電源トランスの唸りなど

日記・雑記
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今回は、Accuphaseの宣伝みたいになってしまうかも?
電源トランスの唸りについて私が初めて記事を目にしたのは1994年
季刊ステレオサウンド No.112 1994 AUTUMNの
「名器誕生の陰にこの人あり」の連載2回目を飾ったアキュフェーズの記事でありました。

オーディオ銘機賞2021
受賞インタビュー:アキュフェーズhttps://www.phileweb.com/interview/article/202011/24/790.html より
[:image1:]アキュフェーズ株式会社 代表取締役社長 鈴木雅臣氏

メルコ3533モノ語り1 より
https://www.buffalo.jp/contents/archives/3533/owner01/
[:image2:]元アキュフェーズ株式会社 高松重治氏

このアキュフェーズの開発部門の隣にあるという試聴室は今も?昔も変わりません。変わっているのはスピーカーくらいのものでしょうか。
JAS Journal 2017 Vol.57 No.1(1 月号)
https://www.jas-audio.or.jp/jas_cms/wp-content/uploads/2017/02/201701-074-079.pdf より
[:image4:]この細いパイプ椅子がナイスです。この時のスピーカーはB&W。
新社屋?の新・試聴室(ファイン・オーディオ F1-12)は皆さんご存知と思うので省略します。間違われている人もいらっしゃるかもしれませんが、試聴室は一つではありません。今では併設されている感じでしょうか?
で、1993年頃がこんな感じ↓(下写真)でした。絨毯も椅子もそのまんま。
壁の絵画は変わっているみたいですが、30年近く基本的に変わらない部屋というのも凄いですね。
[:image5:]スピーカーがJBL 4344 で 高松重治氏がめっちゃ若い(冒頭の白髪のおじさま)。
1993年頃の、冒頭のお二人(鈴木氏・高松氏)をご紹介。
[:image6:]

なんだか全然トランスの話にならないので、戻します。
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『アキュフェーズの音が変わった!と評判の C290 & A50
 最新作を作った高松重治さん率いるアンプ開発チームに会いに行く。』

●高松重治(技術部・部長)当時
●羽山和寛(技術部・技術1課・課長)当時
●花田恒健(技術部・技術3課・課長代理)当時
●島崎則一(技術部・技術1課・課長代理)当時
●高島 徹(技術部・技術2課・課長代理)当時

 ~中略~

【傅】
去年(’93年)のクリスマスごろから、わたしの部屋のパワーアンプを
アキュフェーズのA50にしています。スピーカーをバイアンプ駆動しているので
A50を2台使っているのですが、以来半年ばかり、つくづく思うのは、
アンプがブーンと唸らないことです。
なぜアキュフェーズのアンプは唸らないのですか。
最大出力のM1000にしてもそうじゃないですか。

【高松】
お医者さんの使う聴診器をアンプに当てて調べています。

【傅】
それは製品の試作の段階で?

【高松】
そうです。

【傅】
試作機の段階ではけっこう唸っているのですか。

【高松】
ええ、唸ります。
いつもトランスのメーカーにお願いして唸りの少ないトランスを作ってもらう
ようにしているのですが、ふつうトランスはやっぱり唸ります。
トランスの作り方は海外メーカーでも国産他社でもあまり変わらないですが、
いかに唸りを小さくするかについては、われわれは非常に注意しています。
聴診器を当てたり騒音計で測定したりしています。

【羽山】
夜に社員のほとんどが家に帰ったあと、夏ですとクーラーを止めて、
車内がシーンッと静かになってからチェックするのです。

【傅】
ふつうアキュフェーズのアンプというとトランスはトロイダルですよね。

【羽山】
出力150Wほどを境にして、電源容量の大きいアンプはトロイダルトランスを
使っていますが、中には例外があって、小さい出力でもトロイダルを使っている機種があります。

【傅】
唸らせない秘訣は?

【羽山】
 まず線の巻き方ですね。コアにきちんと、しかも均一に巻きます。
ムラのある巻き方ではトランスが唸りやすくなります。熱の分散の点でも、
巻き方が均等でなくてはなりません。この辺はノウハウのひとつですので
あまり詳しくはお話しできないのですが、トロイダルの場合はほんの数ボルト程度
の低い電圧を取り出す2次巻線の処理などが、唸りに関しては非常に重要な
意味を持っていたりするのです。
 それにトロイダルの場合、AC電源の波形が歪んでいると(これが意外と多い)
唸りやすい傾向にあったりして、いろいろとたいへんです。しかし要するに、
トランスの設計に当たっては、注意深く検討し、ギリギリではなく余裕をもたせて
設計する、これが大切です。

【傅】
多くの海外製アンプでトロイダルトランスが裸のまま取り付けられていますよね。
トロイダルの場合、外に磁気が漏れにくいためにそうしているのでしょうが、
アキュフェーズの場合はケースに入っている。
あの中はトランスだけなのですか。

【羽山】
いえ、トランスの周囲を珪素鋼板で包んで磁気的な処理をし、その上で
ケースに収める時にピッチを流し込んで固めています。ピッチを流し込む時、
振動を加えてピッチから気泡を消します。気泡が残っていると、そこが音響的な
唸りの発生源になるからです。

【傅】
しかしまあたいへんですね。そうするとアキュフェーズ社内では、トランスを
唸らせてはならないということが、アンプ設計段階から重要項目に入っている?

【高松】
はい、そうです。お客様からどういうクレームが入るか過去に調べてあり、
多い順に対処しています。トランスの唸りは優先対処項目にあります。
そうした製品の安定性/信頼性に関して、アキュフェーズ誕生の非常に初期に
問題となったのは、スイッチの動作不良をいかに防ぐかということでした。
普通はフロントパネルのスイッチまで配線を引き回して入出力信号を切り換え
ますが、われわれは入出力端子近くにリレーを置いて、引き回しを短くすると
ともにスイッチの信頼性をあげたのです。

【傅】
特にプリアンプの内部を見ると、後部の入出力端子近くにオレンジ色の小さな箱
がたくさん並んでいます。あれはリレーですね。なんでもリレー内部は
空気を追い出して不活性ガスを注入、接点で火花がとばないので数百万回の
切換え寿命があるというリレー。

【高松】
そうです。これでお客様のクレームをまずスイッチにおいてはなくしました。
それとトランスの唸りですね。ただしこれは簡単ではありませんでした。
唸ったり唸らなかったり、いろいろな状態がある。

【傅】
たとえば?

【高松】
隣の家である電気製品の電源を入れるとユーザー宅のアンプが唸る、ということが
ありました。初めはなかなか原因がわからなかったのですが、のちに究明して対策しました。

【傅】
そうか原因は他にあっても、アンプの責任になってしまうのですね。
そういう場合はユーザーの家を訪問するのですか。

【高松】
はい、行きます。遠かろうか行きました。お客様はトランスの唸りなど
一度気になりだすと、アンプの音質には満足してくださっていても、
もう音楽を楽しめなくなってしまう。

【傅】はい。はい。それがわれわれユーザーの心理です。

【高松】
ですから価格の高い製品ほど気を遣います。もちろん安価だからかまわないとも
思っていません。アキュフェーズ製品全般について、安定性・信頼性について
われわれ開発グループのエネルギーの多くを費やしています。
こうした努力がなければ、アキュフェーズ製品の持っている
レベルの高さには達しませんよ。

 ~中略~

【傅】
スピーカーは何組もあるんですか。

【高松】
ありますが、今のところはJBLのK2/S5500が中心です。

【傅】
みなさん今日この取材の後はサントリーホールでコンサートだそうですね。

【高松】
そうです。なるべく生の演奏を聴きたいと思いまして、今日は3人、
明日は全員が行きます。

【傅】
それは、オーディオに関わる技術者だからですか。それとも個人の生活が
音楽と結びついているからでしょうか。

【羽山】
両方あります。どちらとはいいきれないですね。

【花田】
私は子供の時にラジオ作りが好きでこの道に入りましたが、
直接のきっかけは音楽からでした。

【島崎】
私の場合は小さい頃からクラシック音楽を聴くのが好きでした。
大学時代もほとんどハンダゴテを握ったことがなくて、アキュフェーズに入社が
決まってから、急いで電気関係の会社にアルバイトに行きましてトレーニングしました(笑)。

【高島】
私が二十代の時はオーディオ機器の自作が流行していました。
でも、私は音楽を聴くことのほうが好きでした。最近はクラシックが多いのですが、
以前はずいぶんジャズ喫茶に通ったものです。

 ~中略 (チームの組み方など)~

【高松】
営業のスタッフはいろいろな批評や要望を外部から聴いているわけですが、
彼らから絶対にこの音の方がいいという意見が寄せられました。

【傅】
なるほど、それが音の変化の理由ですか。アンプを開発する時、
測定データがどんどん出てきますね。一方で試聴をくりかえす。
アキュフェーズはその両方のバランスを大切にしていると思います。

【羽山】
はい、そうです。

【傅】
そのバランスを崩したことはありませんか。

【高松】
試聴だけで決めた製品が以前にありました。しかし測定すると安定度の点で
危なかった苦い経験があります。

【傅】
たぶん、エネルギッシュな音がしたのではないかと思いますが。

【花田】
そうなんです。それから、試聴だけでプリアンプの電流をやみくもに増やしていって、これはいい音だと製品化したら、えらく熱をもつアンプになってしまった。

【傅】
パワーアンプのようにですか。

【高松】
ええ。でも音を優先していたので、その状態で製品化しました。

【傅】
それでは、明らかに歪み率はひと桁悪いけれど、音はいいという場合があったら、どうします。

【花田】
プロ機では意識的にそうした製品がありました。パワー感を出したいので、
歪みをべらぼうに低くするのではなく、ある程度にしておいて出力を
とれるようにするという設計です。

【羽山】
これらは昔話です。今は開発初期の段階で電気特性を満足させてから音造りの段階に入ります。

【高松】
ですから、電気特性を捨てても音をとる、という製品はあり得ません。
安定性・信頼性を捨てるということは、われわれの頭の中にはないのです。

[:image7:]傅信幸(ふう のぶゆき):1951年5月生まれ。オーディオ評論家。=====================================================================
ここまで

ちょっと話題が変わります
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今でこそ Youtubeでの語りをみると普通のお爺ちゃんの傅氏ですが
昔は眼光の少し鋭い青年でした。
季刊ステレオサウンド No.113 1995 WINTER
1981年マーク・レビンソン・オーディオ(MLAS)入社のマーク・グレイジャー社長(当時)との対談の一幕。
[:image8:]
【傅】
マドリガルの製品---マーク・レビンソン、プロシードとも---を扱う
ディーラーはアメリカに何店あるのでしょう。

【グレイジャー】
約60店ほどです。

【傅】
アメリカで60店は、ちょうどいい数ですね。すると、何万冊も印刷する雑誌より、
60店舗のほうが強い?

【グレイジャー】
うーん。結局はアメリカの雑誌にもっとがんばってもらいたいと思います。
日本にはステレオサウンドのようなゴージャスな雑誌がある。
ここまで魅力的な雑誌がアメリカにはありません。そうですねえ。
わたしの独断でいいますと、魅力的な雑誌は他に、イタリアの「スオノ」、
イギリスの「HiFiニュース&レコードレビュー」、ドイツの「オーディオ」、
「ステレオ」・・・・・。

【傅】
ところで、お互いよく旅をするので、いろいろなところで会いますね。
わたしたちが会ったのは、もう15回くらい?

【グレイジャー】
いや、20回以上でしょう。

【傅】
コネチカットで焼きハマグリを食べながらとか、鎌倉の神社の境内を歩きながら
とか、いろいろな場所で話をしていますね。
 マーク(グレイジャー氏のこと)がタイのバンコックへ初めて行った時の話が
とても記憶に残っています。もう一度、読者のためにお話ししていただけますか。

【グレイジャー】
バンコックでのカルチャーショックについて?

【傅】
そう。

【グレイジャー】
あれは新製品のキャンペーンでバンコックに着いて、飛行場から初めて町へ
入っていったときのことです。道路は大混乱で車はいっこうに進まず、
半裸の子供たちが物売りにやってくる。靴をはいていない。だのに
わたしはタクシーのトランクに10万ドル近い価格の製品サンプルを積んでいる。
「わたし は いったい ここに 何をしに きたのだろう」と
複雑な気持ちになったものでした。

【傅】
マドリガルの製品に、子供たちにあげられるような安価なラジオはありませんからね。わたしは去年ヨーロッパで訪問したメーカーで、不思議なものを見ました。
工場の内部は10年以上前にいったときと変わっておらず、
いまや原始的にさえ見える。

ところが会社のオーナーの家に行ってみると、
大邸宅でガレージにはスーパーカーが並んでいる。
1台売って測定器を揃えてあげれば、工場の技術者はいい仕事ができるはずですから、技術者がかわいそうでした。

【グレイジャー】
ノブ(傅氏のこと)がなぜそのような話をしたのか、よくわかります。
オーディオ製品を作る会社は、とてもクリエイティヴな仕事をしているはずです。
製品は単なる機械ではありません。
そこに込められたフィロソフィ、コンセプトこそがたいせつです。

【傅】
ですから、マークがバンコックでショックを受けたとき、
タクシーのトランクに積んであったのはオーディオ機器であって、
宝石でも株券でもなかったわけでしょう。

【グレイジャー】
わたしはいま、あのバンコックの少年たちに何もしてあげることはできませんが、少なくともわたしにできることは、マドリガルの工場で働く人たちにもっともっと働きやすくしてあげて、われわれの自由な仕事のなかから生まれてくる製品こそが本物であるという自信を深めたい。
つくづくそう思っています。
*****************************************************************
ここまで

もう載せられる写真の枚数が少なくなってきたので省略しますが、
この回の傅氏の眼光もなかなか鋭かったです。
傅氏はオリジナルノーチラスの使い手として 最近では
Youtube配信 も されて、かなりのオーディオファイルから認知されています。
ノーチラスのウーファーの振動板をおもむろに手でめくる光景には度肝を抜かれました!!
[:image3:]ちょっ!チョッ!!っと ええーーー!? (自分のスピーカーこんなんされたら卒倒しそうになりますよね。いやはや凄い!!どんなウーファー構造になっているのかサッパリ分かりません・・・・まるで墜落したUFOの部品のようです(昔は矢追純一がUFO番組やってましたね))

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季刊ステレオサウンド No.180 2011 AUTUMN より
[:image9:]
 <聴くほどに増す ノーチラスの魅力> 

 わたしの部屋にノーチラスがやって来たのは1997年8月5日のことだった。この夏で14年になった。
 ノーチラスは、エンクロージュアがない替わりに、消音器による吸音構造をとっている。エンクロージュアの内部にコモる共鳴音が感じられないことをはじめ、エンクロージュアの「面」による不要輻射や、「角」による回折がほとんどないなど、極めてローノイズなスピーカーである。言い換えると、カタチはとても個性的だが、鳴り方は、固有音による存在感がないスピーカーなのである。
 だからノーチラスからは、軽々として開放的に音楽が奏でられる。スピーカーから聴こえてくるというのではなく、「ノーチラスの周囲の空気が、楽器やヴォーカリストに化ける」のだ。そういう音楽の聴こえ方を体験してきた14年間でもあるわけだ。
 結婚ならば蜜月はとうに過ぎたことになるが、「七年目の浮気」の時期にも何事もなく、搭載スピーカーユニットの2度の事故による修理を経て、落下してきた額縁から受けた傷を3・11震災の記憶にし、わたしはノーチラス君ときょうまで一緒に暮らしてきた。
 仕事柄たくさんのスピーカーを聴くが、ノーチラスの鳴り方に共通する仲間達が最近ぼちぼちと出現しているのだと実感する。そして自分の部屋に戻って音楽を聴くと、ノーチラス君、やっぱり君はたいしたもんだぜと嬉しくなる。長らく一緒に暮らしてきているので、ひいき目で見てしまうのだろうが、その広々とした音場感の提示、フワリと音が沸きたつ感じは、いまも素敵だ。
 ノーチラスの現状を知るためにB&Wへ問合わせをした。6月に返答いただいた内容は次のようなものだった。
 ノーチラスは少ないながら現在もまだ製造されている。ウーファーからツゥイーターまで4種類のスピーカーユニットは、ベテランの女性工員がひとりで手作りしている。そして全体のシステムの組立てはやはりベテランの男性工員がひとりで行っており、工程によってはもうひとり手伝いに加わる。この生産体制によって現在は年間に約20ペアを出荷している。ちなみにこの6月のある日、英国の南部にあるB&Wの工場で誕生しようとしているノーチラスの製造番号は807と808だそうだ(わたしのノーチラス君は300番台)。
 かつて付属品であった4ウェイの専用チャンネルデバイダーは、いまはもう付属しない。いまから17年ほど前になる設計。生産仕様のままでは、各国の現在の電気的な安全基準を満たさないし、容易に仕様を変更することも難しいからだ。
 
 <付属デバイダーがなくなったら・・・・・・>

 今年の春にアキュフェーズから、チャンネルデバイダーの新作、DF55が登場した。デジタル回路によるチャンネルデバイダーでは、同社の第3世代の製品になる。
 ときどきわたしは、ノーチラス君でいつまで音楽を聴いていられるだろうかと心配になるときがある。ユニットの経年変化/ダメージと、付属デバイダーの故障に、どう対応出来るのだろうかと。ユニットに関してはB&Wからの回答にあるように、今後も供給されるだろうし、補修部品としてしかるべき数が用意されているはずだ。しかしデバイダーが故障したらどうする?
 そもそも付属デバイダーはB&Wの内製ではなく、ドイツの電子機器メーカーへの外注であったし、半導体や抵抗やコンデンサーなど、まったくおなじ部品が現在入手出来るとは考え難い。
 そこへ登場したのがDF55である。DF55の資料を読みながら、これは付属デバイダーの将来の保険になるかもと思ったのが始まりだった。
 言うまでもなく付属のデバイダーはアナログ回路である。デジタル回路で最新のDF55を使うと、保険などという生やさしいものではなく、もしかすると、ノーチラス君が生まれ変わったように鳴り出してくれるかもしれない。ノーチラスの今日的な再発見出来るかもしれない。
 こうして好奇心を膨らませたわたしはアキュフェーズに協力を依頼した。ノーチラス+DF55のコラボレーションは、いったいどんな音を聴かせてくれるのだろうか?

 <最新技術で 近似値を探る>

 このコラボレーションは、ノーチラス付属デバイダーの実物をアキュフェーズの技術部へ送り、その各帯域の遮断特性など、付属デバイダーの仕事ぶりを解析することから始まった。ウーファー/ミッドベイス/ミッドレンジ/トゥイーターへの各出力特性を観察する。それは、各帯域のフィルターの遮断周波数や周波数特性ノスロープを静的に解析するだけではなく、動的な測定信号も入力して、フィルターによる出力波形の動的な変化も観察していった。
 付属デバイダーの「仕事ぶり」は、ベッセル関数フィルターのスロープ特性を示しており、-6dB/octのスロープを描きながら、まもなく-24dB/octへとスロープが深くなってゆくことと、ウーファーに次いでミッドベイス/ミッドレンジ/トゥイーターへと繋げられてゆくにしたがい、徐々に4段(4次)ずつの位相シフトがされて、巧みにタイムアライメントがとられていることがわかってきた。
 付属デバイダーの動作に合わせて、アキュフェーズの技術陣がDF55を調整/セットアップする。クロスオーバー周波数、スロープ特性、レベルなどを設定してゆくが、単純ではない。DF55ではバターワース関数のフィルターを搭載しているので、付属デバイダー(ベッセル関数)とは、おなじスロープ特性を描けるわけではないのだ。

 ~中略~

 わたしの部屋に来てくれた技術陣が納得する方法として、ノーチラスの正面50センチのところにマイクロフォンを立てて、伝送周波数特性を観察した。これまで電気的な特性だけを測定していたのを、ここからは音響的な特性も併せて探ってゆくのである。
[:image10:] 使ったのは同社のデジタルヴォイシングイコライザーのDG48で、マイクが50センチとスピーカーに近いのは、部屋の影響をあまり受けることなく伝送周波数特性を測定したいからだった。また、マイクの高さは、ウーファーミッドベイスの間である。ノーチラスの設計者であのディッキーさんが、そこがアクースティックセンターだと教えてくれていたからだ。
 こうして測定された伝送周波数特性のデータを手がかりにし、同時に、聴く位置はバラバラながらわたしと一緒にノーチラスの音を聴き、技術陣はある程度納得して、その後に設定を修正してゆくことになる。わたしは各設定を試聴する前には、データは見てはいない。先入観なしで聴きたかったからだ。

 ~中略~

  <静寂を心から 実感させてくれる>

 アキュフェーズの技術陣が持ち帰った宿題の回答が届いた。付属デバイダーを解析する動的信号を、違う信号にして解析を繰り返すなど、ノーチラスに対するDF55の設定は、バリエーションもいれると、これまで15以上の設定で試聴してきた。
 前述した1~4の設定は練習のようなものだった。5以降の設定は進化した。わたしは進化を認めて、設定4Bを追い込んだメモリーを消してしまい、新しい設定を記録した。また、5以降の設定では、ノーチラスの前方50センチのところに立てたマイクによる伝送周波数特性を技術陣のひとりがDG48の画面で見ながら、ミッドレンジを少し下げて、ディレイ(タイムアライメント)を深くして、などと指示、もうひとりが調整するリアルタイムな連携作業で設定を突き詰めていった。

 ~中略~

  <頂はまだ見えないが・・・・・>

 いま三つ残している設定のうち、ひとつは、音の硬さが取り切れないので、しっくりとは来ず、メモリーから消してしまおうかと思っていた設定だった。ところが、リズミカルな曲、テンポの速い爽快な曲、マイクを近接した録音でピアノのきしみが聴こえるようなonな表現では、この設定はオーディオ的快感をもたらしてくれるので、まだ残してある。
 あとのふたつは、前述のような

 ~中略~

 わたしの部屋のオーディオシステムでは以前からアキュフェーズのデジタルヴォイシングイコライザー、DG48を常用している。ヴォイシングで特性をフラットにしてからイコライザーを手書きで描いて好みのバランスにしている。現在残っている三つの設定に対してそれぞれヴォイシングを施すとしっくりときたので、DF55の調整はヴォイシング+イコライザーを通して行っている。
 いまは付属デバイダーに戻してみると、懐かしい音に聴こえてくるほどだ。
 DF55に接続すると、S/N感は圧倒的に高く、情報量は膨大であるし、ローレベルの深々とした表現力は恐ろしいくらいだ。弦楽合奏のヴィブラートで空気の波動が感じられ、女性ヴォーカルは歌い手のうぶ毛まで見えてくるくらいに思われる。ノーチラス君凄いぜと、惚れ直している。
 ローノイズなスピーカーが、14年の時を経てローノイズなデバイダーに出会ったのである。
 眠っていた子は起こされた。
<<<<<-------------------------- ここまで ※2021年5月時点で傅氏のDF55はDF65に変わっておられます。  DELAなどファイル再生にも取り組む最新の傅氏の動画をご覧になりたい方は  こちら ⇒ https://youtu.be/E5CUSF7aqs0
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ステレオサウンドNo.219 2021年 SUMMER

【傅 信幸と土方久明のファイル再生ワークショップ】

前号で準備回をお届けした「ファイル再生ワークショップ」が、今号から正式スタートします。第1回目は、ウィンドウズPCやMacなどのパソコン、あるいはDELA、fidataなどのオーディオ専用サーバーを「トランスポート」として使い、それらをUSB対応D/Aコンバーターと接続してデジタルファイルを再生する方式にスポットを当て、さまざまな比較試聴を行ないました。トランスポート、再生ソフトウェア、USBケーブルの長さなど、異なる条件下での音の違いをきめ細かく比較検証しています。
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※一般的にオリジナルノーチラスは-6dB/octクロスという話がありますが、
 そこに留まらずスロープは最終的には-24dB/octになる造りであると
 いう情報が今回紹介のステサンから得られてよかったです。これを知らないと、
 金田式-6dB/octチャンデバが「オリジナルノーチラスの純正チャンデバの
 代わりになりそうだ」という予測が出てきますが、この情報からみるに
 金田式-6dB/octチャンデバは適しません。簡単ではない感じ。

※オリジナルノーチラスの記事と同じ No.180 の208頁から始まる
 「スピーカーケブルの試聴と設計理論からの音質予想」は
 ケーブルの測定と聴感の相関に考察を与えていてなかなか興味深かったです。
 比較用のグラフの縦軸の縮尺が、統一されていなかったので単純に比較すること
 ができず、頭の中で合わせして比較する作業が疲れました。まあ、縮尺を
 変更しないと枠から飛び出てしまうものがあったりで、大変だったのだろう
 とは思いますが。その意味で、 『素人向けの記事ではありません』 ので、
 ご注意ください。(正しい事を書いているのに、読み手が勝手に間違える。)

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