ハイドン・ランダムノーツ7:浅い春にプレトニョフとコロリオフを聞く

日記・雑記
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今年は桜の開花が直前になって待機モードに入ってしまったようで
催花雨としては冷たすぎる雨が降り続いています。。。
なんとなく元気も出そうで出ない感じで
でも暖かくなり、開花すればしたで、急にほんわかしてしまい
少なからず物憂い気持ちもするでしょうから
こういう感じも悪くないかなと思い直したり。。。
今日はそんな浅い春に出会ったハイドンのピアノのご紹介です。

まずはプレトニョフのピアノ協奏曲です。

「Haydn: Piano Sonatas – Piano Concertos」
https://www.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_lfyhj_oaqJWSlYdHTsjpO5yx3TreXweSw

プレトニョフは弾き振りもするピアニストですから
演奏全体に彼の意図が良く反映されていて
その意図というのは、ひとことで言い表すならば
理知的なアプローチとでも言えそうなものです。
速いパッセージは、短く残響をコントロールし
遅いものとの対照をはっきりさせていて
音の配置の「幾何学」的な側面を味わいやすい印象があります。
この記事を書く上でとても参考になったのは
Amazonでこのアルバムのレビューをされている
「謹呈むなし」さんの言葉でした。
https://www.amazon.co.jp/dp/B008AK2BKO

「常々ハイドンはもっと知的に演奏されて然るべき作曲家
ではないかと思っている。
バッハと比肩しうるような、数学的、幾何学的な美しさを持ちながら、
バッハより軽やか、大胆、ときにアイロニカル。
鬱のプレトニョフが躁を排してハイドンを弾くと、
その幾何学的な美しさがくっきりと現れる。
他の演奏ではつまらない曲と思っていた
ピアノ協奏曲 ト長調が特に面白い」。

ピアノ協奏曲 ト長調は、おっしゃるように
プレトニョフの理知的・幾何学的アプローチがいちばん成功していて
快演だと感じました。
加えてコメントするような必要もないレビューだと思いますが
「躁を排してハイドンを弾く」というのも言い得て妙でして
ハイドンのピアノ曲は、ついついポップな旋律に演奏者がのせられて
愉し気な様子が伝わってくる演奏が普通であり
それがやはりハイドンの魅力なんだろうと思うのですが
それを極力控えるという姿勢が伝わってくるのが面白いのです。。。
それがつまらないものであれば失敗作なんでしょうが
いやいや、抑えた感情が演奏全体に
凛とした佇まいを与えている感じがします。

続いてはそんなプレトニョフのアプローチと似た印象を持った
コロリオフのピアノソナタです。


「Bach, Haydn, Mozart & Handel: Piano Works」
https://www.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_mrJjSmW0_GAPSHVlqouNWRAGGFApfJcy0

コロリオフはバッハの演奏で評価の高いピアニストですが
「バッハのようにハイドンを弾く」というのが
意図せざる結果を生んでいる気がしました。
意図せざると書いたのは、コロリオフのアプローチは
プレトニョフのそれほど確信犯的ではない印象を持ったからでした。
つまり「躁を排する」ところまでは行っていなくて
ついついバッハ弾きの手となってしまい
それが良い味わいを加えているくらいの感じがするということです。

そのあたりをよく観察されているのが
「ハイドン音盤倉庫」のDaisyさんです。
https://haydnrecarchive.blog.fc2.com/blog-entry-353.html
コロリオフは、基本「ある意味下心のない虚心坦懐なアプローチ」
であると評され、それによって、「曲そのものの魅力が浮かび上がって」
くるとのこと。(XVI:11に関するコメント)
でもXVI:50だと、「コロリオフのピアノの特徴が少し後退し、
力がだいぶ入ってきた感じ」であるといったようなメリハリがあって
そのあたりをDaisyさん「曲によって、聴かせどころを意識して、
メリハリを少し付けているんでしょうか。
演奏のムラとも思いにくいのは、曲想にあわせた意図が感じられるため」
でも時に「すこし枯れすぎてしまって、
メロディーラインの美しさを表現しきれていない
もどかしさも感じさせてしまっている」(XVI:20に関するコメント)
ともおっしゃっています。

確かに伴奏のないピアノ独奏だと、あんまり理知的に弾きすぎると
「枯れすぎてしまう」っていうことは印象としてはあり得ます。
とはいえコロリオフにプレトニョフみたいな大胆な解釈を求めるのも
酷とは思うので、Daisyさんが推しておられる
XVI:23のさりげない演奏を愉しむといったところでしょうか。

で、またプレトニョフに戻ります。
前述のアルバムにはピアノソナタも収録されていて
こちらも出色のできばえです。
Daisyさんも絶賛されているXVI:20は
https://haydnrecarchive.blog.fc2.com/blog-entry-300.html
コロリオフと聞き比べると
プレトニョフの解釈とそれを実現する技術の鮮やかさが
より印象に残ります。。。
モヤモヤするところがないんですね。
「フレーズごとの演出のめくるめく変化が素晴しい演奏」と
Daisyさん。
リヒテル、ブレンデル、アックスの名演を引き合いに出しながら
「プレトニョフはこれまでの誰とも似ていない、
曲をコンセプチュアルに分解して、極上の音に再構築した、
ハイドンの曲の神髄をえぐるような表現。
アプローチとしてはグールドにも近いんですが、
グールドは完全にグールドのハイドンになってしまって、
もはやハイドンの曲と言うには個性的すぎる」
おっしゃるとおりだな~と思います。
一般的なハイドンっぽさを解体せずにどこまでいけるか挑んだのが
プレトニョフって感じがします。
とにかくハイドン好きにはたまらない演奏です。
久々の感動でした!

先延ばしにされた桜の開花を前に
あざやかな咲き初めの花から満開を夢想するような魅力を味わいたい
2人の演奏をご紹介しました。

コメント ※編集/削除は管理者のみ

  1. ゲオルゲさん、
    ハイドンがお好きなんですね。楽しく拝読しました。
    偶然、最近私もハイドンのシンフォニー(ブリュッヘン)やピアノソナタ(ブレンデル)のCDを引っ張り出して聴いています。
    知的で、素人にも音楽の構造がよく分かって、ハイドンの良さに今までなんで気が付かなかったんだろう?と新しい発見をしつつ楽しんでいます。
    ハイドンのブログの紹介も感謝です。

    • ちょさん
      レスありがとうございます!

      ハイドンのシンフォニー(ブリュッヘン)やピアノソナタ(ブレンデル)のCDを最近聞かれてるんですか。コメントを拝見して、私も久しぶりに聞いてみようかな~と思いました。

      ブリュッヘンのハイドンがお好きであれば、古楽系で勢いのあるジョヴァンニ・アントニーニのHAYDN 2032のシリーズもお気に召すかもしれません。またブレンデルの弟子のポール・ルイスのハイドンのピアノソナタもなかなか面白いです。師匠とはまた違った味わいがあるピアニストですし。。。以前にちょっとレビューを書いているので、ハイドン・ランダムノーツの2と3をご覧くださると、さらに私の力説ぶりに微笑んで頂けるかも(笑)

      「ハイドン音盤倉庫」は、もはや世界的に見ても素晴らしい内容のハイドン・アーカイブスですよね。レビューも的確で、私とは比べ物にならないほど参考になります。。。

      また別件ですが、SPUデビューしました。。。その節はいろいろアドバイスを頂いて、ありがとうございました。やっとなんとかこぎつけたというところです。改めて感謝申し上げます!

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