A.S.C.元会長の来訪(前編)のつづきです。
自宅に向かい、最初に聴いてもらうことになったのがマーラーでした。大編成の豪快な曲ですので、クライマックスとして最後に持ってくる考えでしたが、ご氏名でしたのでお客様に合わせることとしました。
当初は2番、5番、8番と数字の順番に進める予定でしたが、最初にマーラーをおかけすることになりましたので、「マーラーの沼に嵌った原因となった5番、そして勉強のためにウィーンにまで聴きに行った5番」を先頭に持ってくることにしたのです。
再生をスタートすると、
KY:「音量を絞っていいですか」
ヒジ:「このくらいでよいですか?もっと絞る感じですね」
自分の音量の半分くらいでしたので、音量感がずいぶん違うと思いました。
だから、続く2番、8番も同じボリューム位置で聴いてもらうことにしたのです。
一通り聴き終わってからの感想タイムです。
KY:「音量を絞っても、スケール感を感じますし、ピアニッシモもよく聴こえます。ステージの出来方も素晴らしいと思います」
ヒジ:「最初の曲としては音量が大きすぎでしたね。自分が楽友協会で聴いたイメージを再現する音量なんです」
KY:「わかります。自分の知り合いにもウィーンの楽友協会で感激して取り組み、”ようやく800D3を使うようになって再現できるようになった”と言う人がいます」
KY:「気になったのは、8番の合唱の左右の端の歌手の顔の高さに段差があるように感じました」「スピーカーの前にあるボードの幅をもう少し広げると解決すると思います」
ヒジ:「ありがとうございます。後で聴き直してみます」「では、お持ちになった音源をどうぞ」
KY:「その前にボーカルを1曲聴かせてください」
何か1曲、どれにしようかと迷ったのですが、男性ボーカルとコーラスも入った曲としました。
ソム・エン・ストーム / オー・ヘリグ&オスロ室内合唱団 KKVレーベル CD
KY:「とてもいいです。私が聴いた802Dの中で一番いいと思います」「気になったのは男性ボーカルの位置が低いことです」「これもスピーカーの前にあるボードの幅をもう少し広げると解決すると思います」
ヒジ:「ありがとうございます。後で聴き直してみます」「では、お持ちになった音源をどうぞ」
(内心)男性ボーカルの位置の話は、自分的には口元の位置が高すぎると思い、下げてきた経過があったので、心当たりがあると言えばあるのです。すぐにでも確認したい気持ちがわいたのですが、限られた時間だったので先に進むことにしました。
KY氏が取り出した音源は、「THE DRUM SOLO」 シングルレイヤーSACDです。
この音源は、ご自身で企画~録音~販売までまでしている音源とのことです。
この音源の中から、数曲を次々と聴かれました。
ヒジ:「面白い音源ですね。」「ご自身のチェック用として製作された音源でしょうか?」
KY:「そうなんです」「市販されているものによいものがないので、作ってしまいました」「販売もしています」
ヒジ:「1曲目は、シンバルがメインですが、時折ドンと言う音が入りますね」
KY:「シンバルだけで録った曲です。5Hzから入っています」
ヒジ:「シンバルで5Hzですか?」
KY:「シンバルの1次の共振周波数が5HZで、全部入れています」
1曲目のシンバルの例ですが、他にも面白い音がたくさん入っています。音楽と言うよりは、あきらかにチェックすることを狙いとした音源と思いました。
次に出てきた音源は、チェック用の音源を1枚にまとめたCD-Rです。
A:「中域・発声」、B:「高域」、C:「低域」、D:「臨場感」、E:「クラシック」と確認項目が定められていて、更に曲ごとに確認項目が記載されていました。こんな恐ろしい音源で自宅のサウンドをチェックされたのは初めてのことでした。
KY:「ご自身も言われていたことですが、低域の25Hzから32Hzに10dBくらいの膨らみがありますね」「この低域が、クラシックの臨場感を高める反面で、ジャズの低音が膨らんでしまう」「ジャズのバスドラがロックのバスドラのように口径の大きなバスドラに聴こえました」
ヒジ:「その点は承知しています。クラシックの大編成をこの部屋で出そうとすると、このくらいの低域にしないとマーラーが鳴らないんです」
KY:「よくわかります。普通はあの音量であれだけのスケール感は出ないですからね」「重低音の音源で部屋の共振が出ない点から、この部屋を長年追い込んで来られた苦労がわかります」
ヒジ:「涙を流しながら追い込んできました」「その苦労を感じていただけただけでうれしいです」
その後に数枚の音楽CDをリクエストされてお聴きいただきます。
その中で、三味線のCDを聴かれて、自分にリクエストが来ました。
KY:「40Hz以下が入っていなければいい音で聴けます」「この三味線の音をセンターで聴いてみてください」
リクエストに応じてセンターで聴きました。
(内心)「何でこの音を聴けと言うのだろう?」「いい音には思えない。ならば悪い点があるので、自分で察知しろと言うことか?」「そう言えば、三味線の音が出る位置が高い感じがする。立って演奏したとしてもこんな位置にはならない」
などなど、頭の中をグルグルとさせながら聴いていました。
このタイミングで、自分からもリクエストしました。
ヒジ:「マーラーを鳴らすために15年かかりましたが、その後は他のジャンルも取り組んでいます。室内楽も聴いてみてください」
自分が取り出したのは、ポッジャーのベートーヴェン ヴァイオリンソナタ「春」でした。
KY:「ピアノの位置が高くて、ヴァイオリンが低いのでおかしいです」
ヒジ:「そんなことはないはずです。確認していますから」「自分で確認させてください」
(センターで確認する)・・・・・・・・・「問題ないと思います」
KY:「ああ、この聞え方の違いは、耳位置の高さの違いですね」「自宅では、椅子の高さを何種類も用意しています」「ベストポジションに耳位置を持ってくるためです」「先ほどのボーカルが低く感じたのも、耳の高さが原因かもしれないですね」
と言うことで指摘は解決したように思えたのですが、「普段の鳴りとちがう」と感じたので、CDPの電源を落としました。再度、聴き直すと普段の音に戻っています。どうやら、先ほどトラック指定で次々に選曲していた時にCDPのコンピューターが狂ったようです。自分で聴いていてもCDとSACDを交互にかけていると、この狂いが出ることがあります。Y氏O氏をお招きした時には、完全に音が出なくなりました。
ヒジ:「たまにCDPのコンピューターが狂うことがあるんです」「自分で聴いている時はすぐにわかるのですが、オフ会の時はわかり難いので、”あれ、おかしいな”と思ったら言って下さい」
KY:「わかりました。評論家の方でトレイを2回出し入れして再生される方がいます。その方がDiscのセンター芯出しが正確でよいと言われます」「こんなやり取りをする時間が、一番楽しい時間ですね」
ヒジ:「そうですね(笑顔)」
(内心)楽しくないです。ハラハラし通しですよ。それより、いつからCDPが狂ったのかが気になるのですが・・・
休憩をした後は、くされももんがさんの持ち込み音源の確認タイムとなりました。
くされももんがさんは、午前中に自宅でのオフ会を実施してきて、くたくただとのことです。なんでも、前日は部屋の掃除とオーディオのサウンド調整で、一睡もしていないそうです。尊敬する師匠に聴いてもらうために、体力を使い果たしている様子でした。師匠が試聴している時間も、横でずっとウトウトとされていました。
くされももんがさんは以前からの知り合いだったので、目を覚ますためにも、自分で音源を選び、自分で音量調整をして次々と聴いてもらいました。自分はこれまでの緊張をほぐすために、その間はお休みタイムです。
そんな中で、くされももんがさんが持込のバロック音楽を聴かれていた時に、ピクッと来ました。
ヒジ:「同じバロックですが、この音源を聴いてもらえますか?」「ハイドンのホルン協奏曲です」
くされももんがさんは、眠そうな目をしながら、再生ボタンをスタートされました。
すると、音が出た瞬間にピクッとされて、音量を下げられました。
自分としては、してやったりです。
ヒジ:「この音が楽友協会のサウンドなんです」「音が出た瞬間に全身に感じる音」「この音を出すために、この低音が必要なんです」
KY:「あはは、わかります。ジャズは捨てても、クラシックでこの音を出したい。」「これが大事ですね」
この会話で、自分はもう一度ピクッと来ました。
ヒジ:「ジャズでも鳴るものもあるので、これを聴いてください」
Jazz at the Pawnshop 30th Anniversary Propriusレーベル SACD
KY:「この音源は私も写真を撮らせてください」
さて、最後はもう一度KYさんの試聴タイムでした。野外ライブのウクレレ漫談のCDやその他もろもろです。
その中で、横で聴いていて自分も欲しくなったのが、ダイアナクラールの”ライヴ・イン・パリ”でした。生々しい感じに惹かれたのです。
ヒジ:「このCDは気に入りました。何というCDか教えてください」
KY:「何だったか?CDのレーベル面を見てください」「スピーカーをD3,D4シリーズにするともっとよくなりますよ」
ヒジ:「わかります。ですが、スピーカーを変えたことによる追い込み直しの苦労を考えると・・・」
KY:「そうですね。私もスピーカーを新しくすると、1万回くらいスピーカーの位置を変えて追い込みます」「最低でも1年はかかる」
ヒジ:「本当にそうですね。だから機器は替えたくないんです」・・・両者とも(笑)
最初の緊張や、諸々がありましたがお開きの時間が迫って来ました。
ヒジ:「ひとつだけ心残りがあります」「あの三味線のCDをもう一度聴かせてもらえないでしょうか?」「あの音は、どうも納得がいかなくて」
KY:「いいですよ。いじわるしたつもりはないのですが、これですね。」
早速確認させてもらいました。10秒です。
ヒジ:「これなら自分の音です。」「大変勉強になりました。ありがとうございました」
KYさんとのオフ会、歳はそれほど変わりませんが、これだけの経験を積まれた大先輩です。しかも、「この人は強い!」というオーラを発しておられるので、お招きするのは本当に疲れました。真剣勝負の連続です。そして、交わした話のすべては日記に書ききれませんが、諸々の話がとても勉強になりました。
この後の時間は、昨日に訪問された方も一緒に夕食タイムをするとのことでしたが、自分はここで失礼させてもらいました。楽しいお話をもっと聞きたかったのですが、オフ会の中での会話から「確認」したいことを今すぐにやりたかったからです。
最後は、「こちらに来られた時は再訪してもらい」、「広島に行くときはKY邸の音を聴かせてもらう」約束を交わして別れました。
別れ際にもらった名刺の一文
「仕事は遊び心で、趣味は死に物狂いで」
<おわり>
コメント ※編集/削除は管理者のみ
前編に続き、楽しく拝読しました。
と言いますか、主なやり取りをすべて書き残しておられて、記憶力のすごさに驚きました(笑)。
オーディオは、どのようなポイントに重きを置いているかは人それぞれですし、力量も同様です。
KYさんと一緒にどなたかのお宅に伺ったのはこれが初めてではありませんが、初対面でここまで細かなやり取りをしたのは、少なくとも自分が同席した中では初めてです。
それだけ、お二方の調整ポイントやレベルが高い次元で肉薄しているのだと思いました。
いやはや、すごいオフ会に立ち会ってしまった・・・(汗)。
私が言うのも変なのですが(笑)、ぜひ一度広島においでになってください。
現時点ではご自宅の一階と三階にシステムがありますが、コンセプトが明らかに異なるよう調整されており、どちらもお楽しみいただけると思います。
くされももんがさん、おはようございます。
刺激的なお方を紹介していただきましてありがとうございます。
試聴用の音源の殆どが「チェック用の音源」のオフ会は初めてでしたが、横で聴いているだけでも「ポイントが絞られている」のでわかり易かったです。
「よい面」も「悪い面」もあらわですね。
さらに、「音に対する原理的な把握」「経験の多さ」「センスの高さ」と3拍子揃った方でしたので、「ジャズ聴き」と「クラシック聴き」の違いがあっても、会話がすべて成立するのでワクワクしていました。
これは、「楽しいと言う感覚」ではなく、「しびれると言う感覚」です。
くされももんがさんとKY氏のやり取り、「ウトウトとして寝そうになると、”寝てていいよ”との言葉がかかり、フッと意識を取り戻される様子」も印象的でした。徹夜で準備し、午前中に自宅でのオフ会をこなし、午後は他宅へのアテンドをして、夜は夕食の懇親会とは驚きの行動力です。師匠が言われる、「仕事は遊び心で、趣味は死に物狂いで」そのものですね。
>私が言うのも変なのですが(笑)、ぜひ一度広島においでになってください。
そうですね。これをご縁に一緒に行きますか。アテンドをお願いできますでしょうか。