えば送料もそんなにかかりません。これは測定値も公開されています。
https://ua-acoustics.com/bass-trap-pulse
[:image4:]

■コメント欄について

今回は試験的に許可してみます。荒れそうだったり不適切と思われる内容は予告せずすべて削除させていただきますので、よろしくお願いいたします。

コメント ※編集/削除は管理者のみ

タイトルとURLをコピーしました