長い間気になっていた「カルテット・エクセルシオ」のコンサートに行くことが出来ました。感想は「松・竹・梅 セット」と言うものでしたが、こんな体験が音楽もオーディオも少しづつ開眼させてくれるような気がします。
会場は浜離宮朝日ホールです。4月に幸田浩子さんのリサイタルを聴きに来ました。座席数552席の中規模のホールですが、音響的には並のレベルと感じています。この規模のホールで室内楽の弦楽四重奏ですから、音量の満足感を得るためには出来るだけステージに近づきたくなります。気になっていたカルテット・エクセルシオのコンサートの最前列センター席が売りに出ていたので、飛びつきました。
<演奏曲と感想>
①モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲 K.492(弦楽四重奏版)
②モーツァルト:弦楽四重奏曲 第19番 ハ長調 K. 465「不協和音」
③シューベルト:弦楽四重奏曲 第12番 ハ短調 D 703「四重奏断章」
④メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第1番 変ホ長調 Op.12
今回の4曲は面白い感想となりました。最初はこの規模のホールに弦楽四重奏では、「やはりダメか・・・」と思ったのですが、最後は力強く濃く豊かなサウンドを聴かせてもらい大満足です。最初と最後の違いはなぜ?と頭の中がぐるぐるとしましたが、「この音の違いは演奏に秘密がある」という仮説に辿りつきました。
①モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲 感動度☆☆☆☆☆
この曲は、自分のコンサートでも使ったりしていますので馴染みの深い曲です。ですが、演奏が始まっても音は響いて来ませんでした。酷な言い方をすれば、「スカスカ」です。「やはり弦楽四重奏と規模感の合わないホールで聴いても音が逃げてしまうだけなのか?」「このコンサートを選んで失敗した」などの思いがわいて来ました。ですが聴き馴染みの深い曲でしたので、曲に乗ることで楽しく聴けたのでよしとしておきます。
②モーツァルト:弦楽四重奏曲 第19番 感動度☆☆☆☆☆
こちらは数多くある、モーツァルトの弦楽四重奏曲の中でも有名なハイドンセットの最後の曲です。演奏前の解説では、カルテット・エクセルシオが数多くこなして来た曲のようでした。演奏が始まると、先ほどとは音がまるで違います。濃密に響いてくる感覚でした。「これなら来た甲斐がある」と思いながら聴いていました。ですが、二楽章、三楽章・・・と進むにつれて眠気がさして来ます。目を見開いてこらえたので寝てしまうことはなかったですが、隣の男性は寝てしまっている様子でした。「やはり規模感の合わないホールだと最前列でもダメなのか?」などと思ってしまいました。
③シューベルト:弦楽四重奏曲 第12番 感動度★☆☆☆☆
休憩前の終曲です。この曲は、シューベルトが第一楽章だけ完成させて、作曲を止めてしまった曲とのことでした。でも、軽快に美しく語り掛けてくるような素敵な曲です。そして、弦楽四重奏が奏でる音も更にグレードアップしたように感じました。心地よい響きの中に入り込んだような気分でした。
④メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第1番 感動度★★☆☆☆
休憩後のラストの演奏曲はメンデルスゾーンでした。この曲では、冒頭から音の厚みが違います。力強く濃く豊かなサウンドだと感じました。こんな音で演奏されると、楽曲はあっという間に進んでいきます。うっとりしながら聴いていると、すぐに終わってしまうんですよね。オーディオで聴いているときは、「第1番はあまり好きじゃない」と思っていたのですが、この演奏を聴いて「この曲好きだな」に変わっているではないですか。これが、よき生の力です。
この流れを振り返ってみると、最初は「音がよくない」と感じたものが、最後は「音がいい」に徐々に感想が変わっていきました。この理由を考えると、下記の仮説が浮かびます。
・「フィガロの結婚」序曲はオーケストラ用の曲を弦楽四重奏版にしているので、四重奏のハーモニーに無理があったので聴くものに響いてこなかったのではないか?
・モーツァルト:弦楽四重奏曲 第19番「不協和音」では、演奏慣れした曲で本番前の合わせもそこそこだった。だから、四重奏の響きが最上な状態ではなかったではないかと思い浮かびます。演奏の中だるみもあったの–かもしれないです。
・シューベルト:弦楽四重奏曲 第12番では、休憩前の終曲と言うこともあり練習を積んでいた。そのため、よいハーモニーが生まれたことが考えられます。
・メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第1番では、本日のメイン曲であり、かなりの練習と合わせを実施していた。だから、えもいわれぬハーモニーが生まれた。やはり、弦楽四重奏は4つの楽器演奏のタイミング、音量バランスなどが大事なんだろうと
そう言えば、フェスタサマーミューザ川崎で、弦楽器群を16台体制で演奏しても響いてこなかった経験が思い出されます。量だけ増やせばよいというものでもないですね。海外の上手いオーケストラなどは、半分の人数でもビンビンと音が響いてくるような演奏を聴かせてくれます。
加えて、プログラムを組む視点では、下記が考えられます。
・最初に聴く人が馴染みのある曲で「つかみ」を実施する
・第1部の最後は盛り上げる
・メインの曲は最後に持って来て、大きく盛り上げる
選曲の狙いはよかったと思うのですが、「つかみそこね」と「中だるみ」もあったような・・・
このように考えるとオーディオも同じです。左右のスピーカーから出る音の焦点を合わせることで音が濃く、安定しますね。更には、部屋からの反射音も左右バランスを整えると、「えっ、と思うほどに広がり」、さらに前後と上下の反射音を整えることで驚くほど空間は大きくなります。生もオーディオもタイミングやバランスが大事なんですね。
そして、オフ会のプログラムも選曲と流れなど同様な面があります。
<オーディオとの比較>
②モーツァルト:弦楽四重奏曲 第19番
プラジャーク・カルテット / モーツァルト ハイドンセット1 Praga SACD盤との比較です。
音の比較で言えば同等といったところ。繊細さは生が優位、濃密さはオーディオが優位と言ったところでした。生演奏で眠くなった点から考えて、演奏の力はオーディオが優位なのだろうと思います。
③シューベルト:弦楽四重奏曲 第12番
ディオゲネス・カルテット / シューベルト弦楽四重奏曲全集 Brilliant Classics CD盤との比較です。
音の比較は、濃密さと力強さは同等で、繊細さは生が勝ったように思います。演奏の力は生が優位でした。帰宅後に聴き比べてみましたが、あのような心地よさは感じませんでした。
④メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第1番
メロス・カルテット / メンデルスゾーン弦楽四重奏曲全集 DG CD盤との比較です。
音も演奏も生がよかったです。「好きでなかった曲が好きになる」レベルですから勝負にならないですね。生演奏はあっと言う間に終わってしまいました。ですが、これが「生とオーディオを両輪で回すご利益」です。不思議ですが、生で感動すると、オーディオで聴いても楽しく聴けるようになるんですよね。
※①は特殊なアレンジでしたので比較対象外としています。
以上、音と演奏の関係に気付けた気がします。結局のところ、演奏規模とホールの大きさと聴く位置は大事ですが、かなりの部分は演奏でカバー出来る。そして何より、好きな曲が増えたことは今後のオーディオライフの糧になりますね。加えて、初めて生で弦楽四重奏を聴いた時の思いが残っていた、カルテット・エクセルシオの演奏を聴くことが出来たことも嬉しかったです。
<付録:私とカルテット・エクセルシオ>
私が15年ほど前に、初めて弦楽四重奏を生で聴いたのが「カルテット・エクセルシオ」でした。確か仕事で上野の近くに行った帰りに、「せっかくなら聴いていくか」と思い立って東京文化会館に立ち寄ったところ、小ホールで「カルテット・エクセルシオ」のコンサートをやるとのことです。知らない演奏家でしたが、「生が聴ければいいか」という思いだった気がします。当日券でしたので、後方の右よりの席でしたが楽しく聴けました。演奏曲はシューベルトの”死と乙女”他でした。
その時は、「弦楽四重奏もいいもんだ」と思ったのですが、当時はオーケストラ再生を課題にしていたので、その後は弦楽四重奏を聴きにいくことは少なかったです。ですが、カルテット・エクセルシオのことはずっと覚えていました。当時は知名度も高くなかったと思いますが、「日本の新人カルテットでもここまで聴かせるのか!」と感心した記憶が残っていたからです。そんな昔の思い出でしたが、チケット救済のサイトを見ていたら「カルテット・エクセルシオ」の公演が売りに出されていました。日程を確認すると、夏季休暇中で、席が最前列のセンターです。「これは行くしかない」と思いチケットをゲットしました。
公演内容をサイトで確認すると、「カルテット結成30年の記念コンサート」の位置づけとのことです。あれから15年経っていますが、カルテット結成30年のYouTubeがサイトで紹介されていたので貼っておきます。
コンサートで演奏された「フィガロの結婚」序曲の試演ビデオも入っていました。
https://www.youtube.com/watch?v=X5b1O7DD4Wo
あの日新人アーティストだったカルテットも、今や日本を代表するカルテットに成長したようですね。
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