もう先月のことになりますが、11月24日に兵庫県立芸術文化センターで開催された、アンドリス・ネルソンス指揮:ヒラリーハーン&バーミンガム市交響楽団の演奏会に行ってきました。
この11月は、ウィーンフィル、ベルリンフィル、ロイヤルコンセルトヘボウとヨーロッパの名だたる名門オーストラの来日公演が集中したため注目度は控えめでした。
しかし、バーミンガム市交響楽団といえば、現在ベルリンフィルの指揮者となっているサー・サイモン・ラトル氏が長年にわたり指揮をとっていたオケであり、現在音楽監督を務めているアンドリス・ネルソンスも若手指揮者では注目株。
ベルリンフィルの定期演奏会でも指揮をする機会が多いため、ベルリンフィル・デジタルコンサートホールで視聴することも数多くあった、馴染みの指揮者でした。
小生にとって今回のコンサートの目的は、なんといってもヒラリー・ハーンがシベリウスのヴァイオリンコンチェルトを弾くのを聴くことでしたが、ネルソンスがバーミンガム市交響楽団からどんな音楽を聞かせてくれるかも、聴きどころでした。
チケットはA席で1階のほぼ中央やや右よりですが、チケット価格は12000円と、ラトル&ベルリンフィルの40000円に比べると、遥かにリーズナブル(笑)
3連休の中日となる日曜午後15時からの開演なので、ゆっくり鑑賞できます。
本日のプログラムは、ワーグナー:歌劇「ローエングリン」より 第1幕への前奏曲に続き、 ヒラリー・ハーンのヴァイオリン独奏で、シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調。
休憩を挟んで、チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調で締めくくる、来日コンサートの最終公演とのことです。
開演になり、オケのメンバーが続々とステージに登場し、周囲の楽員と思い思いに会話を楽しんでいます。
とてもリラックスした雰囲気でチューニングが終わり、演奏前のピリピリした緊張とは無縁な様子が観客にも移ってきたところで、大柄のネルソンスがにこやかに登場。
おもむろに指揮台に飛び乗り、タクトを振り下ろしました。
静かに、あくまで静かに・・・・そして徐々に盛り上がっていきます。
あれだけ思い思いに会話を楽しんでいた楽員の意思が一挙に統一され、壮大なワーグナー楽劇の世界に、聴衆も引き込まれていきます。
ヴァイオリンが、チェロが、ヴィオラが、コントラバスが、それぞれの楽器が呼応して響くように演奏されて、まるで一体の楽器となって鳴り響くかのように聴こえます。
この豊かな弦楽パートの響きには驚きました。
木管パートも負けてはいません。
深く温かみのあるオーボェ、ファゴットにキラリと輝くクラリネット、フルートのハーモニーに、金管楽器群が厚みのある響きを重ねていきます。
ワーグナー楽劇の重厚で荘厳なサウンドが、ネルソンスの自在なタクトさばきから紡ぎ出されてきます。
クライマックスから、再び静かに、あくまで静かに曲が終わっても、ネルソンスのタクトが下ろされるまでの、長い長い余韻を楽んだ後に、拍手が静かにそしてどんどん大きくなっていきました。
出だしから余りに素晴らしい演奏だったため、ネルソンスは4度もステージに呼び出されるほどでした。
ヴァイオリンパートが、椅子二つほど後ろに後退して、ゴールドラメのノースリーブ上半身に、濃紺のボリューム感のあるスカートを身に纏ったヒラリー・ハーンが登場。
シベリウスのコンチェルトが始まりました。
北欧フィンランドはその名のとおり、ゲルマン民族以外にも、トナカイと共に暮らすラップランドのサーミ民族やアジアからのフィン民族など多様な民族が暮らす国。
そのような。随所に民族音楽のエッセンスが散りばめられた音楽を、まるで疾走するトナカイの橇に揺られるように体を揺すりながらも軽々と弾きこなしていくヒラリー・ハーン。
ネルソンスの指揮も、バーミンガム市オケも、ハーンのヴァイオリンも、それぞれが互いに呼応し反応するかのようにリズムに乗って躍動し前進する。
単に美しいだけではない、単に超絶技巧なだけではない、一つの生き物のように躍動し前進する音楽に聴衆も参加しているという不思議な一体感と高揚感。
曲が終わると、一呼吸の沈黙があって万雷の拍手。
オケのメンバーも、大きな拍手をハーンに贈り、ハーンもまたオケのメンバー全員に拍手を贈る姿が印象的です。
鳴り止まない拍手に何度も何度も呼び出されたハーンが、アンコールにバッハの無伴奏から2曲弾いてくれました。
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番より “ルール”“ジーグ”
興奮を鎮めるための20分のインターミッションの後に、チャイ5の演奏が始まりました。
ネルソンスがベルリンフィルを振ったチャイ5の演奏をデジタルコンサートホールで何度も視聴していたので、どのような指揮をするのか判っていました。
両手を突き上げたり、タクトを左手に持ち替えたり。
でも、互いを良く知る音楽監督を務めるバーミンガムと、客演指揮者としてのベルリンフィルとでは、オケの反応がまるで違います。
互いに遠慮は無用とばかりのバトルが繰り広げられます。
オケのパートが一体となって響きをつくり上げ圧倒的な密度で迫ってきます。
決して暴力的なサウンドではなく、不思議なほど柔らかく、しかも暖かいのです。
2楽章のホルンソロも、やや緊張感は感じたものの、余裕の厚みあるサウンド。
そして、怒涛の終楽章からフィナーレまで、このまま終わりが来なければどれだけ幸せかと思いました。
全てを捧げ尽くした後の楽員とネルソンスが互いの健闘を讃えあい、観客も熱狂的な拍手を贈りました。
幸せな奇跡のひと時を共有できた満足感と幸福感。
最後にネルソンスが、今回の日本公演を成功裏に終えることができ幸せだった。
アンコールにエルガー:朝の歌を演奏するとスピーチをし、それをヴィオラ奏者が流暢な日本語で通訳するパフォーマンスに、聴衆一同大喝采でした。
コンサートがはねた後、ハーンと、ネルソンスが揃ってサイン会を行ってくれ、CDとプログラムにサインをいただきました。
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