水晶発振器は周波数が高ければ高いほど音質が良いのか?

日記・雑記
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Phil-M Communityを熱心に読まれている方々ならご存知の通り、
日記のタイトル「水晶発振器は周波数が高ければ高いほど音質が良いのか?」という疑問が世間にはあります。
知ってはいましたが・・・、分かりません。

近年の話、「中華SDトラポ」だとか「SDカード再生I2Sトランスポート」と呼ばれる個体が異様に音質が良い要因の一つとして、一般的な製品に比して高い周波数の水晶発振器が採用されているという事が要因ではないか?という憶測もあります。

高い周波数といっても、DuCULoN®(デュカロン®と同じ
45.1584MHz、49.152MHz の2種類なのですが。。。
※前述の異様に音が良いトラポにはDuCULoNのラインナップとおなじ周波数45.1584MHz、49.152MHz の2個の水晶発振器が搭載されています。44.1kHz用と、48kHz~192kHzサンプリング周波数用で2個。
※DuCULoNのラインナップは45.1584MHz、49.152MHz の2種類だけです。一般的な?オーデイオではこれの半分の周波数の水晶発振器が採用される事が多いです。

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という訳で、自分なりに?調べてみました。

改めて当日記の疑問?というか主題は、発振器の周波数を100MHzとかケチな事いわず、1GHzだとかもっと高い周波数にしたらどうなるのか?という疑問です。なんとなく、周波数は高い方が良さそうに思えるのですが “どうしてそう思うのか”  最初に考えてみます。 次に、”自分が思った事” と “メーカーの考え”  の相違 を 比較してみます。それが当日記の大きな流れです。

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1.最初に思い浮かべるジッター

↑これは、私が最初に思い浮かべたジッターの図です。
発振周波数が何Hzであってもジッターの振れ幅(時間)は同じに思っていました。そこに罠がありました。

少し思いを巡らせると、その罠に気付きます。

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2.現実のジッター?

↑まぁ・・・ そういう事ですよね。

私は発振周波数100Hz、10Hzと低くするとジッターの時間幅もそれに反比例して長くなる誤ったイメージをしてしまっていました。どんな発振周波数でも同じようなジッター波形が観測されるようなイメージです。でも、そんな訳ないですよね。本来、ジッターの揺らぎって小さい物ですから。低周派領域で且つオシロで見れたらやばい。(音質の悪いなぁと思ったDACのクロックをオシロで観測してみると、トリガーのかかりが悪いので何となく “やっぱりか” と感じる事はあります。)

追記ここから(↑上記、動画を撮って紹介しようかと思いましたが、たかじん様が既にi2sのジッターを動画で見せてくれていましたので紹介します。水晶発振器を使わないPLLなSPDIFは遣う気にならないですね。。。)

おまけ (nightwish_daisukiの動画。SDトラポなので?揺るぎが無かったように記憶してます。)

追記ここまで

ジッターは、伝送したいクロックに対して “相対的に小さくないと” まともに信号伝達が出来なくなります。 それに加えて高周波ではその信号自体の伝送が難しくなってきて、波形が崩れてきます。よって、アイパターンの開口部で信号の良し悪しを判定することに。。。

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アイパターンについて、↑上記 Panasonicのサイトから引用ここから

引用ここまで

周波数が高くなると、伝送する事自体が難しくなる。
ルビジウムなどの外部クロックの発振周波数が 10MHz で独占(のように見える)のは伝送まで考えた丁度良い周波数なのかもしれません。※伝送距離が短ければその限りでないのかも? 

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3.評価は『位相雑音』で行うのが通例(低位相雑音が重要だ)

オーディオに採用される水晶発振器では特に低位相雑音性能が重要といわれているようです。そして各社?低位相雑音をウリにして広告しています。

https://www.ndk.com/jp/products/info/ocxoduculon.html
※この “可聴帯域” という表現は個人的に好きではないです。ここでの20Hz~20kHzというのは発振周波数から20Hz~20kHz離れた(オフセットした)場所での位相雑音(dBc/Hz)だからです。

https://ele.kyocera.com/ja/technical/xtal_low/

https://www.crystek.com/specification/vcxo/CVCSO-914-1000.pdf

「NDK」「Kyocera」「CRYSTEK」の低位相雑音の広告を拾ってきました。特にCRYSTEK の 1GHz モデル は “Ultra-Low Phase Noise “と謳っていますね。超テキトーですがこの3社から一つずつピックアップして オフセット周波数 1kHz での位相雑音をグラフから読み取ってみますね。

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-139dBc/Hz,26MHz発振器@オフセット1kHzの場所 ※先のKyoceraのサイトから

-172dBc/Hz ,DuCULoN®@オフセット1kHzの場所 ※DuCULoN®の2種類の発振周波数のどちらか?  

 

-113dBc/Hz,1GHz発振器@オフセット1kHz ※先のCRYSTEKのPDFから

という訳で、位相ノイズの観点(オフセット周波数が1kHzのポイント)ではDuCULoN®が圧勝。次点がKyoceraの26MHz。ワーストがCRYSTEKの1GHzとなりました。あまり良い比較では無いですが、周波数が高ければ良いというものでも無さそうという雰囲気が伝わればいいなと。DuCULoN®の製造元NDKがいうように 20~20kHzのオフセット周波数の範囲が重要なので ここで 1kHzという1ポイントにだけ注目したのは悪い事です。良くありません。余裕のある人はその範囲で改めて3者比較してみて下さいね。

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ついでに、
天下のルビジウムクロック 10MHz はどうなんだ?
1つ見てみます。


!?

10Hzのオフセット位置でなら -130dBc/Hz ですと!?
DuCULoN®でも その位置では -120dBc/Hzです。
それを上回るというのか ルビジウム (Model 3272F) は!!

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1kHzのオフセット位置ではどうか?
ルビジウム (Model 3272F)は・・・同サイトから引用
ここから

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引用ここまで

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ルビジウム (Model 3272F) は 1kHz で -150dBc/Hz以下

DuCULoN®は 1kHz で -172dBc/Hz

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DuCULoN®の面目を保ちました。1kHz離れれば圧倒的。

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ここから分かるのは ルビジウム(Model 3272F)は 発振周波数から たった

10Hz離れた(オフセットした)場所で既に -130dBという恐ろしく
鋭い特性を示すということ。これは凄い。

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セイコーエプソンの資料から引用します

https://www5.epsondevice.com/ja/information/technical_info/pdf/tech_notes_2013_04jitter.pdf

 ここから

  ~中略~

引用ここまで

引用に少し落書きさせてもらいますと ルビジウム (Model 3272F) とDuCULoN®の大雑把な違いは下図のように言えます。

先程、1kHzという1ポイントにだけ注目したのは悪い事です。良くありません。余裕のある人はその範囲で改めて比較してみて下さいね。と書いたのはこういう逆転劇もあるからです。

でもDuCULoN®の製造元NDKのいわれる事を信じれば・・・発振周波数から20Hz~20kHzのオフセット周波数の範囲が重要。 ”可聴帯域”と書いて  10Hzを範囲に入れなかったのは・・・ (素人考えでは)ルビジウムに負けて悔しいからなのかと邪推してしまいそうになりますが、験聴を重ねたうえの経験値だと信じましょう(^^。 

深層?を、ご存知の方いらっしゃいましたらコメント下さいませ。
放送・通信システムの周波数基準のハードルとは何処にあるのか?Model 3272Fのページでは10Hzオフセット周波数10Hzで-130dBc/Hzを挙げていた訳ですが放送・通信システムの業界ではどういうハードル設定になっているのだろうか。。。

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水晶発振器は周波数が高ければ高いほど音質が良いのか?

その答えは、たぶんそんな事はない。理由は2点。
①高周波になればなるほど波形は乱れやすくなり伝送が難しくなるので、良い塩梅の周波数がオーディオアプリケーションにありそうだ(発振器と発振を受けるデバイスが近距離にある場合は、“良い塩梅”  = 50MHz弱という事かも?)
②発振周波数そのものより “低位相雑音である事” が 音質にとって重要というのがメーカー側の考えっぽいかも?

ともかく? 聴いて良ければOK(^^
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以下、2024/01/23 18時~ 追記したもの。参考情報。

参考情報:
 マクニカ様「新人エンジニアの赤面ブログ」2012.09.06より
 『PLL の分周 / 逓倍(ていばい)』

  ~中略~

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ジッタークリーナ Si5317
https://www.skyworksinc.com/-/media/Skyworks/SL/documents/public/data-sheets/Si5317.pdf

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FemtoClock™ 

https://www.renesas.com/jp/ja/products/clocks-timing/femtoclock-low-phase-noise-frequency-synthesizers

↑ Renesasサイトから引用 ここから

ルネサスのFemtoClock™、FemtoClock™ NG(New Generation)、FemtoClock 2は、高性能で先進的な周波数シンセサイザ機能を実現するクロック製品です。周波数基準として簡素で低価格な基本波モードの水晶振動子を使用することができ、それを基に高品質/高周波数のクロック信号を合成することが可能です。最大1.3GHzの出力周波数と0.5ps未満(実効値)の位相雑音を実現します。また、RC3シリーズはジッター減衰モードも提供し、ノイズの多いレファレンスから100fsの低ジッター出力を提供します。

FemtoClockは、完全なカスタム対応が可能なスタンドアロンのソリューションです。高性能のアプリケーションにおいて、水晶振動子やSAW(表面弾性波)振動子をベースとした発振器を置き換えるものとして基準周波数の生成に使用できます。従来は、周波数の高いクロック信号を生成するために、3次オーバートーンや高周波基本波(HFF、逆メサ型)を使う水晶発振器や、高価なSAW発振器が使われてきました。FemtoClockはこれらを置き換え可能なものであり、より信頼性が高く、より低コストで、より簡単に入手することができます。

固定周波数の発振器とは異なり、FemtoClock製品では、周波数合成技術によって複数のクロック周波数を生成することが可能なだけでなく、多様なアプリケーションで利用できる柔軟性も備えています。シリコン・ベースのデバイスであるため、固定周波数/単一機能の発振器とは異なり、さまざまなクロック・ツリー機能を1つのデバイスに集積することができます。FemtoClockには、さまざまな性能、パッケージのファミリ製品が用意されています。最も基本的なものとしては、小型の8ピンTSSOPを採用し、低ジッターの1つのクロック信号を供給する製品と、4x4mm QFNを採用し、4つの出力を提供する製品があります。それ以外に、より複雑なプログラマブル周波数合成機能やより多くの付加機能を内蔵し、複数出力、複数周波数に対応する製品も用意されています。

 

Renesasサイトからの引用ここまで

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https://www.rohde-schwarz.com/jp/faq/-rms-faq_78704-1206656.html

↑ローデ・シュワルツHomePageからの引用ここから

位相雑音測定のRMSジッタ

説明

FSWPでの「隠れた」スプリアスを含む統合測定と含まない統合測定の違いは何ですか?それぞれランダムジッタとトータルジッタを直接得るためのものですか?また、測定器からトータルRMSジッタを取得するには、どうすればよいですか?

解決策

RMSジッタは、お使いのスペクトラム・アナライザの位相雑音測定に基づいて計算できます。位相雑音測定結果が存在する場合、RMSジッタはグラフの下の領域に相当し、所定の周波数レンジで積分を行うことで取得できます。これは残留位相変調につながります。

入力周波数を考慮すると、RMSジッタの値を秒単位で得ることができます。

RMSジッタはランダムジッタとディスクリートジッタに分けることができます。周波数ドメインでは、この2つの部分を分離することができます。ランダムジッタは位相雑音測定のノイズフロアを表し、ディスクリートジッタはスペクトラムのスプリアスを表します。RMSジッタ、ランダムジッタ、ディスクリートジッタの間には、次のような関係があります。

FSWPでは、スプリアス抑制を使用してディスクリートスプリアスなしで位相雑音測定を表示できるため、ランダムジッタとディスクリートジッタの値を計算できます。

これらの値はスプリアステーブルから取得できます。

スクリーンショットに示すように、スプリアステーブルのランダムジッタは、スプリアス抑制がアクティブなトレース1の統合測定のジッタに等しくなります。また、スプリアスを含むトレースが選択されている場合(トレース2)、統合測定にはRMSジッタが表示されます。

参考資料
https://scdn.rohde-schwarz.com/ur/pws/dl_downloads/dl_application/application_notes/1ef71/1EF71_1E.pdf
https://scdn.rohde-schwarz.com/ur/pws/dl_downloads/pdm/cl_manuals/user_manual/1177_5633_01/FSWP_UserManual_en_13.pdf

ローデ・シュワルツHomePageからの引用ここまで

乱暴な表現をすれば、位相雑音の線の下部の・・・ある帯域のとある面積というか積分が 「RMSジッタ」かも。VCOテスタとして多くのメーカーでローデシュワルツの測定器が採用されているような気がします。この画面、ネットでよく見かけます。

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なぜスタジオ?は10Mなのか。

周波数の絶対確度が重要だという見方もあってそれも音質には重要だという考えもあるようです。↓↓↓

参考情報ここまで

コメント ※編集/削除は管理者のみ

  1. Nightさん、

    詳細な解説ありがとうございます。全て理解出来たとは思いませんが、結論は概ね考えていた通りで違和感がないです。
    HQPlayerとかでDSD512以上にアップサンプルするとかやらなければ45MHz、49MHzで十二分そうですね。

    • のびーさん コメントありがとうございます

      一般に入手可能な音源ならば 45MHz、49MHz または その半分が最適解っぽいですね。
      一旦はここでFinish!!
      .
      .
      .

      MacWinFanさんがコメントされていますが『分周』(45MHz、49MHz から低い周波数を作る)に関しては問題を孕む場合があります。基本的な?PLLの場合ですが『分周』する程にJitterが悪化する場合あり。
      https://www.macnica.co.jp/business/semiconductor/support/faqs/intel/124857/
      そうであるならば、最初には低めの発振周波数を選択してあまり『分周』しなくても良いようにする方が良い。 ところがどっこい、ここ20年で基本的でない高性能なPLL製品(外付けのVCXOで実現するジッタークリーナIC(Si5317やLMK04800) や 旧IDTのFemtoClock(TM) )が市場に投入されまして、基本知識だけの持ち合わせや、過去も知識だけでは、世間で通用しない状況が生まれています。全貌を掴むのが大変です(^^;

  2. たいへん分かり易い解説をありがとうございます。そこで質問です。

    ジッタ―(位相雑音)は逓倍すれば倍増、分周すれば半減する? もしそうであれば2倍4倍の周波数も意味があるのでしょうか?
    10MHzマスタークロックの場合は分周と逓倍の組み合わせでワードクロックを合成するので、その合成回路の精度に依存するのではないかと思います。

    • MacWinFanさん コメントありがとうございます

      質問に応えらえるような人間ではありませんが・・・ ググッった感じでは
      逓倍すれば倍増、分周すれば半減する?という事はなく、基本的には
      逓倍すればn次周波数というかスプリアスが立ってJitter悪化、分周すればする程にJitter悪化と考えて良いみたいです。基本的には・・・です。放送局やスタジオのワードクロックやクロックのディストリビューターがどういう分周をしているのかは分かりませんが、価格が100万円単位だったりするのでカネにものをいわせて良い方法を採っているのでしょう(たぶん)。
      .
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      我々コンシューマー向け?では、2011年くらいにお気楽オーディオさん周辺でVCXO外付けのジッタークリーナ(Si5317)が話題になって多くの人が試したかと思います。それから少しして、安価な水晶発振器の外付けで低位相ノイズな発振が出来る 旧IDTのFemtoClock(TM) NextGenerationが登場??? 2019年くらいにIDTはルネサスに買収されて今ではFemtoClock(TM) はルネサスのHomePageにあります。そういう意味では MacWinFanさんの書かれる通り「その合成回路の精度に依存」でOKだと思います。ES9038などESSのDACもそんな感じだろうと推測しています(10MHzは少し気持ち悪いので私は好きじゃないです)。下手なESSなDACなら、旧世代のマルチレベルΔΣを採用したDACの方が音が良いかも?とすら思います。OKでだと思います~ここまで完全に蛇足。
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      いくら数値上のスペックを上げても、ps(ピコ秒)レベルのジッターはパターン配線の反射によって数百ps発生するとかいう情報もありますし下手なバッファーやタコなロジックICによってもJitterが追加されるとかで、発振器やICの謳い文句だけでは何とも言えないところがあります。製品に仕上がったとき性能を発揮できるかどうかが大切。性能を発揮するには定インピーダンス(低インピーダンスではない)な基板パターンの取り回しが必要だったりして?それをカタチにするには Altium Designerなどコンピューターソフトの支援なしには実現というか達成出来ない感じかもです。何を使うかも大事だけど “どう実装するか” が大切みたいな?天邪鬼。
      ※Altium DesignerはAccuphase社の基板設計にも使われているらしい
       https://www.jubilo.co.jp/eda/eda_whatspot_jirei.html
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      https://www.renesas.com/jp/ja/products/clocks-timing/femtoclock-low-phase-noise-frequency-synthesizers

      • 素早く的確なお返事に感服いたしました。ご教示ありがとうございます。
        逓倍・分周どちらでも次数に応じてジッタ―が増える原理が分かりました。FemtoClockのようなジッタ―クリーナーも副作用というか弊害もありますので、デュカロンを乗せるのが簡単で確実だと思います。

        • MacWinFanさん そうですね・・・ジッタークリーナを入れて解決とはならんのですよね。
          ロックに時間かかる(もしかして曲間の間が長くなる?)のと、それによって上流?とのタイミングは狂いますもんね。やっぱり全体を同期しないと。
          私自身、調べながらですので回答が的確かどうかは怪しいところですが、今後とも目配せお願い致します。

          話は変わってtomiiさんのブログにて『DAコンバータ ES9023 MCLKオーバークロック Test (プロセッサー自作)』という日記がありました。2015年2月26日。
          「今回は、DAコンバータ の 24Bit/192KHz ES9023 DACのマスタークロック(MCLK)のオーバークロックに挑戦してみました。」「DAコンバータのMCLKを早くすると、DAコンバーターの出力波形が滑らかになり、音質が向上します。」とのことで タイムリーな話題にオッ!と思いました。こちらの話題でも?速ければ速いほど良いのではなくてイチバン良かったのは逓倍の73.7MHzで、4逓倍の98.3MHzでは音途切れて安定しなかったそうです。URL:https://minkara.carview.co.jp/smart/userid/523203/blog/35155234/

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