”楽器の科学”を読んで、オーディオ演奏への落とし込みについての感想や考えをまとめた日記の5回目となります。この章は「コンサートホールの音響科学」です。オーディオに置き換えると「リスニングルームの音響科学」となります。そこで、生演奏でのコンサート会場とオーディオ演奏でのリスニングルームを重ね合わせながらまとめていこうと思います。(・の文は著書からの抜粋、◇は私のコメント)
<目次>
プレリュード──音楽は「五線譜上のサイエンス」
第1楽章 作曲の「かけ算」を支える楽器たち
第2楽章 楽器の個性は「倍音」で決まる
第3楽章 楽器の音色は「共鳴」が美しくする
第4楽章 「楽器の最高性能」を引き出す空間とは?・・・その1 その2(今回)
第5楽章 演奏の極意
「優れた音響空間」①では、音響空間づくりにおける「音響技術者」の仕事と審美眼と難しさについての話でした。②では、「コンサートホールをめぐる音響現象」についての話ですので、ここにリスニングルームの音響を重ねていきます。
コンサートホールをめぐる音響現象
・音響技術者が新しいコンサートホールを構想する際に、まずはベースとするのが「自然の音響」である
・自然の音響とは、工学的・電気的な音響などを用いず”むき出しの状態の音”がその空間でどう響くかと言うこと
・ステージ上で弾かれたヴァイオリンなどの音は、空間中にある、様々な壁面や座席等に反射して聴衆に届くそのままの音を聴く
・音響技術者はその「自然の音響」をベースに、工学的・電気的な音響を考慮に入れて、コンサートホールの空間を作り上げていく
◇リスニングルームも同様に、先にルームチューニングや電気補正などを行うのではなく、素の状態の音を聴いてみて、作り上げたいサウンドをイメージしながら「サウンド構築」を実施していくことが大事と考える
◇そのために、作り上げたいサウンドのイメージを思い描かせるための行動が必要・・・生演奏を聴く、よきオーディオサウンドを聴く etc
音楽ジャンルや精神状態で感じ方が変わる
・コンサートホールの音響の良し悪しは、好みにも影響されるが、聴こうとしている音楽のジャンルや精神状態にも大きな影響を受ける
・音楽を聴く体験にたどり着くまでのあらゆる過程も影響してくる
・コンサートに出かけ、会場に着いて、ロビーを歩き、座席に座る、ステージから最初の聴感的な体験の前に数々の感覚的体験を経ている
・この時点ですでに、コンサートの感想のベースが無意識に出来上がっている
・照明などの音の感じ方に対する影響は大きい
・音響とは、全方位的な感覚でとらえられるものであり、「完全に客観的で、普遍的なよい音響を定義するのは困難である」
◇音楽のジャンルごとに音響性能の求められる形が変わるのは、生もオーディオも同じですね。ジャズやロックは比較的デッドで、シャープな音像が合いますし、クラシックは比較的ライブで豊かな響きが感じられる方が合いますね。ですが、クラシックでも明瞭な音と豊かな響きが両立する音響空間がいいですね。オーディオ用語では、「音像と音場の両立」という表現になりましょうか。
◇加えて、ホールにたどり着くまでのエントランスやホールの雰囲気、そして照明などが音の感じ方に与える影響があるのも事実かと思います。オーディオでの鑑賞においても視覚の影響は大きいですね。その気にさせるインテリアも大事であると感じています。
「波特有の現象」を考える
・本書では、周囲の環境やその空間で過ごす時間と一体になって感じ取ることを「自然の音響」としています
・その前提で、「明瞭かつ正確な音の響き」と「豊かな反響音」との絶妙なるバランが大事と
・そのために、高音から低音まで、様々な音がバランスよく伸びる空間が必要であると
・特定の周波数の音だけが壁に吸収されてしまったり、高い周波数の音ばかりが目立ったりする音響になってはいけないと
・それを防ぐために活用されるのが、物理現象としての音の特性だと
◇「明瞭かつ正確な音の響き」と「豊かな反響音」との絶妙なるバランが大事との話は、オーディオでルームチューニングをしている際にも、同じことを感じます。「豊かな反響音」と言っても、決して部屋で響かせるわけではなく、ソフトに入っている響きを感じためにどうしたらよいか?ソフトに入っている音響空間の大きさを感じるためにどうしたらよいのか?ということになります。
◇簡単に言えば、空間内に響きの音があるから空間の響きを認識し、遠くに音があるから(遠くにいる錯覚をするから)空間の大きさを感じることが出来るのです。
直接音と反射音
・波としての音には、「屈折」と「回析」という波特有の現象が生じる
・コンサートホールで考えるべきは、「高音は反射しやすく」「低音は回り込みやすい」点である
・コンサートホールにおける音は、「直接音」「初期反射音」「遅い反射音」に分類される
・「初期反射音」は直接音に対して80ms以内に耳に到達する音で、認識上は直接音に統合される
・このため周波数特性が変化し、直接音とは異なる方向から到達し、より豊かな情報量を加味する
・その結果、明瞭に聞こえたり、ホール中が音で埋め尽くされているような印象に変化したりする
・「遅い反射音」は、直接音に対して80ms以上遅れて届く音で、「響き」として認識されやすい
リスニングルームでの音響を考えた場合に、「ホール空間再生」はどのようにおこなうのか?
◇生演奏とオーディオ演奏の違いは、「音響空間の広さ」と「響きの情報の有無」だと考えます。リスニングルームはコンサートホールと比較すると小さな空間となります。ただし、ソフトの中にあらかじめホールの響きの情報が入っています。この情報を使って、コンサートホールで聴くようなサウンドを再生することとなります。
◇リスニングルーム同士の比較では、広い部屋では大きな空間を感じやすく、狭い部屋では小さな空間と感じやすいです。ソフトの中には、同じ情報が入っているのですが、部屋の大きさにしたがい再生空間の大きさを感じるのは体験的に感じていることだと思います。上手く再生すれば、まるでコンサートホールで聴いているような音響体験が可能なことも実証されていますね。
◇コンサートホールにおいて感じる空間は、目をつぶった状態でどの程度の大きさまで感じることが出来るでしょうか?どれほど大きな空間なのかは、聴覚だけでは認識できないですね。これは、遠くの音は認識できないほどに小さく聴こえるからだと考えます。ホール内で、人が感じられる音までの距離はそれほど大きくないと言うことです。
◇これまでの体験からは、前後左右で6mほどのスペースがあれば十分コンサートホールを感じることが出来ると思います。必要なことは、リスニングルーム中を音で埋め尽くすことだと思います。オーディオ再生においては、部屋中を音で埋め尽くしソフトの中の「初期反射音」も「遅い反射音(響き)」も定位させれば、疑似コンサートホールを再生することが出来ると考えています。
多少強引な論理ではありますが、上記が自分のホール空間再生の考え方です。
コメント ※編集/削除は管理者のみ