“To bridge the clouds”:シャニ・ディリュカのライヴ演奏

日記・雑記
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NHKでたまに目にする
「駅ピアノ・空港ピアノ・街角ピアノ」なる番組で
世界中のさまざまな人たちが
自由にピアノを弾く様子が収録されているのだけれど
印象として、フィリップ・グラスのピアノ曲は人気が高いな~
と思っていました。
日本ではどちらかと言えば大人気とはいえないこの作曲家のピアノ作品を
なぜみんな弾きたがるのか?
ちょっとリサーチしてみると
ミニマリスティックな音型の繰り返しが
いつの間にか変容していくところが
演奏者の高揚感につながるところがあって
平たく言うと、弾いていて気持ちよくなる
といった類のコメントがけっこう見つかりました。。。

そんなグラスの曲が少し変わったプログラムの中で演奏されている
シャニ・ディリュカの最新のライヴ演奏がYouTubeに公開されていて
その演奏にいろいろインスパイアされるところがあったので
今日はそのお話をしたいと思います。

「Shani Diluka – @arteconcert’s Piano Day」
https://www.youtube.com/watch?v=P87HnxqFTEw

パリのオペラ・コミックで開かれた
ARTEコンサートのピアノデーの特別コンサートで、
ディルカがバッハとミニマリスト音楽を交互に弾いていく
というプログラムで、
YouTubeのコメント欄から引用した曲目をいちおう紹介しておくと
M1 [ 00:01 ]  J. S. BACH : Prelude in B minor, BWV 855a Arr. Siloti
M2 [ 02:14 ]  PHILIP GLASS : Etude 2 
M3 [ 05:54 ]  J. S. BACH : Prelude in C major, BWV 846
M4 [ 08:10 ]  C. P. E. BACH : Solfeggietto in C minor Wq. 117/2,
      H. 220
M5 [ 09:02 ]  PHILIP GLASS : Etude 9
 M6 [ 10:38 ]  J. S. BACH : Prelude in F minor, BWV 857
 M7 [ 12:42 ]  PHILIP GLASS : Mad Rush
 M8 [ 17:44 ]  J. S. BACH : Keyboard Concerto No. 5 in F minor,
             BWV 1056 Arr. Cortot
 M9 [ 20:26 ]  MOONDOG : Art of the Canon, book I, no. 8
 M10 [ 21:46 ]  MEREDITH MONK : Railroad
 M11 [ 23:32 ]  MOONDOG : Barn Dance
 M12 [ 24:42 ]  J. S. BACH : BWV 208 Cantata “Sheep may safely
              graze”
 M13 [ 26:36 ]  PHILIP GLASS : Tirol Concerto, Movement II
 M14 [ 30:40 ]  J. S. BACH : Prelude in C minor, BWV 847

このライヴの後まもなくして彼女は最新のアルバムを発表します。

M2,M5,M7,M10,M11は、そのアルバムにも収録されています。
でもアルバムで聞いた時の各曲の印象とはずいぶん違うのです。
一言でその違いを表現するとしたら
感情の入れ込み方がライヴ演奏の方が激しい。。。
(彼女の表情も含めて)激情に身を任しているかのように荒々しくなるのが
ちょっとドキドキする。。。
30分余りの演奏時間に14曲を一気に弾ききった
彼女の鼓動を感じながら、私も一気に見終えてしまいました。。。

アルバムのレコーディングが2021年2月なので
その間の変化なのかもしれない。。。
バッハ親子の作品の間に対置した時のバランスをとったのかもしれない。。。
そんなことをつらつら考えましたが
おそらくはそんなに外れてはいないでしょう。

最新アルバムのラストナンバーは
フィリップ・グラス:エチュード 第5番に
パティ・スミスの「Paths That Cross」(作詞フレッド・スミス)
の詞の朗読が重ねられているのですが
その詞のTo bridge the clouds(雲の橋渡しをするために)という一節に
心惹かれました。
むろんバッハと20世紀のミニマル音楽との「橋渡し」
ということはありますが
「雲の」というのがくっついているのがいいな~と思えたのです。
それを終始フワッと弾かずに、スリリングに弾ききった彼女の意図を
私なりに汲み取ったのでした。。。

だからライヴ演奏を見ているときの、何と言ったらいいのか
「走馬燈」のようなイメージの流動ないしは変容が
私にはたまらなく「無常」な印象として残りました。
そして留まることなく生々流転していくイメージの連鎖を描こうとした
彼女の演奏は、私の心に「雲」として定着していきました。
ただその「無常」は、
もしかするとバッハとミニマル音楽の偶発的なマッチングによって
生み出されたものかもしれないし、
とりわけグラスの曲が数多のピアニストに引き起こす快感が
誘発するものだったのかもしれないな~などと思ったのでした。。。

コメント ※編集/削除は管理者のみ

  1. ゲオルグさん、こんばんは。
    ARTE Concertのチャンネルはいろいろなジャンルの興味深いライヴがあるので登録していましたが、この動画は完全に見落としていました。
    先程、一気に惹き込まれるように観てしまいました。良い演奏をご紹介いただきありがとうございます!

    お礼に情報を1つ。

    https://www.life.lk/foodfactor/In-Conversation-with-Shani-Diluka/20539/33

    My new Album “Pulse” is about the heartbeat of the world,  around American Minimalists (Glass/Adams) connecting also with Jazz and Electro music like Daft Punk. My next album will be around Bach, the divine and greatest architect of  Music.

    ということで、次のアルバムのテーマはバッハ(とその周辺)!
    このライヴ映像はまさに”Pulse”と次のプロジェクトの橋渡しなのかもしれませんね。

    • 眠り猫さん
      おはようございます

      レスありがとうございます!
      まさに「一気」という感じがするプログラムでしたよね。おそらく時間の制限もあったのでしょうか。雲の動きを若干早回しで見ている気はしましたが、1曲1曲が短い分、走馬燈のような感覚は強まっているようにも思われました。彼女のライヴ演奏をこれだけまとまったかたちで見るのは初めてだったので、ちょっと感激してしまったところもありました。

      それとご紹介の記事、拝見しました。ありがとうございます。彼女、若手の部類かと思っていたら、ナイトの爵位をお持ちなんだそうで。。。やはりそのあたりもルーツのスリランカとの橋渡し的な役割も果たしている人なんだな~という発見が改めてありました。
      また仰るように、次のアルバムのヒントも公表されていて「バッハ(とその周辺)」のかっこの中が気になります。きっと彼女のことだから、そうきたか~的なプログラムを考えているのでしょうが、「越境」や「変容」を感じさせてくれるものになるだろうと期待が高まります。個人的にはヘンデルとかブクスデフーデとかといったバッハ一族以外の人の作品を彼女ならではの視点で対置させてほしいなんて言ってみたりして。。。

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