前回8月の訪問で、ヒジヤン邸システムとヒストリカル音源の相性については以下のように書きました。
>一方で、脚色はしないし、誤魔化しもしないので、例えばクラシックの古い録音やこってりした演奏は粗までしっかりと見えてしまい、好みに合いにくいだろうなぁとは思いました。
>なので、ヒストリカル音源について聞いた際の回答は案の定でした。
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>眠り:「ヒストリカル音源は聴かれないのですか?」
>ヒジ:「聴かないですね。フルトヴェングラーでないと・・・などと言われる人もいますが、音がよくないと楽しめないたちです。」
>眠り:「わたしもフルトヴェングラーはちょっと・・・」
>ヒジ:「カラヤン止まりです」
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>実際、フルトヴェングラーは相性が最悪な部類だと思います。
私自身は最新録音だろうとヒストリカル録音だろうと、結局のところ聴きたいのは演奏そのものなので、あまりこだわりはありません。
ただ、より新しい録音のほうが基本的には演奏の情報量がより多く取り込まれているので、聴き手としてはどうしても20世紀前半のヒストリカルなものには手が伸びにくいのは確かです。
※フルトヴェングラーについては、単に演奏が全般的にそれほど好みではない、ということもあります。個別の演奏であれば好むものもありますが。
ヒストリカルな録音は基本的に、録音時に実際に鳴っていたであろう音と残っている録音との間で、差分が非常に大きいです。
その上でその差分をどう埋めるか、あるいは新たな情報をどのように自然に付加するかという問題があり、(脳味噌の中で想像で補完する以外の)手法については様々な議論がありますが、めんどくさすぎるので割愛します。
私の考えだと、ヒストリカルな音源のCD再生に関する限り、
「元の録音やリマスターには新しい録音と比較して、だいぶ低い位置に限界点がある。音源を忠実に再生する機材を使う限り、どんなに高特性であっても、CDから引き出して再生できるものはそこで頭打ちとなる。水のない井戸を掘っても、それ以上の水は出てこない。」
です。
したがって、そのCDを忠実に再生することよりも、如何に自然に脚色するか、のほうがアプローチとしては適しているのではないかと考えています。
その観点からすると、前回聴いた限り、ヒジヤン邸システムはヒストリカル音源と相性が悪いと予想していました。
そこをどうやって調整してくるのかが興味深いところです。
前半の再生リストはこちら。
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第1ラウンド:ヒストリカル音源&リベンジ
ヒストリカル音源
①ジネット・ヌヴー / クライスラー「W. F. バッハの様式によるグラーヴェ」
②ジネット・ヌヴー / ショパン「夜想曲第20番嬰ハ短調」(ロディオノフ編)
③ヨーゼフ・ハシッド / マスネ「タイスの瞑想曲」
④ フルトヴェングラー / ブラームス「ハンガリー舞曲第1番・3番」
リベンジ
⑤ イザベル・ファウスト/ブラームス ヴァイオリン協奏曲 第1楽章+第3楽章
⑥ MTT /マーラー交響曲第5番 第1楽章 +第5楽章
昼食
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さて実際に聴いてみると、うまくまとめたなぁ、という印象です。
聴いたヒストリカルのCD自体はいずれも初めてのもの(特にヨーゼフ・ハシッドについては存在自体知りませんでした)だったのですが、1枚めのデュオ録音に関しては(元々の録音の限界はあるにしても)濃厚な弦の音で、ヴァイオリニストがマイクの前に立って演奏している姿を彷彿とさせるリアリティがありました。
前回のサウンドだと、もっと痩せぎすで少々キツめの音になると予想していたのですが、華麗に回避されていました。
読んだ方に誤解の無いように改めて補足しますが、前回のサウンドが悪いという意味ではないです。キレが良く音源に忠実な再生というものはある種の理想ですが、一方それは万能ではなく、いろいろな意味で欠落が多いヒストリカルな音源の再生には必ずしも向いているわけではない、ということです。要は相性の問題ですね。
その相性の悪さをうまい具合に緩和・調整してきた、というのが今回の印象です。
もちろん更に踏み込んだ調整も可能だと思うのですが、それはヒジヤン邸サウンドの個性を捨てることに繋がっていくと思うので、このくらいが妥当なのではないでしょうか。
2枚目のフルトヴェングラーについては、CDに入っているデータの再生という意味では十分でしたが、そもそもの録音にいろいろと問題を感じるものでした。
よく聴けば個々の楽器はそれなりのクリアさはあるものの、全体としては茫洋としており、ホールの最後尾のドアを閉め、そのドアを隔てた向こう側から聴いているようなイメージでした。
ヒストリカルの次はリベンジ再生です。
ヒジヤンさんのオススメ音源ですが、前回聴いた時にはいまいちピンと来なかったもの。前回の私の感想を元に、改めて再生にチャレンジする、という趣向です。曲のどの楽章を再生するかも含めての見直しとのこと。
まず、このブラームスの協奏曲についてはだいぶ評価が変わりました。
ヒストリカル音源と最新の録音の両立を目指して調整した結果でしょうか、今回のほうがブラームスらしくやや厚みが出て、演奏の熱量も伝わってくると感じます。
また、前回は第3楽章を再生したところ演奏の速さに必然性が感じられず空回りしているようであまり良い印象が無かったのですが、第1楽章から聴くとその終楽章の速さに必然性があることが理解出来ます。
巡り合わせが悪いのか、私にとってはファウストの演奏は常に冷静沈着過ぎて面白みを感じたことがありません。その意味で私はファウストの良き聴き手ではないのですが、このブラームスの協奏曲は改めての視聴で意外な熱さにちょっと驚きました。
なんとなくですが、ファウスト自身もバックのハーディング/マーラー室内オーケストラの熱気に当てられたのかもですね。
一方でMTTのマーラーですが、こちらは前回と同じく第1楽章から開始。
相変わらずの優秀録音です。
ただ、こちらの演奏の印象はあまり変わらず。
おそらくですが、今回の調整によってヒジヤン邸サウンドの再生音で一番影響があったのは弦(特にヴァイオリン)なのではないでしょうか?たぶんヴァイオリンの録音をメインで調整したのでは?
前述のヴァイオリン協奏曲はその調整が全てプラスに働いた一方、マーラーは散りばめられた様々な楽器の音と幅広い音域、強弱の対比がある意味「売り」の曲なので、ブラームスほどの大きな変化は出なかったかな、と思います。
ただ、リクエストして終楽章もかけてもらったところ、明らかにオーケストラのしなやかさや温度感、演奏の開放感が違っていたので、第1楽章が私のアンテナに反応しないのは演奏の差が影響しているのでは、とも思いました。
※冒頭楽章では硬い演奏だったのが、進むにつれてほぐれて良くなる(もちろんその逆も然り)ことはライブではよくある話です。
ここで一旦ランチタイムです。
近所の飲食店で一息つきながら、オーディオ談義に加えてコンサートの当たり外れや席選びなどなど話題は尽きません。
ヒジヤンさんからは「聴いたコンサートや、各ホールの座席についても書いてみては?」という話も出ました。
しかし、如何せん私は筆無精な人間でして。
加えてコンサート数が多すぎて書ききれない。
書こうとするうちにどんどん次の宿題が溜まっていきそうなので、ちょっと無理かな、と思います。
そして座席についても、自分用の席の確保に影響が出そうなのであまり良し悪しの情報は公開したくないという理由があります(笑)
コンサート自体の当たり外れについても、チョイスする公演が「当たり」である打率はかなり高いほうだと自負していますが、その勘所もなかなか伝えにくいんですよね。。。
(続く)
コメント ※編集/削除は管理者のみ
眠り猫さん、その2をありがとうございます。
コンサート日記の会話も思い出されました。年に100回の話から発展して、「その中で特に心に残ったものだけでも日記にしてもらえると猫さんの視点がよくわかります。」「ええ、ですが当たりの公演が多すぎて・・・」なんて話しましたね。「よい演奏の公演を見分けるのもネンキがなせる技」だと。自分は音を大事にするので、ホールと楽曲と着座位置の聞き分けを大事にしているのですが、普段の日記からもそれが表れていますね。両方合せて選択できるとよいのですが、贅沢を言い過ぎると選べる公演がなくなってしまいます。
ヒストリカル音源とリベンジ音源の話は、詳細の感想がわかりやすかったです。そのように感じていたんですねー、と納得する面と、
>私自身は最新録音だろうとヒストリカル録音だろうと、結局のところ聴きたいのは演奏そのものなので、あまりこだわりはありません。
へー、そうなんですね。自分とは大きく違うと感じる面がありました。この辺りもオフ会後記に書いてみようと思います。加えて、「フルトヴェングラーでないと・・・」と言われる方の気持ちも少しわかるようになった気がします。
それにしても、視点の異なる方の感想は参考になりますね。演奏活動も、よい面ともう一つの面の客観的な意見を自身の中で消化することで成長が生まれると思いますのでありがたいです。加えて、不得意分野に挑戦するのは、弱点を克服することに挑戦することと同義なのでやり甲斐があります。
その3も楽しみにしています。
ヒジヤンさん、コメントありがとうございます。
多忙でなかなか筆が進まないのですが、もう一踏ん張り、後半戦の記事までなんとか仕上げたいところです。
>両方合せて選択できるとよいのですが、贅沢を言い過ぎると選べる公演がなくなってしまいます。
そうなんですよねぇ。
ここのところ毎回チケットを考えて選ぶのが面倒になってきたので、セット券や定期会員券の優先販売で早めに面白そうな席を押さえて、行かない公演はチケット救済サイトでどんどん放出することにしてます。
ヒストリカル音源について補足しますと、私がクラシックを聴き始めて最初に好きになった指揮者の1人はクナッパーツブッシュ(Hans Knappertsbusch)で、フルトヴェングラーとほぼ同年代です。なので、音は悪くて当たり前くらいに思ってます(笑)
まだその3は作成中でUPに至らず、長丁場にて恐縮ですが今しばらくお付き合い頂ければ幸いです。