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デンマークの風を聴く – シーネ・エイからデンマーク弦楽四重奏団「ウッド・ワークス」へ

日記・雑記
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花冷えともいえそうな天候から一転して
今日はとてもあたたかな1日でありました。
ゆるやかに吹く春風は伸びやかな気持ちにさせてくれる一方
桜が咲くこのころは、すこしあやしい趣もあって
意外に心穏やかならぬそわそわした感じもあります。
そんなメランコリックな今日はデンマークの音楽のお話を2題ほど。。。

シーネ・エイはデンマークのジャズ・シンガーです。
ここ数年はコンスタントに新譜を発表していて
日本でもそのたびにツアーをしているので
パフォーマンスをライブでご覧になった方もいらっしゃるでしょう。
私は2011年に発表された“ Don’t Be So Blue”で彼女の存在を知り
さかのぼってそれ以前の作品にもふれて
かなりよく聞いていた時期がありました。
そんな彼女の新作が発表されました。
「シングス・スタンダード」(原題は Eeg Fonnesbak)です。

ベーシスト、トーマス・フォネスベックとのデュオ・アルバムで
どうも日本先行発売のようです。

曲目は以下のとおり

01. Willow Weep For Me 柳よ泣いておくれ
02. Taking It Slow テイキング・イット・スロウ
03. Evil Man Blues イヴィル・マン・ブルーズ
04. You Don’t Know What Love Is 恋の味をご存知ないのね
05. Summertime サマータイム
06. Body And Soul 身も心も
07. Beautiful Love ビューティフル・ラヴ
08. Come Rain or Come Shine 降っても晴れても
09. Fellini’s Waltz (Enrico Pieranunzi) フェリニズ・ワルツ

【日本盤ボーナス・トラック】

10. The Shadow of Your Smile いそしぎ
11. The Autumn Leaves 枯葉

印象としては、直球一本勝負という感じで
小細工が排除された生々しくごつごつした触感のある音楽です。
すこしストイックすぎるかな~と思わないでもないのですが
彼女のここ最近の作品の変遷からすると意図するところは
感じ取れるような気がします。
オーケストレーションをバックにした
前々作(2012年)の“The Beauty of Saddness”
ピアニスト、ヤコブ・クリストファーセン率いるトリオで
原点回帰した印象のある前作(2014年)の“Face The Music”
という流れの中に本作を位置づけてみると
自分のヴォーカルをさまざまな角度から聞かせよう
ということはあるのじゃないかと。。。

あらためて彼女の歌声の魅力を考えてみると
まず彼女自身のHPで紹介されているように
ナンシー・ウイルソン、ベティー・カーター、サラ・ヴォーンといった
本場アメリカのジャズシンガーたちの影響はあるのでしょうが
「ソフト・ダークなタッチ」があって、
「スカンジナビアのメランコリーをその音楽に宿らせている」といった
印象は、多くの人が共有できそうな気がします。

このアルバムでも4曲目のYou Don’t Know What Love Isあたりから
ふか~いメランコリカルな空気がたちこめてきます。。。
この曲と6曲めだけはエレキベースの伴奏になります。
意外とこの2曲がよいアクセントになっています。

と、書いたものの「スカンジナビアのメランコリー」ってなに?
と問われると、すこし返答に困るところもあって
自分のライブラリーの音楽を改めて聞きなおしたり
ネットでデンマークの音楽を調べたりなどしておりました。

デンマークの音楽家というと
クラシックで言うと、やはりまずカール・ニールセンでしょうか。
そんなにくわしくはないのですが
弦楽四重奏は好きで、The Young Danish String Quartetによる全集は
音源を持っていました。
「ニールセンの弦楽四重奏は、スカンジナビアのメランコリーあるな~」と
まずそんな思いになりました。
美しい旋律が透き通るようなアンサンブルで奏でられる感じは
そこはかとなくもの哀しいところがあります。
The Young Danish String Quartetの演奏も実に巧みで
いいな~と改めて聞きほれていました。
それでこのカルテットの他の作品を検索していたら
表題に示した作品の存在を知りました。

デンマーク弦楽四重奏団「ウッド・ワークス」
昨年発表されたものです。
デンマークの民族音楽(民謡)をもとに
彼らが弦楽四重奏にアレンジした作品集で
私は、かのシェーンベルクがトランシルヴァニアの民謡を採取して
ピアノ曲にアレンジしたエピソードなんかを思い起こしました。
このアルバムの中核となる楽曲である
Sonderho Bridal Trilogy (Part Ⅰ~Ⅲまであります)は
ミニマルな味わいがあって、
まさに「スカンジナビアのメランコリー」という感じです。
これは演奏がYoutubeで公開されています。

ttps://www.youtube.com/watch?v=QlnqPerqgPw

デンマークは島国で、多くの島があるのですが、
この3部作は、2つの島の伝統的な婚礼の音楽をもとにしているそうです。
そのうちデンマーク南部のファーン島(Fanø)のソナホ(Sønderho)の婚礼の祭列の様子が以下で見られます。
祭列の先頭にはフィドルを弾く男女の姿が見られます。(2分30秒あたりから)

ttps://www.youtube.com/watch?v=HzTvOUEZN8Q

女性たちの紫を基調とした民族衣装が特徴的で、鮮やかな印象があります。

ここで再びシーネ・エイの話に戻ります。
彼女の「スカンジナビアのメランコリー」の原点って何だろう?と考えて
デンマーク弦楽四重奏団「ウッド・ワークス」にたどりついたのは
偶然ばかりではありません。
ファーン島は、彼女が大学時代をすごしたエスビャー(Esbjerg)というまちの対岸にあり、目と鼻の先だったということがわかったのです。
彼女が通っていた大学には、民族音楽のコースもあり
ふつうに考えて、彼女がデンマークの民謡に
まったく無縁であったとは考えにくいですし、
フィドルの音色をそこかしこで聞きながらの学生生活だったのでは。。。
と思うのです。

昔、ある貴族の血統である映画監督の屋敷(お城といったほうがよいようなお宅)のエピソードを目にしたことがあって、そのことを今思い出しています。
そのお屋敷には誰もいない部屋がいっぱいあって、
きれいな花がいつも生けられていました。
窓が開け放されていて、その部屋たちに風が通り、
カーテンがはためいていました。
その様子がじつにものさびしくて怖かったのだそうです。
先に紹介したデンマーク・ファーン島に吹くメランコリーな風を
イメージしながら
シーネ・エイやデンマーク弦楽四重奏団の演奏に耳を傾けてみるのも
桜咲く春の宵のあやしさには一興となるかもしれません。

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